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四話

 夏休み中、みなみは毎日のように図書館へと通った。

 午前中にやったところでわからなかったところを悠里に質問し、悠里から解説してもらったことを踏まえて午後の勉強につなげる。

 今まで苦手だったこと、理解できなかったところも悠里に教わることで一気に解けるようになった。


 ある日のことだった。

「みなみちゃん、英単語って暗記してる?」

「一応、頑張ってはいるつもりです」

「そっか、じゃあ世界史はどう?」

 悠里からの不意の質問に、意図がわからないままでみなみは偽ることなく答えることにした。

「世界史は、流れで理解した方がわかるからあまり暗記はしてない、かも」

「うんうん、いいね。

じゃあさ、これからは英単語もそうしよう」

 更に悠里の言葉の真意がわからなくなり、みなみは首を傾げることしかできない。

「わかりやすいところからやってみようか。

fortuneの意味は?」

「運」

「いいね、じゃあfortunateは?」

「えっと…幸運」

「fortunately」

「幸運にも」

「じゃあその単語を否定して」

「え、っと…」

「今、みなみちゃんはきっとフレーズにして否定文を作ろうとしなかった?」

 図星だった。というよりそのようにするものなのだという考えしか起こらなかった。

「今の単語を簡単に否定する。語前に否定語のunをつければいい、

unfortunatelyとすればそれだけで否定になるでしょ?」

「あ、そっか…」

「英語も歴史と同じで、言葉には意味があるんだよ。

次は…discover」

「発見する」

「正解。じゃあなんでdiscoverで発見するって意味になるかは考えたことある?」

「単語に理由なんてあるんですか?」

「あるよ、おおありだ。

disは打消しの接頭辞、coverは覆うって意味。覆っているものを打ち消す、つまり覆わなくするってことが見つけるって意味につながるんだ」

 その説明をされているときのみなみの頭はこれまで教わってきた英語についてのすべてを覆すかのような内容だった。

「こういうの、他にもいろいろあるけど…一つ一つ丸暗記してると大変だよ。英語も漢字の熟語と同じで意味を持ってるものがあるから、一つずつ覚えるんじゃなくていろいろ紐づけて覚えていこう」

 それまで英語は暗記科目だとばかり言われていた。暗記することが苦手だったみなみにとっては衝撃的な解説に頭を打たれたような感覚があった。

 そしてそれ以降、あまり得意ではなかった英語も苦手意識がなくなった。

 他にもいろいろなことを悠里は教えてくれた。

 過去問をたくさん解いていくことは大事だが、もっと大切なことは解説を覚えてしまうくらいに読み込むこと。

 難しい問題は二分以上止まってしまったら飛ばして次の問題に行くこと。

 マークシートで困った時のこと。

「俺の友達がさ、センターの数学で一分の一ってマークしちゃってさ。

適当に塗るにしても全部1はダメだよ。ちゃんと考えてマークしないと」

 そう言ったときには思わず笑ってしまったが、いざセンター試験の問題を見てみるとそういうテクニックも必要なのだとわかった。


 夏休みも終盤に差し掛かったころ。

 既にみなみは全ての課題を終え、夏休み中にやろうと思っていた別の問題集も一通りは全てこなしていた。

 わからないこともその時点ではなくなっていた。

 それでも昼になれば一緒に食事をしながら話をしてくれる悠里に会いたいがため、みなみは通学を続けていた。


「夏休みもうすぐ終わるね」

「そうですね」

「宿題は勿論終わってるよね?」

「はい、悠里さんに見ていただいたので…」

「いや、苦手な科目でもよく一人であれだけ勉強してたなと思うよ」

 いつものように昼食をとりながら話をする。最初の頃が嘘のように、みなみは悠里と話すことに緊張を感じることはなくなっていた。

「ところでさ…一日だけ、ここじゃないところで会わない?」

 しかしそれまでとは全く違う悠里からの誘いに、みなみの心臓は最初の頃のように高鳴ってしまった。

 ここではないところ、というのはどこのことだろうか。校内の別の場所に行く、というような簡単なことではなさそうだ。

「せっかく夏だし、休みだし、課題も全部終わったしさ。

一日だけ遊びに行こう」

 今まで夏休みの期間中、ほぼ毎日のように会っていた。しかしそれは平日限定で、土日や休校日には出てくることもなかった。

 それが普通だと思っていて、当たり前に過ごしてきた。

 連絡先だって知らない。悠里とはこの場所で会うだけの関係だったはずだ。

「行先は俺に決めさせてほしい。明日、土曜日だし…どうかな?」

すぐに返事をすることはできなかった。行きたい、休みの日の悠里に会ってみたい、という思いはあった。しかしそれを簡単に口に出すのがみなみにはどうしても恥ずかしいことのように思えた。

「あ、の、親に聞いてみないと…もしかしたら、予定があるかもしれないから…」

「そうだよね、急に無理言っちゃったかな。

じゃあ俺の連絡先渡しとくから、家に帰ってからでいいから返事頂戴」

 そう言って悠里はいつものサンドイッチを買ったレシートの裏に電話番号とメールアドレスを書いた。独特の癖字で書かれたアドレスはシンプルなもので、一目で暗記できそうだ。

 みなみはそのレシートを大切にしまいこんだ。




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