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笑木屋の夜ご飯  作者: NiO
5/6

Viandes ~肉料理~

「さあ、どうしたものか、ね……」


 ここはカーニヴァル王の住まう城……その地下。


 病的なまでに白い肌と、闇と見紛う程に黒々とした長髪と瞳。

 目の下には縁どりした様な隈が出来ているぬ少女ーヴァルギリア・ボトムレスブラックーは、薄暗い牢屋の中(・・・・)で、壁にもたれ掛かるように座りながら、そんな言葉を呟いた。

 膝の上では木の手錠で繋がれた両手をぐっと握りしめている(・・・・・・・・・・)


 少女はゆっくりと瞼を閉じる。

 思い出すのは、夜御飯(・・・)を作ってあげた3名の顔。


 ……後片付け(・・・・)は完璧だったはずだ。

 全員、食事の場所はバラバラであったし。

 笑木屋店内でご馳走(・・・)した人達には、彼らが欲しがる食事を別所に置いて帰宅したので、二人が人に見つかったのは店から数キロ離れた場所でのはずだ。

 加えて、3人とも、別に死んでない(・・・・・・・)

 各々が大事にしていた物と、彼らの精神とを、回復不能になるまで(・・・・・・・・・)破壊しただけだ(・・・・・・・)

 現代日本ならともかく、この世界はそんな事をした犯人を探すためにマンパワーを割くほど優しくはない。

 そう確信していたのだが、イレギュラーが発生してしまったらしい。


「……十中八九、ショコラの仕業、だろうね。

 魔王様攻略しながらの王様攻略は無理だから……今回は王子様を(たぶらか)したんだろう」


 誑したも何も事実なのであるが、ヴァルギリアは何か気に入らないことでもあるかのように舌打ちをする。

 王子様、こと、サラブレッド・カーニヴァル13世は最後の『ごちない!』メイン攻略キャラであった。

 これに隠しキャラである『王様』サラブレッド・カーニヴァル12世と、『魔王様』オルドゥーヴル・サヨナラーの2名を加えて、ごちない!攻略キャラは全てとなる。

 因みにヒロイン(ショコラ)が誰とくっついても、ヴァルギリアには悲惨な運命が待っている。

 バラされて臓器を売られたり、中年貴族の性奴隷になったり、火炙りにされたりとバラエティーに富んでおり、その末路には多くのごちない!ユーザー(ごちなイスト)も『ちょっとやり過ぎではないか』と思わず同情的せざるを得ない程であった。


「おや、噂をすれば」


 ヴァルギリアが、ふいと視線を写すと。

 この国の次期最高権力者である、サラブレッド・カーニヴァル13世が、姿を現したのであった。


「ほう、貴様がヴァルギリア・ボトムレスブラック嬢か。


 此度、捕まった理由は分かっておろうな」


 年齢は18歳のはずなのに、身長は140cm。

 金髪金眼のやんごとなき人は、トレードマークでもある扇をパタパタしながらそう声を掛ける。


「いえ、皆目検討つきません」


 ヴァルギリアはあくまでもとぼけるが、王子は笑いながら手を振った。


「そかそか。

 まあ、どうでもいいのじゃ。

 お前はショコラに仇為すものじゃろ?


 ……ならばどのみち、死んでいただこう」


「……なるほど」


 当初は自身の(嘘の)潔白を主張する予定であった彼女は、それを諦める。

 どのみち、殺すつもりらしい。


「さて、何か申し開きはあるか?」


 少女は少し考えると、「であれば」と前置きをして、言葉を続けた。


「……僕の前世に『ご馳走様が聞こえないっ!』っていう乙女ゲームがあってね。

 好きなキャラを攻略しながら、そのキャラの関連するレストランや料亭を世界一へと導いていくゲームなんだけど。


 君はそのゲームに登場するキャラの一人だ。

 君の持つ能力は『(マネー)』……『持ち金が一定期間経つと10倍になる能力』と言うもの。

 その圧倒的な能力はチョークスリープ・モーターナーヴの『(パワー)』と双璧をなして、後者のファンを『覇道派』と言うのに対して前者は『王道派』なんて呼ばれてたね。

 『のじゃショタ』とか『ちんまい人』とか『扇さん』とか呼ばれていた君だけど、一番の特徴は『最難関攻略キャラ』ってところかなあ。

 いつも呵々大笑してる癖に、訳のわからない選択肢でガンガン好感度が下がるからね。

 意外と心が狭いのかなあ?

 ま、ショタだから仕方ないか……実年齢は18歳だけど。


 さて、解説してあげたけど、ショコラからも聞いてた?」


 ショコラに対する王子の不信感を煽ってやろうと考えたヴァルギリアであったが、果たしてそれはうまくいかなかった。


「……ふむ、なるほど、それがテンセイシャ知識、というやつか」


 王子は笑いながら扇をパチンと畳むと、呵々大笑した。


「詳しくは聞いておらぬ、が。

 そんな情報を伝えなくとも、吾輩とショコラはもっと太い絆で繋がれておるわ!」


 自信満々の王子様に、いやいや、ショコラは魔王様ルート進んでるよ?とは流石のヴァルギリアも伝えられなかった。

 別に優しさからではない。

 そんなことをして、わざわざ自分の寿命を縮める必要はないと考えたからである。


「ところで貴様よ。

 両手に(・・・)何を握っておる(・・・・・・・)?」


 王子様の目が鋭く光った。

 少女は隠すことなくその手を開く。


 手の中にあったのは……手汗(・・)、であった。


「……僕だって、自分が死ぬのは怖くてね。

 手汗くらいは許してくれよ」


「……ふむ、そか、許す。

 そうそう、貴様の所の店員に聞いたんだが、貴様の安息時間は午前の2時から5時の間であるらしいの。

 

 喜ぶが良い」


 少女の軽口に王子は一頻り爆笑した後で……容赦なく(・・・・)告げた(・・・)


貴様の処刑が決定した(・・・・・・・・・・)


 時刻は明日の午前3時……わざわざ(・・・・)貴様の安息の時に(・・・・・・・・)あわせたのだぞ(・・・・・・・)?」


 王子様は、まるで誉められることをしたかのように、胸を張ってそう宣言した。


####################


 時刻は夜の3時。

 カーニヴァル大広場の前には真夜中にも関わらず、公爵令嬢の処刑と言う、そうそう見ることの出来ない娯楽の目撃者になるべく沢山の人々が詰めかけていた。


 少女は十字架に縛り付けられ高々と掲げられており。

 その下にはよく燃えそうな薪が組み上げられている。


「やはり火炙りか……」


 少女がそう呟くのには訳があった。

 ヒロインが王子様エンドを迎えた場合、ヴァルギリア嬢の処遇が火炙りだったのだ。


「ここまでは予想通りかな。

 さて、上手くいけば良いんだけど」


 少女は大きく息を吸い込むと、大声で叫び始める。


「皆さん、これは王子による冤罪です!

 私は、何もやっていない!」


 叫び声は人々の耳には届いても、心には届かない。


「やれ」


 王子様の合図で彼女の足元にある薪が炎を上げた。


「お願いです、信じてください!

 彼は自分の愛する女性のために、無実の私を処刑しようとしているんです!」


 燃え始めた炎の中で必死に無罪を主張する少女を、人々は眼を輝かせて眺めていた。

 というか、冤罪でも何でも、どうでも良い。

 さっさと死んで、私達を楽しませてくれ。

 彼ら、彼女らの多くは、そんなことを考えていた。


「「ぐ、ぐおおおお!」」


 突然。


 少女の両脇で彼女に槍を突きつけていた二人の王国近衛兵が。

 炎の中に飛び込み、少女を、十字架から助け出したのであった。


 「「「は?は?え?」」」


 困惑する町の人々。


「……信じてくれて、有難う御座います、近衛兵のお二方!」


 解放された少女は、最前線で彼女の処刑を眺めていた、近衛兵も伴わない丸腰の王子様の元へ、ツカツカと歩み寄る。


 突然のドラマティックな展開に、観衆は息を飲んだ。


 ……因みに観衆の皆は少女に眼を向けていたため誰も気付かない。


 近衛兵の二人が、何故か恍惚の表情でヴァルギリアを縛っていた()をムシャムシャ食べていることに。


####################


「やあ、形勢逆転だね、サラブレッド君」


 王子の前で立ち止まった少女は、彼以外の誰にも聞こえないような小さな声で呟く。

 

「な、なんじゃお前は……これだけの兵と観衆がいる中で、一体何ができると……」


「私は、貴方を認めない!

 こんな、人間を人間とも思わない貴方のような人を……私は王子とは認めない!」


 今度は大きな声を上げた少女は、王子に向かって、平手打ち(・・・・)をする。


「き、き、貴様アアア!

 純然なる王族たるこの私に向かって手を上げたなアアア!?


 許さぬ、殺してくれと哀願するまで拷問したのち、改めて処刑してやろう!!」


 カーニヴァル13世王子が声を荒げていると、遠くで見物していたサラブレッド・カーニヴァル12世王を守る役割を負っていた近衛兵達が、王子を助けるために一斉に少女へ走りよってくる。

 そして。


「ぎ、ギャアアアアアアア!?」


 空高く右腕が舞い、悲鳴を上げたのは……何故か(・・・)王子の方であった(・・・・・・・・)


「あ、え?え?

 こ、これは……」


 思わず王子の右腕を切り落とした近衛兵は、自身のしたことに何故か驚いており。

 そして。


「そ、そうだ!

 う、うむ!

 無実の少女を処刑しようとする貴方を!

 え、えーと、私も王子と認めることは出来ない!」


 まるで後付けのような言い訳をしてきた。

 ……何故か口許に(・・・・・・)涎を浮かべ(・・・・・)王子の右腕を(・・・・・・)必死に確保しながら(・・・・・・・・・)


「その通り!

 無実の者を陥れる王は、必要ない!」


「次に犠牲になるのは、私の妻や子供たちかもしれない!」


 王子を囲む近衛兵たちの言葉に、観衆達は驚愕の顔を浮かべ。

 公爵令嬢の処刑よりも、ずっと面白いショー(・・・・・・・・・)に大声をあげた。


 

 ……勿論、観衆の皆は誰も気付かない。


 近衛兵達が、何故か全員涎を(・・・・・・・)垂らしながら(・・・・・・)王子へと対面していることに。


 そして。


「王家サラブレッドの塩揉み肉をレアで提供してみました。


 (ほっぺた)が落っこちるくらい美味しいよ」


 少女が静かに(・・・・・・)独り言を(・・・・)呟いたことにも(・・・・・・・)


「囲め囲め!」


「おいそこ、逃がすな!」


 王子が滅多刺しにされる中、少女は近衛兵のいなくなったカーニヴァル12世王に歩み寄ると、またもや、平手打ちを。


 ……手汗が乾燥し(・・・・・・)塩まみれになった(・・・・・・・・)手による平手打ちを(・・・・・・・・・)、敢行した。


 

 因みに、少女の能力の名は『(ヤミー)』。


 『なんでも美味しく食べさせることが出来る』というその能力は。


 食材に塩を(・・・・・)振りかけるだけで(・・・・・・・・)その威力を発揮する(・・・・・・・・・)


 訳がわからず目を白黒させているカーニヴァル王に、少女は理解不能な言葉を吐きかける。


「さてと。


 お代わりも作ったから(・・・・・・・・・・)どんどん食べて(・・・・・・・)……じゃなかった(・・・・・・)どんどん(・・・・)食べられてね(・・・・・・)


###################


 恐ろしい鉄火場から逃げ出したサラブレッド・カーニヴァル13世は、真夜中の森の中で溜め息を吐く。


 訳が、分からない。


 父である王の元へ、近衛兵が半分ほどバラけてくれたお陰で、彼は手薄な囲みからなんとか森の中へ姿を隠すことに成功していたのだった。


 因みにカーニヴァル12世王は民衆の中へ投げ込まれ、四肢をバラバラに切り裂かれ……食べられていた(・・・・・・・)

 訳が分からない、訳が分からない、が。


 ……あの女……ヴァルギリア・ボトムレスブラックは必ず殺してやる!

 王子が復讐を誓っていると、彼のお腹が、グゥ、と鳴った。


 腹が減っては戦はできぬ。

 王子は、先程からずーっと(・・・・・・・・)美味しそうな匂いを(・・・・・・・・・)発していたそのお肉に(・・・・・・・・・・)がぶりと齧り付く(・・・・・・・・)


 少し筋っぽいが、噛み締める度に弾力のある肉は、若いサラブレッド(・・・・・・・・)のようだった(・・・・・・)

 赤身の強い旨味が口の中で爆発したかと思うと、そこにうっすらと残る霜降が下から支え奥行きを出し、味を何倍にも引き立てる。


 あまりの美味しさに、失禁した王子であったが。

 すかさず理性を取り戻して考える。


 お肉は、まだまだある。

 先ずは手を。

 次は足を。

 その次は、腹肉を。

 そして(・・・)その次は(・・・・)ーーー。


 うむ(・・)

 お肉は(・・・)まだまだある(・・・・・・)



 ……こうして、笑木屋の夜は、更けていく。


 最期にそこに残った物は。


 ……嗚呼(・・)最期にそこに(・・・・・・)残った物は(・・・・・)ーーー、

サラブレッド・カーニヴァル13世。

カーニヴァル王国次期国王。

能力は『(マニー)』、持ち金を無尽蔵に増やしていくチートキャラ。

『のじゃショタ』、『ちんまい人』、『扇さん』、『サンドバッグさん』など、呼び名は多数。

18歳だけど身長は140センチで、精神年齢もそのくらい。

誰かの好感度を上げる選択肢を選ぶと、何故か王子の好感度が下がる。

最難関攻略キャラだけど、まあ王子だし、仕方ないね。


サラブレッド・カーニヴァル12世

カーニヴァル王国現国王。

別名『ドMさん』『隠れ不人気』。

能力は『(ノーブル)』、王子の上位互換。魔王様同様、条件を満たした時のみ攻略が可能となる。

具体的に言うと、『メインキャラ4人のうち3人の好感度を100%にした場合』、攻略可能となる。

これだけならなんということもないが、通常メインキャラ4人中3人の好感度を上げる場合、4人中1人に選ばれる、『切り捨てられキャラ』は、大体、最難関攻略キャラである王子様になる。

というか、王子を切り捨てない場合、難易度が2つくらい上がる。

何が言いたいかと言うと。

プレイヤーから見ると、自分の息子であるカーニヴァル13世王子を『変態野郎』『口が臭い』『死んでほしい』などボコボコに非難しまくった少女を、王様が好きになるという、『これ良いのかよ』的な歪んだ性癖に思いを馳せさせてしまう仕様となっている。

上記のような仕様のため、シナリオが良いにも関わらず、人気投票では毎回下から二番目が定位置の可哀想な人。

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