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ボクは精霊の腕輪、の精霊

作者: 青霧

製作者様は言いました。いいこでがんばれよ、と。




真っ暗闇に閉じ込められて3年目です。

孤独死しそうです。そういやボクは死ぬことがあるんでしょうか。

製作者様は破壊されることがない神器とか言ってましたけど。


あ、なんか来ました!音がします!感激です!

涙が出ちゃいます!出ないけど!

なんかガキンガキンって金属同士がぶつかり合う音がします!

最後にズバッて音がしました!


なんか静かになりましたけど…そろそろ何かありませんか…。


カチャ…カチャカチャ…カチャ…。


お、おおおおこれは!


カチ…


ついに暗闇から脱出です。


「はじめまして!精霊の腕輪といいます!」


第一印象はとても大事です。人生を左右します。

この日のためにいっぱい練習してきたんですよ。


「うわあああ!」


カチッ


ザスザスザスッ


「え…」


あ、足元から大量の槍が出て男の人が…し、しんでる…。

せっかく来てくれたのに…!


ああ、宝箱さん閉めないで、まってええええええ!


ガチャン!


しくしく…。




それから2年が経過しました。

そろそろ引きこもりから脱出しなければなりません。

ボクは好きでニートしているわけではないのです!

これは社会問題なのですよ。断固戦うべきです。


ヒュッザクッ ボフッ


おおきたわああ 誰かきた!

しかもサクサクの仕事ぶり!期待してもいいでしょ?


カチャ…カチャッ


今度は失敗しません。ボクもちゃんと成長しています。小声です。


「はじめまして、精霊の腕輪といいます」


しかし目の前にいたのはエルフの戦士二人とシーフ、アーチャーだったのだ…。




ボクは今、エルフの国の治療師をやっているエーギルさんという人と一緒にいます。

精霊の腕輪は魔力を2倍に増幅するという高い性能を持つ代わりに

高い魔力を持った者でないと契約出来ず装備出来ない事、

契約すると死ぬまで解除出来ないということを説明したところ

エルフの国で一番仕事をしている治療師エーギルさんに回されたのです。

その際に腕輪に治療の魔石というものを嵌めてもらいました。

エルフの国にある物の中でもとても大きな魔石だそうです。

精霊の腕輪の効果により治癒力が5倍、自然回復力も大幅向上!

ボクは出来る子なのですよ。

魔石スロットはあと一つあります!アピールは大事なのです。


エーギルさんはいつも治療院で働いています。

暇な時は暇なのですが、忙しい時はとても忙しいのです。

ボクのおかげで四肢欠損まで治療可能となったエーギルさんは

ダンジョンでの怪我の治療で師走並に大忙しなのですよ。


でもその日はいつもと違いました。

その日は収穫祭で皆が浮かれていました。

そんな中、エーギルさんの暗殺が起こったのです。

犯人は、エーギルさんの急上昇を恐れた治療師のライバル、ブリュッセさんです。

でもそれを知っているのはボクだけ…暗殺は成功したのです。

ブリュッセさんは証拠隠滅するためにボクを破壊しようとしました。

でも全然歯が立ちませんでした。

だから、ブリュッセさんはボクを箱に封印し、地下組織に売り渡したのです…。

しかもわざわざスロットに転移石を嵌めて…。




ボクは、エーギルさんがせっせと魔法を使ってくれたおかげでちょっと成長していました。

スロットが一つ増え、また装備の性能もちょっとだけ増えたのです。

ブリュッセさんはそれに気付かずスロットを潰すつもりで嵌めたみたいですけれど。

転移石とは、ダンジョン内で使うとダンジョン外の安全な転送ポイントに戻る消耗品の魔石です。

精霊の腕輪にセットすると行ったことのあるダンジョンの転送ポイントに自由に移動出来るようになります。

冒険者以外には正直使い道の無い効果ですよね…。がっかりです。




半年が経過しました。

だいぶ遠くまで運ばれた気がします。

船に揺られた感覚があったため、大陸を渡ったかもしれません。

久し振りに見た景色は、そこはオークション会場でした。

競り合った結果、ボクを買い取ったのは魔法使いのお姉さんでした。


「はじめまして、精霊の腕輪です」


「へえ~、早速だけど魔力を限界まで上げたいの。やり方を教えてくれる?」


「魔力の魔石をスロットに嵌めてください。質が良いほど増幅されます」


久し振りの説明の仕事です。

残念だけどエーギルさんの件についてはどうしようもなさそうです。


「そう…じゃあアレを使おうかしら」




「ふふふ、いつまでも主席ヅラしているんじゃないわよ…。

 これからは私が主席、よってこの魔石も私のものだわ」


現在、大きな館に忍び込んでいます。たぶん宝物庫です。

杖を探しているみたいです。


「あったあった、これだわ…この魔石があれば!」


杖に嵌っている魔石を無理やり腕輪に接触させてきました。

精霊の腕輪はとても高性能、魔石を取り込むことに成功しました。


「この品質の魔石ですと、魔力を5倍にいたします。

 精霊の腕輪の元の性能と合わせると10倍になります。

 注意してご利用ください」


「くくく、凄いわ…。魔力が漲ってくる!」


お姉さん、説明を聞いてください。

あと、いくらなんでも調子乗って正々堂々と脱出しないでください。

ほら、警備兵達に見つかったじゃないですか。


「死ね、炎の演舞フレアサークル!」


あっ




街がクレーターになりました。

炎の演舞フレアサークルは相手を中心に魔力に応じて大きく円状に高熱の炎を呼び出す魔法。

フルパワーで撃ったら本人ごと焼き払うのはわかっているのに…。

でも本人は最後まで楽しそうでした。

ご冥福をお祈りいたします。




街が廃墟になってから1年後、私を迎えに来たのは死神でした。

…すいません、違いました。スケルトンでした。

最初はほんとに死神だと思ったんですよ、びっくりしたんですよ。

ボクは彼?に拾われて向かったのはダンジョンの中でした。


ダンジョンの中は不死者の街になっていました。

ボクはそのまま彼女に献上されました。

彼女は吸血姫カーミラ、このダンジョンの支配人だそうです。


「はじめまして、精霊の腕輪です」


「こちらこそよろしくお願いいたしますわ」


驚いたことに彼女はとても優しい人でした。

彼女は人生に疲れた者や道半ばに倒れた者、未練を残して成仏出来ない者を眷属とし、

このダンジョンの中で保護していました。

ボクの治癒効果はヴァンパイアだろうがスケルトンだろうが回復出来ました。

聖なる属性とかいう無能な効果は無いので当然です!

そもそも聖とか不浄ってよくわからない属性ですよね。


話がそれましたね…。

彼女らはここでのんびり死後の人生を楽しんでいます。

たまに使い魔を放ち、外の様子をみんなで見て懐かしむのが趣味でした。




それから200年の時が過ぎました。

ボクもあれから成長し、スロットも二つ増えています。

100年の時に記念に召喚の魔石を嵌めていただきました。

これにより召喚者・眷属の管理能力が数倍になり、更に召喚者・眷属の強化がなされました。

その日は大いに祝っていただき、誠に感激いたしました。

また、精霊の格が上がったことで精霊の語らい(精霊ネットワーク)により

情報交換出来るようになりました。

そこで得た情報をカーミラ様へ伝えるのもボクの役目。

興味深く聞いていただき、退屈しないとおっしゃられています。




更に300年が経ちました。

この街では時間がとてもゆっくり穏やかに流れます。

人口もほとんど増えていません。

これが平和というものなのでしょう。


製作者様にはいまだ会えていません。

でも製作者様、伝えたいことがあります。


今ボクは優しい方々に囲まれ幸せです、と。


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