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意味

危機感を感じたので投稿。まだしばらく間が空きそう。

 微睡んでいた私の耳を、電子音が叩く。

 夜中でもマナーモードには決してしない携帯の電話番号は結構たくさんの人間に教えているし、深夜に係ってくることも稀ではない。掃き溜めのような雰囲気の女子校で遊んでいる生徒に、まともに避妊具を持っている奴とセックスする娘は少ない。だからよく泣きそうな声で「薫ちゃん!どうしよぉ……生理が来ないんだケド……」なんて事もある。

 そんな悩みを聞いてあげるのも仕事の内だし、私は仕事が生き甲斐だから生徒用の携帯を一台持っている。だけど今日は違った。

 私の携帯の着信は、三種類ある。一つ目は普通の娘用、一般的な思春期の子供らしい悩みを持っている生徒。二つ目は不良娘用、遊びが過ぎて堕ろさないといけないことになりそうな生徒。

 そして三つ目、危ない娘用だ。精神的に不安定な娘や、家庭環境が度を過ぎて良くない生徒。この娘たちからの連絡が、遺言になりそうだった事もある。

 最近ではその着信音には一人しか設定されていない。

 海崎柊華。

 可愛らしい見た目をしているのに、全体的に暗い雰囲気の少女。初めて会った時から気が付いたのは、目に力が無い事。大きな瞳には、諦め切ってしまった何かが漂い、光は映っていなかった。

 弱そうで抱き締めてあげたくなるのに、抱き締めたら折れて壊れて消えて行ってしまいそうな娘。


「もしもし、柊華ちゃん?こんな時間にどうしたの?」

 出来るだけ気軽に、柔らかく声を掛ける。

「……寝てた?ごめんなさい。声聞きたくなったから電話したの。ちょっとお話ししようよ」

 普段と違う、ちょっと甘えるような口調と、若干掠れた声。

「いいわよ、何を話そうか?」

 少し空白の時間。軽く鼻をすするような音が聞こえて、泣いているのだとわかった。

「…………ねぇ、楽しい話、してよ」

「分かったわ。この前近所にいた猫の話でいい?」

 ちょっとの間をおいて、小さく「うん」と聞こえた。




 私と彼女はしばらく他愛もない話で盛り上がり、笑っていた。あの子の笑い声はどこか物悲しい感じがした。

 電話越しの小さな笑い声の裏に、疲れと諦めがあった。

 数年前に自殺未遂をした生徒が似たような声で笑っていた。

「ふふっ……ふぅ、そろそろ切るね?」

「柊華ちゃん、何かあったの?」

 また少し黙る。「はあぁぁぁ」と大きな溜め息の後に、

「バレてた?」

「最初からね、ちょっと様子が変だと思ってたからね」

 話してみる?と促すと、幾分か弱々しくなった声で話し始めた。




 予想以上だった。

 思っていたよりも彼女の心は崩れかかっていた。

「やっぱり、痛いね。男の人ってさ、女の子って不利だよね。不公平だよね」

 ひどいよね。と呟く声は、今まで聞いた中で一番、悲しそうだった。

 そろそろ切るね。と彼女は言って、

「ばいばい先生、……またね」

「えぇ、またね」

 そして、電話は切れた。

誤字脱字訂正。コメ。ブクマ、まってます!お願いします。

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