今までにない、災厄の日。
夜遅くの外出はお控えください。
結局、昨日は寝たり起きたりを繰り返して一夜を過ごした。その内にしっかりと寝たみたいだったけど、滅茶苦茶頭が痛い。
溜め息をひとつ。
「おなか減った……」とぼやきつつ台所へ行き、朝食の準備。途中で床に落ちていたスウェットを着る。何で全裸で寝ていたというのか。若干風邪っぽい気もするし。
普段よりも多めの朝食。
箸でチマチマと鮭を切り崩しながら、二つほど来ていた留守電を聞く。
一つは保健室の結城先生から。
「柊華ちゃん?帰る時は何か一言言ってほしかったかな。おかげでアタシあなたの担任に怒られちゃったのよ?『海崎の面倒はあなたに全部任せたはずです!』ってね。まぁどうでもいいんだけどね?ところでアナタ朝霞さんのこと叩いたんでしょ?大丈夫?週明けは登校前に保健室来る?空けとくからね、じゃ、おやすみなさい」
ちょっと、嬉しい。
こんなに心配してくれる大人はあんまり居ないから。
そして予備校からも一本。
単に休むならば連絡しろとだけだった。
「はぁ……、先生に会いたいなぁ…………」
ま、日曜だから無理だけど。
というか、それどころじゃ無く。
「おなか減ってるとか気のせいだったわ……」
すごい朝食余った。
外に出ると、珍しいぐらいに暖かい日差しが降り注ぎ、厚手の上着を着たことを早くも後悔させられていた。
学校とは真逆の方向に歩き出す。
商店街からは大きく外れ、近年空家の目立つ区画にひっそり佇んでいるビル。そこに入っているテナントは微妙に怪しい貸金業者とやる気のなさそうな酒屋、品揃えの悪い本屋。そして私の行く予備校。
実績は有るから家の許可も下りているが、本当に怪しい。
ただ、授業だけはなぜか解りやすいので来ているのだ。それだけ。
お昼の三十分の休憩をはさんで、夜の十一時。やっとの帰宅。
並んでいる街灯はほとんどが明かりを灯さず、光を放っていてもどこか心許なく、不安を煽るように点滅している。
午前中の暖かさは何だったのかと言いたくなるような冷気が肌にしみてきて、
「早く家帰ろう……」
近道を選んだ。
人気のない裏通り。
街灯の数はさらに減ったけれど、だいぶ早く家に着ける。だから。
急いでしまったのだ。
暗い夜道に対抗するように、イヤホンを着け、大音量で音楽を聞き流していたのも悪かった。
夜道に響く、低いエンジンの音。
気付けたのは、真後ろで起こった急ブレーキ特有の甲高い音。
次の瞬間に現れたのは乱暴にドアの閉じられる音と共に、タバコ臭い車内。
無理やり引っこ抜かれたイヤホンのせいで耳の穴が痛い。突如耳の中に流れ込む雑音たち。
「上玉じゃネーカ!」
「いいねェ!カワイイねェ!」
「はよクルマ動かせやァ!」
「おおぅ!そそるねェ!」
は?
「とりま、オトしとけ」
「ウス」
「ッッが!?」
首を絞められる。
息ができない。
息が…………ぁ……――――。
次の話、多分この作品で一番えげつなくなる予定なのでご注意を。




