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いつもと同じ、最悪の日々(2)

 保健室で、先生との雑談を楽しんでいる間に、制服は洗濯乾燥機によって綺麗になって乾いていた。いつまでもジャージで居るのも嫌なので、さっさと着替える事にする。

 私の成長はとっくに終わったらしく、中高一貫のこの学校の制服は中三の頃から買い替えてはいない。すっかり体に馴染んだ制服は、乾燥機の熱を持っていて暖かい。

 その温もりが、暖かみの少ない世界から守ってくれるような気がして、少しだけ、心強かった。

「バイバイ、先生。……コーヒーありがと」

「……ん」

 ひらひらと手を振って応えただけだが、それすらもいつも通りだった。


 校舎から出ると、すでに日が傾いており、西側のビルの狭間には夕焼けのオレンジと、夜の深いブルーが混じり合う美しい紫。そんな風景が目に映る。

 服の温もりに包まれて、どことなく安心した気持ちの私は、学校を後にした。




 帰宅したのは、十一時を回ってから。

 放課後には予備校に行くことを家から指示されているので、行く場所だけは自分で選び、通っている。正直、気は進まないが、それを断ったら一人暮らしを取り消される可能性があったので、断るのは無理だった。

 少し古いが、独り暮らしには広い1DKのマンションの一室。選択の自由もなく与えられたとはいえど、私だけの空間だ。


 エントランスには管理人が所在なさげにしていて、私が通ると声は出さずに頭だけを軽く下げた。四回分の階段を早足で上がり、部屋の鍵を開ける。「ただいま」と誰も居ない部屋に向かってつぶやいた。

 帰りに寄ってきたコンビニの袋をテーブルの上に投げ出し、ついでに制服を脱ぎ散らかしていく。

「ふぅ……」とため息をひとつ。

 私しかいない室内は空気が冷たくて、体温が奪われていく、じんわりと末端から冷気が這入りこんでくるような感覚が火照った体に気持ちいい。

 指先が冷たくなり始めてから動き始める。椅子に掛けてあった厚手のパーカを被るように着ると、冷たい空気がさえぎられ、代わりに洗剤と柔軟剤の香りに包まれる。

 近くのスーパーで買える潜在と柔軟剤は、安くて、質が良いとは言えない。だけど、懐かしい匂いがして安心できる。小さいころの、両親と一緒に暮らして、笑い合っていた時を思い出す。


「……ちょっと、冷えすぎたかな」

 クスン、と鼻を鳴らしてからコンビニの袋の中身を取り出し始める。

 最近のコンビニのおかずは結構美味しい、私のお気に入りは豚の角煮だ。中学の時に家の料理係の家政婦が、長時間かけてじっくりと軟らかくしていくんですよ。と話していたので、手間がかかることは知っていた。

「いただきます」

 電子レンジでチンしたごはんとインスタントスープ、豚の角煮。

 そんな簡単な夕飯を音のない部屋で黙々と食べる。

 さみしいようで、もう慣れてしまった日常。

「……ごちそうさまでした」



 シャワーを浴びて、スウェットの上下に着替えて、さっさとベットに潜り込む。



 そして私は夢を見た――

次の話短いです。

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