いつもと同じ、最悪の日々(1)
私の生きた人生と、死んでから出会った人の死にながら生きる理由を知る物語
世の中なんて糞ばっかだ。
朝起きたら、学校や会社に行く、先生や上司に怒られる、同級生や同僚の誰かを虐めて、アイツよりはマシだから、って安心して、満員電車の蒸れた臭いをガマンして家に帰って、親や婚約者に成績や給料をなじられ、枕を濡らす。
皆がみんな、そんな日々じゃあ無いんだろう。
幸せに生きてく人も居ない事は無いんだろう。
でも。
じゃあ。
私は幸せをどこで逃したんだろう。って思う。
少なくとも、トイレの個室に閉じ込められて、臭い水を髪やセーラー服から滴らせている私は、幸せの恩恵を享受できていないようだった。
暑さの残る九月とは言っても、すでに残る日を数日という単位にまで削られていては、肌寒さが感じられる。
今月に入って七回目となるトイレでの水浴びには、個室の外からのくぐもった笑い声がいつも通り添えられている。その笑い声は教室の後ろの列で授業中もチンピラ紛いのカレシに大声で電話を掛けている糞女のものだ。
「……開けてくんない?」
笑い声が一段落ついたようなので、提案を持ちかけると
「ウッセぇンだョ!このブス!」
頭足りてないんだなァ、と思わせるいつもの叫びと共に、今日は良い蹴りがドアに入ったようで、ドゴン!と音が鳴り、鍵と蝶番がミシリ、と悲鳴を上げて。さらにはドアの向こうの少女までもが当て所が悪かったらしく、「ウッ」と短い呻きが聞こえた。
しかしながら今回は、いつもと違うようで。
「鍵開かないし……」
「じゃァねぇ!明日になったらァ?迎えに来てやるかもだからァ。アハハハッ!うケルしッ!」
なにがだよ。ウケる要素無いよ。
「……はぁ、めんどくさ」
*
数分後、私は壁を乗り越えて隣の個室から脱出していた。
*
保健室の結城先生は、三十路手前の知的で若々しさを保った美人だが、空気を読もうとしない、堂々とした人だ。まぁ、そのおかげで気を使わないで会話できるし、こんな阿呆の巣窟のような学校にも居られるのだろう。
「…………臭いわ」
「知ってる。洗濯機貸してよ、空いてるでしょ?」
「まぁそろそろだと思ってたからね、空けてるよ」
行動の予測まで立ててくるのが恐ろしくもあるが、彼女が校内で唯一頼れる大人だった。
「洗剤は?」
「いつもの所よ。今回の理由は?あら?大丈夫?」
私は濡れたセーラー服を肌から剥がすように脱ぎながら、大きなくしゃみをしていた。
「この前の小テストで満点だったのが気に入らなかったみたいね。大して難しくもないヤツだったけど」
ドラム式洗濯機に制服と下着を放り込んで全裸になった私が、
「横の籠のタオルも入れとく?」
と聞くと
「アナタの下着といっしょに洗ったのがばれたら私の首が飛んじゃうわよ」
との、つれない返事を貰う事になった。さらには、
「何か着ないと襲うわよ」という凶悪極まりない言葉が付いてきているので、とっととジャージを着る事にする。
ジャージを着る私を先生の視線が舐め回すように見ているのもいつも通り。
「柊華ちゃん、また痩せたわね」
「そうね」
ちゃんと食べないとだめよ。と小言を漏らしながらも、コーヒーを淹れてくれるあたりは教師としての優しさか。
「ミルク入れてよ?」
「分かってるわよ、砂糖もいつも通りね?」
砂糖二つでミルク多めな甘いコーヒーをジャージの余った袖で包むように持ち、息で冷ましながらすする。
いつもと同じ、嫌な日常の中で、唯一の心落ち着く瞬間。
初投稿です。厚かましいお願いですが、皆様に読んでいただけるよう頑張りたいので、誤字脱字、誤文訂正に限らず様々な意見お願いできたらと思います。