選択問題
夕食の後のひととき。淹れてもらったコーヒーに口を付けながら、点けっぱなしのテレビを眺める。
今日も振り返る。穏やかな天気だった。仕事はそれなりにこなした。弁当も夕食も美味しかった。コーヒーはブラックだから苦い。変わりのない日常。漠然とした安定に、とくに不可もない。なのに内には、澱のようなものが溜まっていく。
テレビのクイズ番組は出題が続いていた。三択ないし、四択の問題。私はあまり得意ではない。逆に選択肢があることで迷ってしまう。今も選んだ答えは不正解だった。
「よーし、終わったぁ」
洗い物を片付けた妻がカップを片手に入ってきた。
「今日は何のクイズ?」
彼女はこの手の問題を得意としている。隣に座ると、画面を覗き込んで言った。
「たぶん、Aが正解ね」
「そうかな」
「そうよ。ほら、合ってた。次はCかな。よし、また正解」
次々と正しい答えを選び、素直に喜んでいる。
妻は賢い人だ。性格も明るく、かわいらしさの残る美人。平凡な私とは不釣り合いな。そんな女性と結婚して三年が経つ。私に不満などない。ただ、不安が積み重なる。私でよいと、今でもそう思ってくれているのか。
テレビを見ていても、意識は妻の方に向いてしまう。
「どうしたの?」
おかしかったのだろう。私は一杯になっていたに違いない。
「…」
「なあに」
言わないといけない気がした。
「…あのさ。今さらだけど、どうして僕と結婚したのかな。君なら僕なんかより見た目が良くて、優秀な人とでも…」
妻は私の顔をじーっと見ていた。私も目を逸らさなかった。私達はお互い、しばらく見つめ合った。
不意に、ぷっと口を吹いた。
「ふふん。そうね、何人かには声を掛けられたかも」
妻は私の頬に手をやり、自信たっぷりに続けた。
「でも、私の選択に間違いはないの」
私は少しの嫉妬とともに安心を覚えた。