表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンMANI  作者: 深水晶
3/3

シフト

 コンビニMAGIRAのバイト・パートのシフトは基本的に朝八時~十二時、十二時~午後四時、午後四時~夜十時、夜十時~朝八時となっている。

 だが、唯一の正社員かつ店長である正義の勤務時間は現在、朝七時~夜十時。十五時間労働で、休憩時間は他のバイトやパートのシフト次第。そのため、正義の睡眠時間は平均五~六時間である。


 午前十一時五十分。店の正面に送迎バスが停車し、一人の男が降り、そのまま店内へと入って来た。


「やほ~、皆のアイドル時雨(しぐれ)くんだよ~」


 黒のスキニージーンズに、胸板にピチピチに張り付く黒の袖無しハイネック、黒のボレロ。やたらごつい黒のブーツ、シルバークロスのイヤリングとペンダントを身にまとい、髪をアッシュブロンドに染めて流したド派手な男が、ひらひら手を振りながらそう言った。

 田中時雨(たなかしぐれ)十八歳。今年大学一年生の自称バンドマンである。土居那加村の村長、田中剛造(たなかごうぞう)の孫であり、父は間明不動産に勤務している。


「相変わらずアホ面だな。裏から入って来いと何度言えばわかるんだ」


 正義が仏頂面で言うと、時雨はケラケラと笑った。


「アハハッ、店長ってば相変わらず口が悪いね~。裏に回るのめんど~なんだよね~。それに正面のが近いじゃん。大丈夫、誰も気にしないよ~」


「人のことを言えた義理じゃないが、接客業のバイトとは思えない姿だな」


「あ~、今日はバイト終わったらライヴがあるからさ~、ツケマ&フルメイクなんだ~」


「勤務時間終了後にしろよ。でなけりゃ楽屋でやれ」


「だってメイク道具持ち歩くのめんどいんだもん。けっこー重いんだよ、アレ」


「それ、汗かいたら流れないか? その目のまわりとか」


「お直し用の最低限の道具はキッシーが持ってってくれるから大丈夫~。それに僕は手を痛めちゃダメだから、肉体労働NGだからね~」


「移動中は気にしないのか。キモイ姿を人目にさらすだけだが、(ヤロー)の顔とか誰も見ないから問題ないか。まぁ良い。ちょっと二階で打ち合わせがてら休憩するから、着替えてすぐ入ってくれ」


「らじゃ~、じゃあ待っててね~」


 時雨はひらひら手を振りながら事務所の奥へと消えた。


「しかし、あいつはどうして従業員用入口じゃなくて、店の入口から入って来るんだ」


「まぁ、客のおらん時は構わんじゃろ。それより男も付けマツゲやラメ入りの化粧するとは、時代が変わったもんじゃのう」


「おい、ジジイ。あれを一般男子のくくりに入れるな。あいつは特殊な部類だ」


「それ言うたら、この店には特殊な男子(おのこ)しかおらんじゃないか、正義」


「……それは否定しがたいな」


 正一の言葉に、正義はやれやれと首を振りながら、溜息をついた。


「ん? 否定はせんのか、正義」


「うちに色物しかいないのは事実だろ。で、新人バイトとやらは、まともなのか?」


「知らん」


 正一はキッパリと答えた。


「はぁ? 何だそりゃ、知り合いなんじゃないのか?」


「清美ちゃんから話は良く聞くが、本人に会った事はないからのう。だが写真は見せて貰ったことがあるぞ。若い頃の清美ちゃんそっくりの美少女じゃったな。

 今時の女子高生にしては、髪を染めたり化粧したりしておらんし、制服のスカート丈も短くしてない真面目そうな子じゃった。

 見せて貰った写真もプリクラとか自撮りでなく、家族旅行の写真で、はにかむような笑顔だったのが良かったのう。あんな女子が孫の嫁になってくれたら、最高じゃな!」


「おい、ジジイ。俺も正樹もロリコンじゃないからな。余計なこと考えるな。……ったく、初恋こじらせたジジイは、脳味噌お花畑だな。妄想を口にするのは、やめとけ。考えるなら頭の中だけにしろ」


「老い先短いジジイの夢を叶えてくれる可愛い孫はおらんかのう」


「黙れ、クソジジイ。それ以上余計な事を言うなら、極楽浄土に叩き込むぞ」


「ほう? やれるもんならやってみい」


「そうか、命は惜しくないようだな。ならば今の戯言をばあちゃんに教えてやるとするか」


「ちょっ、待て、正義! 平和的に、話し合おう!!」


「では、二度と妄想まがいの戯言を口にしないでくれ。ツッコむのも疲れる」


「……正義、お前まだ若いのに枯れておるのう」


「興味ないことはどうでも良いだけだ」


 そこへ店の制服を着た時雨が事務所の奥から現れた。


「やぁ~、お待たせ~」


「来たか。ではしばらく頼む。どうせ二時くらいまで客は来ないと思うが、わからんからな」


「今日の配送車が来る予定時刻は~?」


「午後三時四十五分だ。配送アイテムのリストと伝票は事務所にある。三時前に荒川(あらかわ)が来るから、それから品出し・梱包して、三時半前後に追加が来てないかもう一度確認する」


「了~解~」


 コンビニMAGIRAはネットまたは電話注文された商品の配送サービスを無料で行っている。とはいえ、その顧客はほぼ土居那加村の村民である。

 ちなみにネット注文用のWebサイトを作成したのは、正義のいとこである。フリーの在宅Webプログラマーで、間明グループのサイトの保守・管理なども担当している。

 顧客の大半が高齢者であり、利用端末がほぼタブレットなため、文字サイズやボタンなどは大きめで、シンプルなデザインになっている。間明正一の「シンプル・イズ・ベストじゃ!」という意向も反映されているが、余計なものがあると利用者が使いにくくなるというのが主な理由だ。

 ちなみに端末を購入・配布したのは間明正一であり、全てそのポケットマネーでまかなわれている。


 正義と正一は事務所奥の引き戸を開け、その奥の階段を昇った。階段を昇ってすぐの場所が休憩室となっており、左の扉が更衣室、右の扉が事務所、その隣が応接室となっている。

 商品発注やネット注文などの確認は一階で、それらの印刷や経理・人事関連など機密性のある事務処理などは二階の事務所で行っており、売り上げなどを保管するための金庫などもある。

 一階の事務所は誰でも入ることができ、二階の事務所は普段は施錠し、正義と正一、正一の秘書と正義のいとこしか入れない。


「そうじゃ、ついでだから帰りに売上金を回収して行くぞ」


「売上金ったって、昨日の夕方銀行入れたとこだから、六百円くらいしか入ってないぞ」


「なんじゃ、それは。わびしいのう。お前、仕事しておらんのじゃないか?」


「うっせ、黙れ。だいたいジジイがこんなド田舎にコンビニなんか建てるからだろ。それに、ネット注文分は月一引き落としなんだから、仕方ねぇだろ」


「そうか、そんなに客が来ないか」


 ふむ、と頷く正一に、正義は慌てて言った。


「あ、宣伝とか余計なことすんなよ。客が増えると、仕事が増える。発注分も読めなくなるから、やめてくれ」


「そう言うが正義、先月の売り上げは、ネット注文含めても四万円しかなかったじゃろうが」


「仕方ねぇだろ。先月はイベントも中元歳暮もなかったんだから。それに、村の皆は米と野菜は自分の家で作ってるからな。その代わり先々月は二十万超えてただろ」


「コンビニ経営は初めてじゃから勝手が良くわからんが、こんなもんなのか? 酒も扱っとるのに、どう考えても少なすぎるじゃろう」


「そりゃ、うちだけじゃなく隣町のスーパーやショッピングセンターでも買ってるからだろ。まとめ買いはあっち、こっちは不足分や急ぎの分と、ジジイに対する義理だ。

 別にこの店、なくても良かったんじゃねぇの?」


「う~む、これじゃまた正明に文句言われるのう」


「どうせ弁当とかは入れても売れねぇから、発注したのは最初の三日間だけだ。ネット注文分に関しては、頻度も量もわかってるから事前に別途に発注して、配送車に間明物流の倉庫へ行かせてる。

 その他の日配品はアイテムも数量も絞ったから、廃棄になりそうな物は俺や店員でギリギリ消費できる程度だな。賞味期限切れ近い牛乳パックを一人で三本買い取りした時は、毎食200ml消費する羽目になったが」


「いっそ、本社をこの隣に移すか。金はかかるが竹林を何とかすれば、本社だけなら移転できる」


「やめろ。これ以上無駄金使うな。親父に怒られるぞ」


「何とか採算取れるようにしたいのう」


「こんなとこに店作った時点で無理だ。諦めろ。でなかったら、営業時間を絞って取り扱い商品の種類を減らせ。そうすれば発注は減るし、人件費も削減できる」


「それじゃ慎治(しんじ)が困るじゃろう」


 初瀬川慎治(はせがわしんじ)は月・水・金の深夜バイトで、隣町の『白瀧館(はくろうかん)』という温泉旅館の孫である。


「あ? 別に困らねぇだろ。どうせあいつ人見知りだし。店に客が来ると、俺に電話して来るんだぞ」


「それなら、深夜帯にもちゃんと客は来とるんじゃないか」


「……客、ねぇ? 来るのはたいてい正樹か美弥(みや)だぞ」


 正樹は正義の弟、美弥はいとこであり、どちらも正一の孫である。


「なんじゃ、身内じゃないか。なんで人見知り? わしや正義にはしないじゃろうが」


「そりゃアレだろ、正樹はいつも連れと一緒のリア充だし、美弥はあれでも一応女だし」


「あの二人で駄目なら、赤の他人が来たらどうなるんじゃ」


「知らねぇよ。まだ一度もあいつの勤務時間には来たことねぇし。それより、そろそろ本題に入れよ。履歴書くらいはあるんだろうな?」


「履歴書は明日、本人が学校帰りに持って来るぞ。希望の勤務時間は平日は午後五時から十時、土日祝は深夜帯以外ならいつでも、あと曜日はいつでも良いそうじゃ」


「ふぅん、じゃあ、平日はしばらく俺がついて教えることにして、柳楽(なぎら)さんと交代で良いか。土日祝は、時雨と荒川のオッサンと俺のいずれかと組ませれば良いか。慣れれば俺の休みと睡眠時間が増えるな」


「でも、深夜帯に起こされるんじゃろう?」


「だいたい十一時から一時までだな。その間なら起きてるから問題ない。たまに三時回ってから来る事もあるが、二ヶ月に一度しかない」


「正義、『しか』ってお前、店の営業始めてまだ四ヶ月じゃというのに、感覚がおかしくなっとるぞ。まぁ二回だけなら『しか』になるのかもしれんが」


「正樹は合コン帰りに一回、美弥は突然菓子が食べたくなったとか言ってたな。あいつ、フリーになって在宅勤務始めてから、時間感覚おかしくなってる気がするぞ。仮にも既婚者で子持ちなのに」


「まだ子供が乳児じゃし、旦那は半年限定とは言え単身赴任中じゃからのう。睡眠時間が不規則になっとるんじゃないか」


「近いんだから、実家に帰れば良いのに」


「そりゃあれじゃろう。住んでいないと、家が荒れるからの。埃ならともかく湿気やカビは、マメに手入れしておらんと大変なことになるからな」


「へぇ、そんなものか」


「おい、正義。お前、部屋の掃除はちゃんとしとるんじゃろうな?」


「あ? 台所は使ってねぇし、週二で母ちゃんに清掃頼んでるから大丈夫だろ」


「……それ、全く自立とらんじゃろうが。お前、学生時代はどうしてたんじゃ?」


「母ちゃんが家政婦契約してくれたから、家事とかしなくて楽だったな。今は飯を食うのが面倒で困る。基本デリバリーか商品だけど。電子レンジとオーブントースター買っておいて、本当良かった」


「お前、掃除と洗濯くらいは自分で出来るようになっておらんと、将来困るかもしれんぞ」


「大丈夫。親父とジジイのスネかじるから」


「全然大丈夫じゃないだろ、それは」


 正一は呆れた目つきで正義を見た。

どうでも良い話なのに、やたら書くのに時間が掛かりました。

バンドマン店員・時雨をメインに書くつもりだったのに、登場のみになりました。

日常系や学園物に、チャラ男系はメインかサブに、一人は要るよね、とか思ってます(偏見)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ