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コンMANI  作者: 深水晶
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新人JKバイト

前半・藤見英名(女子高生)視点、後半・間明正一オーナー視点です。

「あ~あ、バイトしたいけどこんな田舎じゃ無理だよねぇ」


 学校帰りに寄ったコンビニで入手した求人情報誌を見ながら溜息をついた。

 藤見映名(ふじみえいな)土居那加(どいなか)村に隣接した蛙夏流(あかる)町にある蛙夏流高校に通っている。バスの本数が少ないため──一日片道四本しかない──自転車通学しているのだが、家から学校まで二時間弱かかる。

 土居那加村には商店などは存在しないため、蛙夏流町内で探しているのだが、


「門限九時とか絶対無理だよぉ」


 つまり平日はギリギリの午後七時まで、あるいは土日祝のみのバイトを探しており、既にいくつか面接も受けに行ったのだが、全て落ちたのである。

 移動や準備も入れてバイトに入れるのは、四時前後。それから三時間では短すぎる、せめて四時間入れないのかと言われ、無理だと答えたら断られたのである。


『土日祝に入れる子はいくらでもいるからねぇ?』


 面接した駅前の書店店長などはそう言っていた。


「うぅ、雇ってくれるなら時給はいくらでも良いのに。だって、だって、お小遣いとお年玉だけじゃ、コ○ケに行って本を買い漁るには心許ないんだもの!!」


 とは言え、新聞配達や工場や清掃業などは出来ればしたくない。田舎の性で市販のゲームや漫画・小説ですら発売日より一~二日遅れが通常で、宅配・郵便物も二~三日から一週間近くかかる。

 インターネットで購入できる本もあるが、全ての本が買えるわけではない。それに会場でしか味わえない空気というものがある。


(一度で良いから同人誌即売会(おまつり)へ行きたい!!)


 ド田舎在住のオタク系女子高生の切なる願いである。


 土居那加村には国道・県道や街灯があまりない。代わりに農道や私道はたくさんあるが、その整備は主に所有者に任されている。懐具合と心積もり次第、というわけである。

 村民二十七名中二十一名が高齢者であるこの村は、ここ四~五十年間、軽犯罪含めて犯罪件数は0。農地と住宅が大半を占めるこの地域では、村民またはその身内以外の者を見掛けることはほとんどなく、道路交通事情もあまり良くないため、時折迷い込む者がいても長居はしない。

 農道を通ると若干近道になるのだが、慣れた道といえど、雨が降った後などは思わぬところに水溜まりができていたり、大きな石が転がっていたりして、暗い時間だと転倒したり泥だらけになることもある。

 また、店舗一つない田舎のため、夜八時過ぎると村民は外出しない。真っ暗な上、静かな道を一人で走るのは、少々鈍感な映名にとってもあまり気持ちの良いものではない。


 田舎の利点は家と家の間が離れていて、騒音問題や日照権トラブルなどが皆無なことだろう。たとえ庭で全裸で大声で歌いながらラジオ体操をしても、ほぼ誰にも見られず聞かれない。

 運が悪ければ、近隣住民のお裾分けやら回覧板やら集金やらで見られてしまう可能性は皆無ではないが、時間帯を選べば問題ない。

 夕飯の準備時に鎌や包丁片手に畑へ葱やニラなどを取りに行っても見とがめられない。農道などで鉈を片手にブラブラ歩いていても、日常茶飯事である。映名は某ゲームで鉈を片手に歩く少女の姿がホラーになると知って、驚愕したくらいだ。


(うちの近所じゃ良くある風景だもんねぇ。大学は都会へ行って一人暮らしするつもりだけど、土居那加村の常識のままだと大変そうだよね。ネットがあって良かったぁ)


 勉強と称して、映名はインターネットや漫画・小説・アニメを見まくっている。


「だって私、土居那加村でただ一人の女子高生だもんね」


 同じ高校に友人はいるが、全員他の市町村に住んでいる。村の老人達に可愛がられて育った英名だが、親戚以外の同年代の子供と遊んだ経験が少ないせいか、ちょっと、いやかなりズレた娘である。

 遊び友達がいなかったので、二次元その他に傾倒してしまったのは、ある程度は仕方ないとも言える。小学校中学年くらいからPCでインターネット接続するようになったのも、趣味目的以外に、友人を作りたかったという理由があった。


(……蛙夏流高校なら見つかると思ったのに、いなかったんだもの。都会の同人誌即売会ならきっといるはず! そう、リアルBLな超絶イケメン達の楽園が!!!)


 見た目はごくごく普通の可愛い女子高生な英名だったが、致命的な会話(コミュニケーション)と常識不足で、どこかにあるかも知れない現実(リアル)BLを夢見て、日々生きている。



   ◇◇◇◇◇



「バイト先、ねぇ? そうだ英名、間明さんのとこはどうだい?」


「マギラさん?」


 祖母の言葉に、英名ははて、と首を傾げた。村民の名前は全員覚えているが、マギラさんとやらは聞き覚えがない。


「おや、英名は知らなかったかい? 六十年ほど前まで村に住んでいた間明さんが、土恵良井(どえらい

)山の頂上に『コンビニMAGIRA』というコンビニエンスストアを建てて、先日営業始めたんだよ。あそこなら村と店と蛙夏流町の間を運行する無料送迎バスがあるから、通うのに便利じゃないかい。

 もし、そこで働きたいなら間明さんに聞いてあげるよ。間明さんの孫が働いているらしいし、家からも近いから、もしかしたら門限も延ばして貰えるかも知れないしね」


「えっ!? そ、そうなの!?」


「あそこなら身元もしっかりしているし、清司(きよし)が会社帰りに寄る事もできるからね。何なら、わたしからも話してあげようか?」


「ぜひ! ぜひお願いします!! お祖母(ばあ)ちゃん!!」



   ◇◇◇◇◇



「はぁ? バイト?」


 祖父である間明正一が突然店へ訪ねて来たと思えば、開口一番「新人バイトを雇用したからな」と言い出した。商品の埃払いと陳列整理をしていた正義は、面倒臭そうに耳を傾けていたが、思わず眉をひそめた。


「喜べ、正義! なんと可愛いピチピチの女子高生だ!!」


 右目ウィンクして、グッと親指を立てて言う正一を、正義は胡散臭げに見た。


「おい、クソジジイ。この店に新しいバイトなんてものが要るとでも思ってんのんか? ただでさえ暇で仕事ないから、土日祝以外は実質一人半で回してんのに、経費とか何だと思ってんだ、なあ。それともシフト表代わりに組み直してくれんのかよ、あ?」


「だって、清美(きよみ)ちゃんの孫なんだぞ!? バイト先が見つからなくて困ってるらしいのだ。わしが一肌脱いであげたくなるじゃろうが。

 お前だって本人見たら、きっと断れないぞ。清美ちゃん似の可愛い子じゃからな! だいたいお前、男と既婚者ばかりでつまらんとか言うておったじゃろう」


「あー、藤見のバアサンか。ったく、年甲斐もなくいつまでも初恋がどうたら鬱陶しい。ばあちゃんに言いつけるぞ」


「やっ、やめてくれ! そういうのじゃないんじゃ! ただ、幼き頃の良き思い出、昔馴染みとして、ほら、お前にもあるじゃろう、初恋の一つや二つ……っ!」


「そんなもんねぇよ」


 正義はキッパリと言った。


「俺の嫁は二次元だけだ! 貧乳エロフは二次元の中にしか存在しないからな」


 ふんぞり返って言う孫に、正一はうわぁとゲンナリした表情になった。


「なぁ、正義。お前、仮にも間明グループの跡取りなんじゃから、現実にも目を向けたらどうじゃ?」


「ハッ、現実なんかクソだ。イケメンに生まれなかった俺は、どうせ金目当ての女にしか言い寄られないんだ。それに、跡継ぎなら弟の正樹(まさき)がいるだろ。あいつ帝都大学入学したエリート様だろ。どうせアホでブサチビな俺とは比較にもならんだろ」


「いやいや正義、アホはともかくブサチビは違うじゃろう。人相が変わるレベルのそのダサ眼鏡をなんとかして髪型を整えて、服装をちゃんとすればお前だって……」


「気休めはやめろ、ジジイ。俺はもう、現実(リアル)の女には期待しない事に決めたんだ。あいつらと来たら、本当、表面を取り繕うのは天才的だからな。下手な女優よりすげぇよ」


「なぁ、正義。お前、大学入る前はそんなんじゃなかった筈じゃろう? いったい、どうして、」


「とにかく! 面倒事はごめんだ!! どうせそれは決定事項なんだろ。仕方ないから了承するが、代わりに新しいシフト表を作る手伝いくらいはしてくれるんだろうな」


「もちろんじゃとも! それで、希望の勤務時間と曜日と履歴書じゃが……」


「その話は後だ。時雨(しぐれ)が来て休憩入った時に二階でする」


 店舗の二階は店の事務所・更衣室・休憩室などがあり、三階部分が正義の暮らす住居となっている。


「本当に正義はツンデレじゃな」


「ちげーよ! 勘違いすんな!!」


 ツンデレか否かはともかく、正義と正一の仲は悪くない。だが、正義は父・正明や弟・正樹とあまり仲が良いとは言い難かった。

 祖父である正一から見る限りでは単なるコミュニケーション不足にしか見えないのだが、


(変なところで強情だからのう)


 下手に自分が仲裁しようとしてかえってこじれる元になるといけないと静観している。


(これで正義が自分に自信を持ってくれれば良いんじゃが)


 正明には就職に失敗して腐っていた正義を更生させるためだと説得したが、本音は部屋から引っ張り出して、人と触れ合う喜び、あるいは仕事を通じて達成感や自信をつけて貰いたいのが理由である。


(とにかく何でも良いからきっかけになってくれると良いんじゃがのう)


 正一はこっそり溜息をついた。


「じゃあ、わしは休憩所でゲームしとるから、いつでも声かけてくれ」


「ジジイ、ゲームなんかするのかよ」


「うむ。スマホでちょっとな。中高生の友達もできたんじゃ」


「……自称中高生が本当にリアル中高生か、実際顔を合わせなきゃわからないだろうに」


「まぁ、どうせ会うことなどないんじゃから、どうでも良いんじゃよ。ただ、わしは人と会話するのが楽しいだけだからじゃな」


「ケッ、もの好きな」


 吐き捨てるように言う正義に正一は肩をすくめた。

というわけで腐女子登場。


以下修正。


×系統

○傾倒


×致命的に

○致命的な

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