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コンMANI  作者: 深水晶
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コンビニMAGIRA

「それで~道なりにまっすぐ、だって~。所要時間は~四十分って書いてあるよ~」


「はぁ~? でも道が二つに分かれてんじゃん。右と左どっちへ行きゃ良いんだよぉ」


 初心者マーク付きの軽四自動車に乗ってドライブしていたところ、道を間違えて迷子になったカップルは、車を一時停止させたが良く確認することなく左の道を選んだ。

 何故なら、右の道は土肌が見え石の転がる、軽四サイズでなければ車が擦れ違えない狭いガタガタ道、左の道はきれいに舗装され定期的に管理された片側一車線の道だったからである。


 そして彼らは土恵良井(どえらい)山のほぼ頂上に建つその店へとたどり着いた。


「……コンビニMAGIRA?」



 住民わずか二十七名、そのほとんどが高齢者な土居那加(どいなか)土居那加(どいなか)土居那加(どいなか)村。その店ができるまで周囲にコンビニもスーパーマーケットも交通機関もなかったド田舎である。

 かつてその村で少年時代を過ごした間明正一(まぎらしょういち)七十八歳。現在間明不動産、間明建設、間明物産、間明運送の会長を勤める男が、村在住の友人達の「最近買い物が不自由だ」といった声を聞き、個人的な資産を投じて作ったコンビニエンスストアである。

 田舎の常か、土地が安いせいなのか、大型トラックが十台は停められそうな広い駐車場である。 店の周辺には電灯が何本か立っているか、隣町から一時間半、ここまで電灯は数本しか見掛けなかった。


「……いらっしゃいませ」


 二人が店内に入ると、やる気のなさそうなボサボサ髪の眼鏡をかけた無愛想な店員が、手元にある雑誌から顔を上げることなく、ボソリと低く呟いた。

 カップルは互いに顔を見合わせたものの、こんな僻地にある夜のコンビニに他の客はおらず、また民家も街灯も周辺にはないので、あまり流行らない店なのだろう。

 二人がカウンターに頬杖ついて漫画雑誌をつまらなさそうに読んでる店員の前へと真っ直ぐ向かうと、店員はようやく顔を上げた。


「何か用ですか?」


 一般的なフランチャイズのコンビニ店ではあり得ない接客である。おそらく個人または家族経営の小さな店なのだろう。辺鄙な場所にある上に、インターネットの地図サイトの地図にも掲載されてない道や店で、ブログもWebサイトもない無名店。店舗と駐車場は無駄に広いが、個人経営故のミスかもしれない。

 土地勘のない二人は、とにかく現在地の確認と、目的地である本日宿泊予定の旅館への行き方を、この無愛想な店員から聞かなければ、最悪車中泊する羽目になるのだ。


「スミマセン、迷子になったんスけど、蛙夏流(あかる)町の『白瀧館(はくろうかん)』ってここからどう行けばイイっスか?」


「……ハクロウカン? ああ、初瀬川(はせがわ)さんちの旅館か。それならえぇと、ちょっと待って」


 そう言うとカウンター奥の扉を開き、事務所らしき机とPCのある狭い部屋に入ると、机の引き出しからコピー用紙らしき紙とボールペンを取り出し、戻って来る。


「ここが現在地、土居那加村土恵良井山山頂ね。ここへ来るまでに通った道は見た目はまともな公道に見えるが、この店に来るために作られた私道だから、ここへ来る時以外は通る必要がない。地図にも載ってないはずだ。

 だから山のふもとまで来た道をずっと下って、街灯はあるけどショボい国道が見えたらそこを左折、更に真っ直ぐ行くと広い県道にぶつかるから、そこを右折して道なりに真っ直ぐ行くと右手に大きな看板があるから、そこを右折して突き当たりが目的地だ。

 ここへ来る途中にあった舗装されてない道に入るルートもあるけど、あっちは暗いし農道だし途中狭くなってるからオススメしない。

 この地図参考にして行けば、たぶん目的地へ行けるはずだ。あんたらスマホとか持ってる?」


「ああ、スマホとタブレットを持ってる」


「この店や私道周辺は通話もネットも圏外になるから使えないけど、店内ではWi-Fiが使えるから、使いたい時は言ってくれ。IDとパスワードを教えるから。

 あと、雑誌コーナー前の椅子やテーブルがあるところは休憩や飲食用のスペースだ。持ち込みは基本お断りだが、店内で購入した商品を飲食するのは問題ない。送迎バス利用者にも開放している。

 電話を使用したいなら外に公衆電話がある。他に何か質問あるか?」


「え……送迎バス?」


「土居那加村はジジババばかりだからな。車や自転車は持っているけど、それでも中には運転の怪しい人もいる。一日片道四本しか運行してないけど、常連さんは利用してくれてるな。八時・十二時・十六時・二十時で年中無休だ。

 車で来たあんたらには関係ないだろうけど」


「ここ、店員あんた一人なのか?」


「ああ、この時間帯はそうだな。でも防犯対策は無駄に金かけてるから問題ない。こんな場所だから売上は期待できないし、千客万来ってわけにはいかないが」


「採算とれんのかよ?」


 客に言われた男性店員は肩をすくめた。


「この店はじいさんが幼友達と初恋相手にエエカッコするための道楽だ。営業すればするだけ赤字が増えるだけだが、一応働いた時間分の給料だけは保証されてるから、バイト確保できてるが──働きに来てるのか暇潰しに来てるのかわからない」


「あんたもバイト?」


「俺?」


 店員はやれやれとばかりに首を左右に振った。


「一応、月給は保証されてるが──二十四時間三百六十五日営業および休業なこの店の『店長』という名の下僕だ」


 半ば驚き半ば呆れた目を向ける客カップルに、店員もとい店長が自嘲めいた笑みを浮かべて言った。


「ちなみに、ここへ来るまで一度もバイトも就職もしたことがない!」


 三流大学卒業後、二年半引きこもってゲーム三昧の日々を過ごしていた元ニート、間明正義(まぎらまさよし)。オーナーである間明正一の孫である。

 コンビニMAGIRAのは基本的に縁故採用のみ。正社員は正義だけで、他はバイト四名、パート二名である。内一名を除き、全員間明の親戚または関係者の血縁者。

 採算は取れていないので、外部にバイト募集などはしていない。オーナーの気まぐれにより建設・運営されているこの店は、いつ閉店されるかわからない。

 オーナーは土居那加村の住民が生きている限りは存続させるつもりだが、その息子で間明グループの現社長でもある間明正明(まぎらまさあき)──正義の父──は、あまり乗り気ではない。

 コンビニMAGIRAが存続するか否かは、正一が健在であるか否かとほぼ同一である。

 そして一応店長である正義は、


(はぁ~、こんな時間に客が来るとか、かったるい。店が潰れたらゲームや読書できる時間が増えるから大歓迎なんだがなぁ)


 やる気がないどころか興味もなかった。

うっかり書いてしまいました。

十年くらい前に企画倒れしたネタを小説化。

一応現代日本舞台ですが、ある意味ファンタジー 。

過疎のド田舎村のコンビニ店を舞台に、無気力な店長、腐女子なJK、自称画家なおっさん、自称ミュージシャンなバンド少年、ラブラブ新婚夫婦、老人・老女が織り成すハートフルなコメディ。

時折、腐女子の妄想(ひとりごと)が挿入されるため、苦手な人はご注意下さい。

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