No.7
少数隊として集められたのは、僕を含めて5人
前日に隊長との打ち合わせは終わっていた
僕たちの役目は、王の身柄をおさえること、城門を開けて本隊を城内に導くこと、城内を混乱させることだ
まず日が昇る前の薄暗い時間帯に、監視の目が緩い裏にまわる
河に囲まれるように城は建っていて、河の向こうには広大な平原が広がっている
そこから攻めようものなら姿が丸見えで蜂の巣にされてしまう
敵もそれがわかっているからか、前ばかり守りを固めている節がある
隊長はそれを逆に利用することにしたらしい
迅速に忍び込むことが重要になる
僕たちは縄のついた鈎爪を空に放り投げ、城壁に固定する
偵察の話だと、この時間は交代時間らしい
唯一、兵士がいない僅かな時間だ
僅かな城壁の出っ張りを利用して城内へと侵入し、見張りの立ち位置から死角になる部分へと素早く身を隠す
…流石に、男5人が身を潜めるのには狭いや…
そんなことを考えながらの交代した見張りが現れるまでの時間は、とても長く感じた
1秒が1分のようにも、1分が1時間のようにも感じた
見張りの兵が立ち位置に立った瞬間、僕たちの1人が死角から飛び出し当身を食らわせる
僕は声もなく気絶した見張りの着ぐるみを素早くはぎ、着用する
「…うわ、臭いし、汗でベタベタ…」
身体中がむずむずする…
それに、サイズが合ってない
少し大きいな…
文句が言えるような状況ではないとは分かっているけど
……気持ち悪い……
その鬱憤を晴らすように、僕が着ていたものを兵士に雑に被せて縛り、物陰へと押し込む
これで第一の関門は抜けた
通路から城内に入った僕たちは、それぞれの目的の為に別れた
2人は城門を開ける為
2人は城の食料庫に火を付けに行く為
そして僕は、王の身柄をおさえる為
隊長から一番身軽だからという理由で任された任務だったが、不思議と怖さはなかった
失敗すれば、死が待っているというのに
失敗しなくても、少数で乗り込むなど自殺行為に等しいのに
僕の心は弾んでいた
今まで、自分から動こうとしなかった
物事に流されるまま生きてきた僕は、今自分で決めて動いている
これが、生きてるってことなんだ
初めて実感した想いに、僕は何だか嬉しくて
絶対生きて帰るんだと、強く思った
それにしても、いくらなんでも王をおさえる役目が1人ってどうなんだろう
味方のフォローをしなくていいのは楽なんだけどさ
…失敗したら、それはそれでいいってことなのかな
よし、決めた
帰ったらあの隊長を一発殴ってやろう
「…っ!?」
そんなことを考えながら城内を歩いていたら、誰かの気配に気づくのが遅れた
前から…誰かが来るっ!
辺りを見渡し、一番最初に目に付いた半開きの扉に身体を滑り込ませる
「…うわぁ…」
思わず、声が漏れてしまった
見たことのない材質のテーブルや、天蓋のついた高そうなベッド…
こういうのを、豪華絢爛っていうんだろうな
ふと足元を見ると、見慣れた絵柄が目に入った
「…これ…」
見慣れているのは当たり前だった
この絨毯の絵柄は、僕の村で生産されているモノだったから
前に何処かの貴族から大きな注文があったと聞いたことがあった
まさか、こんな所にあるなんて…
「おいっ!ここで何をやっているっ!」
後ろから聞こえた声に、思わず身を固くする
絨毯に気を取られ過ぎていた
迂闊だった
ここは敵陣なのに…!
「す、すみませんっ!自分、ここに配属されたばかりで…!迷ってしまいました!」
直ぐに後ろを振り向き、敬礼をする
なんとか、バレませんように…!!