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ある異形の物語  作者: 椎橋 由哉
いつかの話
11/13

No.6

「はぁ…!!はぁ…!!」

僕の想像以上に、戦地は過酷なものだった

毎日血と硝煙の匂いに塗れ

ただただ目の前の敵を殺す

そんな毎日に、慣れそうになっている自分に嫌気がさす

3ヶ月前、僕が配属されたのは少年だけを集めた隊だった

みんな気のいいやつばかりだった

底抜けに明るいやつ

地味だけど白兵戦に適した強いやつ

沢山、沢山の人がいたんだ

でも皆死んでいった

僕も死ぬまではいかないけど、怪我をしたりもしていた

戦友がいなくなっていくなか、自分が生き残っているのが不思議な気がした

自分で言うのも何だけど、特に僕に何かがあるわけではないのに

剣を習っていたわけでも格闘技を習っていたわけでもない

そんな僕が生き残っているのが不思議

運…なのかな

それにしては何だか変な気もした

「うわあ!!」

撤退する中、僕の後ろの方から悲鳴が聞こえた

それと共に微かに硝煙の匂いが風に乗って僕の鼻をくすぐる

振り返らずにただ走った

仲間を見捨てることになろうとも、僕は死ぬわけにはいかないんだ

優琉(ゆうる)に会うまでは

これ以上、緋音(あかね)を泣かさない為に

その強い思いのお陰か、僕は無事に基地に戻ることが出来た

生き残っている数少ない仲間たちが、すれ違うたびにお疲れ様というように軽く微笑んでいく

もう、言葉を発する元気もないのだろう

それは僕も同じだった

食事を取りに行き、それを持ったまま自分たちのテントに入る

テント内には誰もいなかった

このテントを使っていた人の人数も減ったな

最初は数え切れないくらい居たのに…

そんなことを考えながら寝床の傍らに食事を置き、寝床へと倒れ込む

…何だか、疲れた

ふと、自分の右手を眺める

他人の血で濡れてしまった忌まわしさを感じる右手

僕は、汚れてしまった

初めて人を殺したときは、震えと吐き気が止まらなかった

人の肉を断ったときの、剣を伝わって自分の手で感じたあの感触が

焼き付いて、離れてくれなかった

怖くて怖くて、泣きたくなった

人殺しなんて嫌だと叫びたかった

でも…

相手を殺さなければ、自分がそうなる

目の前に転がる肉塊が、僕と同じ顔に見えた

「…い。おい!!」

「うわっ!?」

急に聞こえた大きな声に驚き、飛び起きた

「ったく…飯食ってから寝ろよ」

苦笑いで僕の顔を見ながらそう言ったのは、隊長だった

「…隊長…。何故ここに…?」

「いやな、お疲れさんってことで一人ひとりに声掛けて回ってんだよ。んでお前のところ来たら、飯置きっぱで寝てやがるから声掛けてやったんだよ」

そう言って隊長はからからと笑う

見た目30代前半、実年齢23歳の老け顔隊長は、僕の村の隣村出身だ

だから、何度か顔を合わせたことがあるし、会話も多少したことがあった

「寝てないですよ。考え事をしていたんです」

僕が仏頂面でそう言うと、寝てるやつほどそう言うんだよ、とまた笑った

「…用事終わりましたよね?なら帰って下さい」

「いやいや、待てって」

心底嫌そうな表情で言うと、隊長は少し慌てたように手を振った

「何ですか?」

「…明日の作戦の話だ」

隊長は声を潜めながらそう言った

別に誰もいないんだから、声を潜める必要もないと思うけど

「明日の?確か、また前線に…」

今、僕たちは隣国に勝ちつつあった

最初の頃は兵力の差もあり絶望的だった

しかし、隣国内で内部分裂があったらしい

戦争反対派と推進派という二つの勢力に分かれているという話だ

その分裂の為か、隣国兵の士気も下がり混乱しているという

その混乱を上手くついた僕たちは、隣国の城の目前まで攻め行っていた

「そう、前線に出る。だが、少数の隊を作ろうかと思ってな」

「…つまり、城内に潜入し、王を押えろ…そう言いたいんですね?」

「話が早くて助かるよ。王を押さえちまえば、もう抵抗は出来ない。…上手くいけば明日で全部終わる」

「それ、誰の発案です?」

僕の言葉に、隊長の目が少し細くなった

「…誰だと思う?」

「発案というか…隊長の独断ですよね?そんな大事な任務、下っ端の僕たちに下されるなんて思えない。僕たちの隊はほぼ壊滅状態、それに剣を持ったこともない人間が多く集まっている。どう考えてもおかしいでしょう?」

「俺たちなんて鉄砲玉くらいにしか思われてないんだよ」

「だからって、この決戦のようなときに成功率が低い隊を使う?僕だったら確実な道を選ぶね」

僕の言葉に、隊長はため息をつきながら肩をすくめた

「…その通りだ。これは俺の勝手な計画。こんな戦争、早く終わったほうがいいに決まっている」

隊長の顔は、途中から険しいものに変わっていった

…この人なりに、戦争を終わらせようとしているんだ

僕はどうだった?

抗おうとしていたか?

ただ流されていただけじゃなかった?

自分の意志で、戦争を終わらせようと考えていたか?

「…僕も、その少数の隊に入れて欲しい」

「え?」

「長引かせちゃいけないんだ。これ以上流れる涙を増やしちゃいけない。…そうでしょ?」

僕の言葉に、隊長はふわりと笑った

「…ああ。こんなこと、俺たちの手で終わらせてやろうぜ」






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