No.5
数ヶ月後、僕の予感は見事に的中する
もうすぐ19歳の僕も、戦争へと駆り出されることになった
驚いたりはしなかった
怖くもなかった
不思議と、全てを受け入れている自分がいた
「悠依」
出発の前夜、緋音が僕に何かを差し出した
「御守り…作ったの。悠依が怪我をしませんようにって…」
それは、丸く加工された黒曜石と水晶が交互に連なっているブレスレットだった
「へぇ…綺麗だ。相変わらず器用だね」
緋音は昔から器用だ
手作り出来るモノなら大体のモノを作ってしまう程に
「どちらも魔除けの効果があるから、きっと悠依を守ってくれるよ」
「ありがと。大事にする」
「無事に、帰ってきて。必ず。約束だよ?」
緋音は、念を押すように何度も言った
「緋音は心配症だねー。僕が帰って来ない風に見える?ここは優琉が帰って来る場所だ。そこに僕と緋音がいなくてどーするのさ」
僕の言葉に、緋音は何とも言い難い表情をした
泣きそうとも笑っているともとれるその表情は、何故か僕の心をざわつかせた
「悠依、優琉は…」
「あの子も、必ずここに帰ってくるよ」
僕は緋音の言葉を遮った
優琉はどこかで生きている
そう、信じていた
いやそう信じたいだけなのかもしれない
優琉は僕にとってかけがえのない存在だ
そう簡単に諦めきれるわけがない
「うん…そうだね…」
緋音は俯いて、そう小さく呟くその声は、震えていた
「…緋音?」
「…どうして…?どうして悠依が…」
紛れもなく、彼女は泣いていた
泣き顔を見せないように俯いてはいるが、声で丸分かりだ
弱々しく、僕の上着の裾を握る
「いつも…いつも私の大事な人たちは遠くにいっちゃう…。どうしてなの…?」
大事な人たちとは、誰を指しているのかはすぐに分かった
優琉と僕、そして緋音の両親のことだろう
緋音の両親は、緋音が5歳の頃に亡くなった
事故死…だったらしい
緋音が夜中にいきなり、僕の家に飛び込んできたのには流石に驚いた覚えがある
僕の2つ下の彼女は、大きな目を潤ませて必死に泣かないようにしていた
彼女は昔から僕の前以外では何故か泣かなかった
優琉と仲良くなった後でも、それだけは変わらなかった
溢れそうになる涙を必死に堪えていたのか、緋音は僕の顔を見るやいなや大泣きをした
その時の僕には何が起こったのか分からなくて、泣きじゃくる緋音を抱きしめているしか出来なかった
その時から緋音は、出掛ける際に必ず『約束』を交わすようになった
だから、今回も
「…大丈夫だよ、緋音」
緋音の柔らかな身体をゆっくりと抱き締めた
緋音とは頭一個以上の身長差があるから、僕の胸あたりに緋音の顔が当たる
緋音の肩に顔を埋めると、腰あたりまである長い髪が少し顔を刺激してくすぐったかった
緋音はずっと僕の胸に顔をうずめて、静かに泣き続けた