私と彼女のしょーとしょーとストーリー
私と彼女のしょーとしょーとストーリー
第1話(?) 音姫
じりじりと肌を焼く太陽の日差しから逃げるため、私は勢いよく自分の家へと飛び込む。
「ただいまー」
奥にいるであろう愛しい人へ声をかけ、リビングへのドアを開けると、そこには天国が広がっていた。廊下に冷たい空気が一気に流れ込む。
「そうか、ここは天国か。しかも女神様までいらっしゃるぞー」
「おかえりなさい、なつさん。ほらほら、早くドア閉めないと」
後ろ手で戸を閉めながら、部屋にいた彼女をじっくりと見る。水色のワッフル生地の半袖とそれよりもちょっと濃い青の短パン。どちらも私の部屋着だ。いや、今は私と彼女の二人で使っている。
「どうかしたの?」
「いや、今日も雪さんは可愛いなー、と思って」
「おばか。にまにましないのっ」
彼女の名前は雪子、愛称は雪さん。私より二つ年上だ。雪さんは私の彼女で付き合って半年ほどになる。ちなみに私の名前は夏来。性別は女だ。
カバンを置いて雪さんの隣に座る。部屋はクーラーが効いていて涼しい。
「今日も暑かったでしょう。おつかれさま」
「うん。暑かったし、臭かった。もう息ができなくなるかと思った」
私の大げさな態度と言葉に雪さんが笑う。
臭かった、というのは私が通っている大学の教室のことである。私は工学部に所属していて、授業では必然的に男ばかりの教室に放り込まれることになる。真夏の教室はクーラーをつけているため換気が十分にしておらず、男どもの汗の臭いが充満していて非常に臭いのだ。
「うん、うん。よく頑張ったね。えらいぞー」
雪さんが私の頭をなでる。そのまま私は今日の学校の出来事をあれやこれやと話す。
「そうそう、雪さん」
「なーに?」
「雪さんはトイレの時水を流す派?それとも音姫を使う派?」
雪さんの表情が固まった。私はそれを見て首をかしげる。
「雪さん、どうしたの?」
「わたしね、なつさんが彼女じゃなくて彼氏だったら空気椅子耐久レースをさせながら耳元で野○村さんのMADを聞かせるところだけど、可愛いなつさんだからお姉さんはそんなことしないからね」
「ゆ、ゆきさん、ごめんなさい」
「ふふ、大丈夫、安心して。冗談だから」
雪さんの目に一瞬だけ本気の眼差しが宿っていたことを私は見逃さなかった。
「わたしは水流さないよ。勿体ないし音姫を使うかな」
「私も音姫派ですね。同じく水が勿体ないし、なによりタンクに水がたまるまで待つのがタイムロスになります」
私は一息ついて続ける。
「でもそこのトイレを使っている人は皆水を流すんですよ。なんででしょう」
「んー、癖になっているのかな。あとそこまで勿体ないとか思わないんじゃない?」
雪さんは少し考え込むように部屋の隅を見つめた。
「あ、でも自分の音が音姫の音量に勝っちゃうっていう話を聞いたことがあるよ」
「なるほど」
でもやっぱりわからないなーと思いながら私は軽く伸びをした。私の納得いかなげな顔を見て雪さんが笑う。
「でも友達ならまだしも付き合っている人にこんなことを聞くのはちょっとデリカシーがないと思うなー。まぁ、いつものことだけどね」
「ごめん。気を付けるよ、雪さん」
私はそういって雪さんにキスをする。
耐久空気椅子から逃れるために話の内容には注意しよう、と私は心に誓った。
~続かない(確信)~