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イデア=プログラム  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 永遠の異常 ――イデア・タワー――
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第6話 幸せな600年

 【イデア・タワー エレベーター内】


「レスフェンさんって、政府軍人なんですか?」


 僕がその質問をしたのはイデア・タワー最上階へと進むエレベーターの中だった。


「ああ、そうだ。イデア政府軍の人間だ。I=P親衛隊の長官だった」

「……えっ?」


 I=P親衛隊の……長官!? だったら、I=Pがどうなっているのかも、知っている!? 僕はレスフェンさんが親衛隊長官という事実に驚きつつも、期待を胸に膨らませた。

 エネミーズの反乱。人類を統治する女神I=Pは無事なのだろうか? まさか、エネミーズに破壊されてしまったのだろうか? 破壊されていなかったら、なぜ助けてくれないのか……? 僕は一番の疑問をレスフェンさんに投げかける。


「I=Pは、無事ですか……?」


 僕は僅かに声を震えさせながら、質問した。もし、I=Pが破壊されていれば、希望はない。エネミーズの反乱を止める事は出来ない。


「…………」

「…………?」


 レスフェンさんは黙ったままだった。ど、どうしたんだろう? 何か悪い事を聞いちゃったのかな……? 僕らはしばらく無言だった。その沈黙が僕にはとても苦しいものだった。


「……I=Pが世界の神となってどれだけの時が流れた?」

「…………? 600年、ですよね……?」


 確か600年(正確には612年だけど)。

 イデア政府が誕生したのが、今から800年前。その当時、世界は荒廃しきっていたらしい。世界を揺るがす大戦争。そのせいで人類はバラバラだった。そんな中、現れたのがイデア政府。イデア政府は無数の諸国を次々と滅ぼし、世界を統治した。


「600年は幸せだったか?」

「……たぶん」


 僕はレスフェンさんの質問の意図を掴めぬまま、答える。

 I=Pが統治した世界は幸せだったハズ。600年もの間、戦争はなく、社会システムや秩序は全て万全なものだった。

 今、この瞬間を除いては。


「600年は機械に“飼われた時代”だ」

「……え?」

「I=Pと言う名の機械に飼われた時代さ」


 ……レスフェンさんの言っていることがよく分からなかった。I=Pは女神。I=Pは僕らを幸せに統治する機械。もっといえば、僕らへの、奉仕者――


「機械の虚神は人を飼っているんだ」

「どういうことですか……? I=Pが僕らを飼っているってことですか……?」


 そんなハズはない! I=Pはいつだって僕らを見守ってくれた! だから僕らは、I=Pを女神と呼ぶんだ! 例え、“本当の意味での神”じゃなくても!

 ……神話とかに出てくる神はいつだって、僕らを助けてはくれなかった。800年前の戦争で神はなにをした? 太古の時代、何十回と神のせいで宗教戦争が起きた? 神の名を借りた残虐行為は何度行われた!?


「I=Pは、虚神なんかじゃないっ!」

「…………」


 虚神は本当の神の方だ! 不可視の神。救済しない神。悲劇の元凶である神。僕はそんなものは信じない! 神はI=Pだけだっ! 僕はI=Pを信じている!


「……お前を責めはしない。人間は、“そう”なんだ」

「どういう意味ですか?」

「人間は、優しく傷を舐めてくれる存在に懐く。お前のように。そして、人間は単純だ。目に見えるハッキリしたものがあればすぐに信じてしまう」

「…………ッ!」


 僕はその言葉にイラっとした。ぎゅっと拳を握りしめる。僕が懐く? I=Pに? ハッキリと目に見えるカタチで助けてくれる存在を信じる。それで僕は単純なんですか?


「レスフェンさんってまるで機械みたいですね。僕らはI=Pのペットですか? では、あなたは?」

「なに……?」


 腹立ちまぎれに僕は言った。言ってからすぐに後悔した。ヒヤリと背筋に嫌な汗が流れる。


「…………。……飼われていた。お前と同じように」

「ご、ごめんなさい……」

「いや、謝らなくていい。……私の方こそ、悪かった」


 レスフェンさんはどこか遠くを見つめながら言った。……なんで謝ったんだろう? 言い過ぎて悪かったってことかな? それとも、何か他に謝ることが……?


「I=Pのこと、信じているんだな」

「えっ、あ、はい……」


 さっきのことがあったからか、僕はもごもごと答える。まだ変な汗が出ていた。動悸がまだ激しかった。


「……そうか」


 レスフェンさんは小さな声で、呟くように言う。そして、彼女の次の言葉は僕を戦慄させた。


「――あの時、お前を助けるべきじゃなかった」


 僕はその場で凍り付く。一瞬、レスフェンさんの言ったことが、理解できなかった。いや、できることならば、理解したくなかった。

 その時、僕の脳裏にあの光景が蘇る。イデア・タワーに入る直前、あのサソリ型軍用兵器と戦った時の光景。僕が大きな傷を負ったあの時、レスフェンさんは僕に回復魔法をかけるのを、一瞬躊躇った。

 その時、エレベーターが止まる。エレベーターは遂にイデア・タワーの最上階についた。


「お前は、もっとも見たくないものを見るだろう。すまない。連れてきたのは、私のミスだった」


 レスフェンさんがそう言うと、扉が開く。その先にあるのは大広間。そこでポツンと1人立っている女性。黄色い髪の毛に青い服を纏った人。――女神I=Pだ!

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