第2話 出会い
【政府首都サレパトリア 上層エリア ファンタジア公園】
僕は息を荒げながら、建物と建物の間に造られた広い公園に逃げ込む。まだここにはエネミーズはやって来ていないらしい。たくさんの人々がいた。でも、ここは本当に安全なのだろうか……?
その時、僕はふと1人の女性が視界に入る。イデア政府軍の軍服を着た女性だ。セミロングの髪の毛をした若い女性……
「あのっ……」
「……ん? なんだ?」
その女性は驚くほど冷静だった。この動乱で、みんな軽いパニックになっているのに、彼女は落ち着いていた。
「今、どんな状況ですか? 僕らはどこにいけばいいですか……?」
「……“異常”を排除している。お前は行くべきところに行けばいい」
彼女は冷たく言う。でも、異常を排除している、と聞いて僕は少しだけ安心した。I=Pが動き出しているのだろう。この機械の大反乱を鎮圧する為に。行くべきところ……避難所かな? でも、市街地に出れば……
「あの、名前は……?」
「……レスフェン。お前は?」
「あ、僕はファストです」
僕がそう言った時だった。公園の至る所から一斉に悲鳴が上がった。見れば、空中に黒と紫の穴が開き、そこから次々とエネミー=アルファが姿を現していた。やっぱり、ここにも送り込まれて来た!
「レスフェンさん、逃げましょう!」
「……そうだな」
こんな状況になっても落ち着いていられるレスフェンさんって…… 僕はそんな彼女を純粋に凄いと思った。
彼女は腰に装備していた剣を引き抜く。白銀の刃を持つ美しい剣だった。それを抜くと、彼女は自身の身体の周りに物理シールドを張っていく。
「あ、あの、僕も……」
「…………」
彼女は僕の方をチラリと見ると、左腕を少しだけ振る。その途端、僕の周りにも物理シールドが張られる。政府軍人なら誰もが使える技だ。そういう機械を持っているらしい。
物理シールドを張り終わると、レスフェンさんは走り出す。僕も彼女について行く。だって、他について行けそうな人もいないのだから……
[排除セヨ! 抹消セヨ!]
[排除セヨ! 抹消セヨ!]
エネミー=アルファがアサルトライフルの銃口を人に向けながら、銃弾を乱射する。それらは逃げ惑う人々の背中や頭に当たり、血を噴かせ、殺していく。
レスフェンさんは赤茶色の髪の毛を風になびかせながら、素早くエネミー=アルファに近づくと、一瞬にしてその鋼の身体を斬り裂く。す、すごい……!
[排除セヨ! 抹消セヨ!]
水色に赤色のラインが入った犬型軍用兵器エネミー=バウがレスフェンさんに飛びつく。彼女は身体をのけ反らせて避け、更にエネミー=バウの腹部を膝で突き壊す。
エネミー=バウを破壊したレスフェンさんはさっさと歩き出す。僕も慌ててその後を追う。もうすぐメイン・ストリートだ。また、空中に造られた歩道に出る。
「……なんで私に付いて来るんだ?」
「だって、どこに行けばいいか分からなくて……」
「行くべきところに行け。もう、お前の親もそこにいるだろう」
「避難所だってアイツら来るじゃないですかっ……!」
そういえばお父さんやお母さんはどうなったんだろう……? イヤだ、死なないでっ……!
「レスフェンさんは、どこ行くんですか?」
「……イデア・タワー」
レスフェンさんはまだ遠くにある建物を指差す。蒼い色のガラスで造られた大きなタワー。イデア・タワーだ。あそこは女神がいる。女神がいるだけであとは無人の建物。
なるほど、あそこに行けば安全なのかも知れない。でも、あそこは立ち入り禁止のハズ。入ったら、死刑だ。もっとも、歴史上、侵入した人間は誰もいない。なぜならセキュリティが万全だからだ。
「イデア・タワーに何しに行くんですか……?」
「…………」
レスフェンさんは何も言わない。軍事機密らしい。
彼女は僕の問いに応えないまま、歩き出す。だが、それとほぼ同時に運転席が炎上したエアバスが歩道にぶつかる。ガラスで出来た歩道は割れ、たくさんの悲鳴と共に崩れ落ちていった。
「あ、ああ…… ど、どうしよう……?」
僕は目の前で割れ崩れた歩道を見て呆然としてしまう。でも、レスフェンさんは全く動じていなかった。肩に付けていた小型ジェット機を作動させる。
僕は反射的に彼女に飛びついた。置いてかれるっ! 僕の予測は正しかった。彼女はジェット機を作動させると、早々に空中に飛び出した。僕は、彼女の左脚に間一髪掴むことに成功した。
「う、うわっ、離せお前っ!」
レスフェンさんは僕を無理やり蹴落とそうとする。彼女は自身の右脚で僕の顔を何度も蹴る(物理シールドのおかげでそんなに痛くないケド)。
「ご、ごめんなさい! 置いて行かないで! 落とさないで!」
「ふざけるな!」
その時、空中を飛んでいたエアカーが彼女のすぐ真横を勢いよく通り過ぎる。うわ、危ない! 正面からぶつかったら間違いなく重傷を負う!
レスフェンさんもかなり危険な状況と悟ったらしく、僕をしがみ付かせたまま、空中をフラフラと飛ぶ。何度もバランスを崩しそうになる。
「あとで覚えてろっ!」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
空中を飛んでいる間、僕はとにかく謝り続ける。ああ、こんな時にI=Pがいてくれたら何とか丸く収めてくれるんだろうな……
僕は蒼いガラスのタワーを見ながらそう思った。