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いつかきっと

少女と会うことはもうないだろう。

彼女は宇宙に行ってしまうのだから。

こうやって、こんな近くに彼女を感じることは、もう二度とないのだ。

明日からは、二人の距離は何億光年も離れてしまう。

二人の距離を図に書いたら、彼女は点ですらない。僕だって点ですらない。

それなのに僕は、彼女に触れることすらできなかった。

考えただけで腕が硬直して、どうしてもそんな勇気がでなかった。

僕たちは、びっくりするほど似た者同士だった。

出会ったときから、武装してるけれど丸裸の彼女の心が見えるようだった。

二人の武装は最初から全く意味を持たなかった。

たった数日の出会いで、僕らはお互いがお互いの一部になったような気がした。

この数日間、彼女と暮らして、あまり口をきくこともなかったけれど、

こんなに安らかで温かい気持ちになったのは初めてだった。

彼女の気配を感じるだけで、心臓のリズムが穏やかになり、

今まで知らず知らず縮こまらせてこわばらせていた心が溶けて部屋いっぱいに

広がっていった。

きっと彼女もそうだったのだろう。

うるんだ瞳で僕を見つめる。

僕はたまらず目をそらした。

数日前、家に泊めてくれと言ってきたのも突然なら、

「明日宇宙に行く」なんて言いだしたのも突然だった。

彼女が行ってしまうのは、僕なんかにはどうにもならない、

組織の力が働いているみたいだ。

「きっと、もどってきたら、また会ってくれますか?」

「もちろん」

戻ってくるには何億年かかるんだろう、という絶望的な思いが去来した。

巨大なハッチがしまり、ロケットは轟音とともにあっという間に小さくなった。

ものすごい爆音にも関わらず、そよ風一つおこらなかった。

うすぼんやりした秋空に、遠くから犬のなく声が聞こえる。

「なにも残さずに行っちゃうんだな・・・」

自分が地球の片隅にいるんだということを、めまいがするほど感じた。

ロケットがみえなくなった秋空をみていたら、

さっきのロケットがものすごい速さで帰ってきた。

ハッチが開く。

すれっからしの30女が降りてきた。

全然別人になっているが、顔の輪郭に面影がある。あの少女だ。

「あんたがあんなにいうからさ、タイムワープして

戻ってきてやったよ。大変だったのなんのって。感謝しな、ったく」

下品な香水のにおいをぷんぷんさせて、ハイヒールの踵を鳴らして

僕の家に入っていく。

すべてが突然すぎてなんの感興も湧かなかった。

それを見ながら、

ああ、これから僕はこの女の尻に敷かれて一生をすごすのか、と思った。


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