農耕勇者
一応、前に書いた「空腹魔王」の続き的な立ち位置になっています……が別に読んでなくても話は通じるハズです。
当初続かせる気はなかったのですが、「農耕してる勇者って読んだ事無い……?」と思い立ったので。
前作に興味を持っていただいた方は是非!
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ここでクワをふるい始めてもうかなりの年月が経った。
俺が来る前までは目が届く一帯全てが赤茶けた大地だったここも、今ではその範囲ほとんどを耕しつくして畑に変えてしまった。作物を育てるにあたって問題だった熱く乾燥した土壌も、今では毎日の水やりと足元ほぼ全てを覆う苗葉のおかげでひんやりとした湿り気を保つに至っている。これらは全て今までのたゆまぬ努力が実を結んだ結果だ。
これだけの範囲を自分一人で開拓し、維持するどころかさらに拡大させ続けているという事実は、自分からしてもよくやっているものだと思う。
「ん、んぅ~…………っくあぁ!」
身体を伸ばし、関節からゴキゴキと音を出しながらふと考える。そろそろステータスの職業欄も農夫とかに変わってしまうかも知れない。
「流石にそろそろ心配だなぁ……いや、そもそも勇者って転職できるのか?」
今はまだ【勇者】のままだが。
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俺は勇者だった。いや、今現在も勇者ではある。だが今、周りから「コイツは【勇者】だ」とわかってもらえるかと言えば……正直、自信が無い。
昔の俺は誰もがイメージするおとぎ話の勇者そのものだった。王命の元で勇者として魔王を討伐しに行き、人族全ての希望を背負って魔王と死闘を繰り広げた英雄。世界を救う救世主。
おとぎ話と違う点があるとすれば、仲間を作らずソロで魔王討伐に挑んだ事、そして……魔王に負けた事。
魔王に負け、死を覚悟した俺は魔王から一つのクエスト、というより命令を受けた。
『今の魔界は典型的な食糧不足でな。人間界のそれと比べると痩せた土地故、今までもこういうことが無かったわけではないが、今年のそれは特に厳しい。それこそ、飢餓に狂った魔族が人間界を攻めるほどに』
『勇者よ、お前に世界救済の方法を教えてやろう。なすべきことは、ただ一つ』
―食い物を作れ、魔族全員分の、な。―
かくして俺は、伝説級の防具に退魔の剣装備だった恰好を麦わら帽子に土で汚れたシャツと鉄製のクワ装備に変えて、毎日あくせく農作をしている。昔は<真実のイヤリング>の効果でどの苗がどんな作物かを判断していたものだが、今では装備せずに何が何だかわかる程度には慣れてしまった。
勇者がそんなことで良いのかと言われれば正直疑問が残るが……結果、世界は救われた。人間界に攻め込んでいた魔人は軒並み退却して魔界で領分を守って暮らしているし、人間界の被害にしたってほとんどが作り直せば済むような物的被害に抑えられた。
人族を守る者を勇者と呼ぶのだとすれば、今の俺も立派な勇者ではあるんだろう。
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「イモがもうすぐ実りそうだな、そろそろ次に植える物を考えておかないと……ここんとこ土地を使い過ぎたし、次はマメでも植えて休ませるかな?」
「ほぅ、次はマメか。期待しているぞ勇者」
「おぅ! まかせとけ……っておいコラ! そのイモはまだダメだ! てめぇはイモヅルでも食っとけ!!」
「ふむ、では頂くとしようか」
「あ、いや、それ毒ヅル」
「む? 舌がピリピリしてなかなかイケるぞ?」
「……悪食魔王が」
「うるさいぞ農耕勇者殿?」
「ぐっ……てめぇ、今度の配給は小粒のヤツ選んで送ってやるからな」
「ぬ、それはないだろう! 大体お前がこうなっているのは我に負けたから」
「うるせぇ! 人の古傷つつくな!」
魔王に負けた勇者は、今日もこうして人々を守っている。
ちゃんと各セリフの発言者が伝わったでしょうか?
不自然な文法、誤字は無かったでしょうか?
そして何より、楽しんでいただけましたでしょうか?