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救命ポッドは、確かにビームの焦げ跡や超空間特有の汚れが目立ったが、それ以外は普通のどこにでもある救命ポッドだった。いや、よく見ると神話を体現した精緻な彫りがあり、金色(たぶん本物のゴールドだと思う)で出来た鷲のシンボルなんかが付いている。成金趣味、というよりも金持ちそのものを体現していた。
(ジャック)私は開閉パネルを操作している機関長に尋ねる(首尾はどうだ)
(なかなか強固なプロテクトがかかってます)
(そうか)ロックでなくプロテクトとは穏やかじゃない。(中の様子は分かったりしないか?)
(環境センサー系も全て沈黙してます)手を休めずに返す。
(着地の衝撃で壊れちゃったんでしょうか)
ジャックのかわりに私が答える。
(救命ポッドはそこまで柔な作りをしているとは思えないな)
(でも跳躍してきたんですよね)
救命ポッドは先の通り気圏突入を前提に出来ている。つまり推進力は惑星の重力であり、自前の航行機関を持ち合わせてはいない。
ロケットモータを一切欠いたポッドは慣性に従って運動する他になく、宇宙には十分な抵抗になるようなものはない。つまり初速を与えられ距離があればあるほど、速度は大きなものとなり衝突時の衝撃はものすごいものになる。
ポッドには擦過痕や汚れを除いて、そのような構造体自体に破壊がもたらされた様子は伺い知ることはできなかった。中古ショップで売られていたとしても、その機能に疑問を呈するほどじゃない。
(こいつも短距離を飛んできたのかな)
何とはなしに所感を述べる。
(じゃあ近くに本物の救難船がいるってことですか?)
(いや、この他に救難信号は受信してなかったからそれはないだろう)
ない? 自分の言葉が引っかかりを作った。それではその船は撃沈でもされたというのだろうか。
(ジュリア!)セシルの慌てた声が私の思考を中断させる。(海賊よ!)
(状況報告をお願いします)
穏やかな口調を心がける。目の前のピートは「海賊」と聞いた瞬間に顔面蒼白になってしまっていた。
(前跳躍反応が三つ。重力波文照合結果、どれも管制局に登録がなかったわ)
(ふむ)私は考えを巡らす。
(副長、ポッドごと回収してしまったらどうでしょうか)
ジャックの提案は、つまりエスペランサ号の積荷を宇宙に捨て去ってポッドを回収するというものだった。
(保険の適用内です)
保険が適用されても顧客の信頼は地に伏すだろう。しかし悩んでいても仕方ない。
(よし、それでいこう。集積作業の指揮はジャックに任せる。私はブリッジに戻る)
(了解です)
二人を置いて、私は船に戻る。
(ブリッジ、防護力場範囲+3)
それだけ指示すると、半分EVスーツのままブリッジに急いだ。




