トモダチ……?
「着いた……」
徒歩で来て、少し汗が出たが、多分暑くなって掻いた汗だけじゃないだろうな、と心が重い公稀は校門前に立ちつくす。
(ここまで来て引き返す人なんていないよな。いくしかないか)
そう心で決めて、一歩一歩が重く感じる足を校舎内へと進める。
この月花学園高等学校はだいたいの生徒が徒歩通学だ。近い人ばかりなのか、学校では徒歩というのが原則らしい。しかし、かなり離れている場所に住んでいる生徒は例外で、電車に乗ってからの徒歩か自転車の通学が特別に許可されるらしい。近くに住んでいる人からすれば、それは差別としか思わざるを得ない。公稀も寮暮らしで、学校から近い距離にあるため徒歩になってしまうが、公稀自信は別にそう言う事は気にしないようにしていた。急ぐ理由などないからだ。公稀は学校へ行きたくない方なので、徒歩は少しだけ校舎に入るのが遅れるため、むしろ喜ぶ方だった。
月花学園は校舎は四階建てである。一階は事務室や教科ごとの教室がある。二回は職員室や、最高学年の三年、三階は二年、四階は一年の教室である。なので、公稀は四階まで登らなければならない。
ゆっくりと歩みを進めて、自分の教室へ向かう。
扉の前に立つ、緊張感が体中を巡る。胸が痛い。心臓の鼓動が速まる。ただ入るだけなのだが、毎回こんな気持ちに、公稀はなってしまうのであった。
「おい」
胸を押さえて、公稀は落ち着けと心の中で唱える。
「おい。無視すんなよ」
「……え? あ、わあっ!」
横から肩をつかまれて、驚いた拍子に床にしりもちをついた。当たり前だが、痛かった。
「教室のドアの前に立たれると邪魔なんだけど……」
頭を掻きながらそう言った茶髪で背の高い男子生徒は鋭い眼差しで公稀を見た。
(ぜ、絶対苦手なタイプだ)
公稀の直感でそうなった。
左脇にカバンを挟んでいる不良っぽい生徒は何も言わずに右手を差し伸べた。
「立てるか?」
「は、はぃっ」
上手く声が出せなかった公稀に相手はクスッと笑った。
「おもしろい奴だな」
(うわあ、目をつけられたよ、これ……)
目線を合わせないようにする。
「なんで目を反らしてんだよ」
「わ、ご、ごめんなさいっ」
「なぜすぐ謝る……」
不良っぽい生徒はあきれ顔をして、また頭を掻く。公稀は立ち上がって、汚れを払うようにズボンの後ろの方を手で払う。
「お前の名前は?」
「え、えぇっ」
(絶対に目をつけられた!)
ネガティブ思考になる公稀。
「……オレから言った方がいいのか? オレは、千堂秋吉。それでお前は?」
「は、はい! えと、光谷公稀……デス……」
「じゃあ、公稀って呼ぶわ。てかお前ビビリすぎ」
秋吉という生徒は指を公稀に向けてそう言った。
「ご、ごめんなさい」
「はぁ……。もういい。じゃあな」
ため息をついた後に手を軽く振って、秋吉は教室へと入っていった。
(これから今の人にいじめられるんだな……さらに気が重い……)
公稀の心の中は帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「でも……とりあえず入らなきゃな……」
肩を落としながらとぼとぼと教室へ入る。
公稀の席は真ん中ぐらいだ。そこへすぐ向かいカバンを置いて席に座った。ちなみに秋吉の席は公稀の右隣の列の一番後ろの席である。
公稀がこの席にいると毎回うるさくなる。すごそこで女子が騒ぐのだ。
(でも、騒ぐのは仕方ないかな)
という諦めモードに、公稀はとっくに入っている。
女子がうるさい理由は、公稀の左の席の女子がちやほやされているからである。
「苺ちゃんはいつもかわいいなぁ! このクラスのマスコットだよね!」
「そうそう! 撫でさせてー!」
「や、やめてください!」
と、敬語で嫌がっていることを主張しているのが、このクラスで一番背が低い女子――推定で一五〇cmくらいと公稀は予想している。そして、茶色の髪のショートヘア。小学生と思われてもおかしくない童顔で、純粋に輝く瞳。声も高くかわいらしい。名前は雛田苺だった気がする、記憶力はあまり良くない方だが、最初のクラスでの自己紹介でそのような名前を言っていた気がした。前に立って話すとき、教卓が邪魔で体の半分が見えないという低さで色々言っていたので、なぜか少しだけ印象があった。このクラスの女子はだいたい背が一六〇cm前後の人が多く、一人だけ小さいと思うと、かわいいと思えてきてしまうのだろう。女子たちが苺に集る。
「やめてっ! あぅっ!」
と、かわいらしい声をもらしながら必死に抵抗している姿がかわいい。
(あ、つい見てしまった……)
仲良くなってみたいと思いながらその姿を見てしまった公稀はすぐ机と睨みあうように伏せる。
(仲良くなれるわけないよな。女子だし)
公稀は小さくため息をついて残念がった。