悪魔な女性
「残酷ね……」
黒いブーツを鳴らしながら路上を歩く女性は呟いた。
「また一つ消された。この街にせっかく逃げ込んできたのにね」
黒い口紅を塗っていて、黒いドレスのような服、銀髪をなびかせ、まるでゴシックファッションのような姿で、周りの人を気にせずに堂々と進む。
通りすがりの人々は、目線を合わせなかったり、クスクスと陰で笑ったり、携帯電話で写真を撮ったりと、女性に目が行く。
「……人間からわざと見られるようにしてるけど、面白いほど食いついてくるわ。これから心の闇に染まっていくと思うと、残酷」
口癖のように言う言葉はどこか楽しげであった。口にも笑みが浮かんでいる。
「なんだよ、あのおばさん」
「ゴスロリ? うわ、キモい」
女性の前から歩いてくる学生数人が声を小さくしようとせず、聴こえているだろうと分かっているほどの大きさで喋る。男と女が二人ずつで女性を見ながら指を差して高笑いしている。
「ねぇ、あなたたたち?」
すれ違いざまに女性が学生に話かけた。
「なんですか、おばさん!」
と、男子生徒が言うと四人ともわざとらしく笑う。
「心の闇って知ってる?」
そう尋ねると、学生たちは顔を見合わせて、その直後、女性に向かって嘲笑う。
「しらねぇよ!」
「この人、ネットとかやり過ぎなんじゃない? アニメの見過ぎとか!」
「オタクかなんかなんだよ。あとファッション似合ってないし」
と女性をバカにしながらそのままその場を離れようとした。
「何も知らないお子様たちは、死の痛みも知らないわよね。残酷すぎて笑えるわ」
女性は屈しないほどの笑いをしてみせて、挑発しているような口調になる。学生たちは振り返り、男子は女性に近寄っていく。
「なぁ、おばさぁん。俺たちをなめてんの?」
「おばさんのコスプレ姿はみたくねぇんだよ!」
「まぁ、よくおばさんって分かったもんだねぇ。確かに、二千年以上は生きてた気がするから、それくらいかもね」
「うっわ! 聞いたかよ! 二千年だってさ!」
何かになりきってるのかと思ったのか学生たちは大爆笑をする。女子の学生は腹を抱えながら笑っている。相当面白かったのだろう。
「さぁ、幸せそうだね。そろそろ食事でもしていいかしら」
女性は右手を挙げ、握りこぶしを作り、すぐに手を広げた。その手の平から黒い炎が出現した。
「な、な……!」
近くで見ていた男子たちはかなり驚いたのか上手く喋れていない。一人は尻餅をついた。
「どうしたんだい?」
黒い炎が何かの形状に変化し始めている途中で女性が男子に問う。
「な、なんでもねぇよ! そんな手品、怖くなんかねぇよ!」
強気でいる男子は足を震わせながら女性を睨みつけた。女性は不敵な笑みを浮かべたまま表情を変えたりはしなかった。
「死神の鎌!」
学生の話を聞いていないのか、女性は関係のない言葉を発した。学生たちはビクッとする。怖気づいてきたのか、女子学生の二人は少し距離を取り始めた。
女性の発した言葉で黒い炎の形状が大きな鎌へと変わっていく。大きな刃が夕日に輝いている。
「ひ、ひぃぃっ!」
やっと恐怖を感じたのか男子二人が踵を返して去っていこうとした。しかし、
「残酷だけど、遅いわね」
そう言った瞬間、男子二人の首に黒い一閃が横切った。その後、男子生徒の首が宙を舞い、鮮血が空を赤く染めるように飛んだ。
「きゃああああああっ!」
女子生徒は全力で走る。カバンを放り投げて、さっきの強気は嘘だったかのように全力疾走する。
「逃げれないわよ」
右肩に鎌を背負い、左手から黒い火炎球を出現させ、彼女らの背後にぶつけた。生徒たちは勢いよく押されたかのようにうつ伏せに転んだ。
「逃げきれないなんて、残酷よね。ちょっとずつ味あわせてもらうわ」
すこしずつ女子生徒に近づく。表情は全く変わっていない。
「あと、姿消さなきゃ、騒ぎになるわねぇ」
後でもいいか、と小さく言って、死神の鎌と言った大鎌で女子生徒を切り裂いた。




