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双璧のカムイ  作者: あかいち
2.学園
11/22

公稀の訊きたいこと

「それじゃあ――」

 桜子は鍵を閉めて、パイプイスに座った。座る前にダンボールの中から手に取った本を机に置いて、表紙を開いて読み始めた。

「――質問をどうぞ」

「え、質問ですか?」

 いきなりすぎて、質問なんか考えてなかった。

「カムイについてまだ訊きたいことがあるんじゃないの?」

「そ、それは……」

 確かに訊きたいことは山ほどあるし、昨日急に言われて、うまく整理ができていないというのが公稀の本音である。

「まだ決まってないなら、わたしから言いたいことがある」

「はい?」

 本を読み進めながら桜子が話し始める。

「カムイの事は誰にも喋ってはならないわ」

「カムイの事を?」

「ええ。でも、言ったところで信じないのは分かっているのだけれどね」

「僕だってまだしっかりとは……」

「半信半疑ってことね。いきなりの出来事でまだ良く分かってないのね」

 公稀はうなづくことしかできなかった。

「あの黒い炎は心の闇って言うので、そのでてきた悪魔を倒すのがカムイってことはなんとなく理解はしているんですけど……」

「簡単にいえばそんな感じね」

「言わないでって、大人とかは知ってるんじゃないんですか? 先生たちも……」

「知ったら大変なことになるわよ」

 桜子の言葉がとても刺々しく聴こえて、公稀はビクッとした。桜子はとても真剣な表情だった。

「カムイは世界に存在するわ。神の世界『カムイモシリ』にいる神威の創世神“オキクルミ”の持つ特殊な力で、人からかけ離れた能力を人が手に入れるの。世界中のカムイたちは心の闇と戦う力がある」

「でも、それを世界に知らせればみんなが苦しまずにすむんじゃ……」

 弱々しげに公稀は意見を言うが、桜子は首を横に振った。

「そのカムイが戦争の力に使われる可能性だってある。軍事の力より、神に授かった力の方が上に決まってる。誰もが力を独占しようとする。そうすると、カムイが陰で培ってきた世界は負の力に呑みこまれ、悪魔を率いて、魔族たちが世界を支配して、人を滅ぼすでしょうね」

 なるほど、と公稀は昨日のような化け物がたくさん出てくることを想像してしまった。桜子でも最初は大怪我を負わされた。あんなのがたくさんいたら、世界は滅ぶのは時間の問題だろう。

「このことを世間に知らせなかったら?」

 怪訝そうに訊く。

「とりあえず、普通の人なら、いつも通りの生活はできるわ。争いよりは負の力も発生しないし、心の闇の出現もあまりないと思う」

「そうですか……」

「だからこそ、広めないでほしいの。分かった?」

「はい。絶対に言いません」

 公稀は今、自分は大変な事を知って、すごいものを背負わされてしまったなと思った。自分がまた化け物に会う事になると思うと、恐怖を感じる。

「それで……」

 公稀は訊きたいことを思いついた。

「僕はカムイじゃないですよね?」

「そうね」

 桜子はうなづいた。

「良かった。それなら僕はもうあんな化け物に会う事はないんですね!」

「さぁ?」

「え?」

「普通の人間なら魔族たちが創る世界には入れないわ」

 セピア色に染まった風景が脳裏に浮かんた。桜子はあの世界の事を『結界』と呼んでいた。魔族が創る世界。確かに、生徒たちは固まって動かなかった。

「じゃあ、ぼくはいったい……」

「確証は持てないのだけれど――」

 桜子は本を閉じて、先ほどのダンボールの中に本を閉まった。

「今までにあなたは、カムイの力に触れてしまったのかもしれないわ」

「カムイの力に?」

 公稀には全く身に覚えがない。引っ越してくる前、カムイの力を使っている人なんて見たことがなかった。結界に入ったのも昨日が初めてであった。

「カムイと会ったことなんて……」

「ないなら、カムイについて知らないはずだから、分かってるわ。カムイの持っている『神具』はないのよね?」

「神具?」

「昨日も言ったでしょ。カムイの持つ物よ。わたしのこの本と同じような物」

 桜子は空色のブックカバーをつけた文庫本を出した。

「その本は確か、剣とか文字や桜が飛び出してきた本……」

「そうよ。剣はもらった物なんだけれどね」

「そうなんですか?」

「ええ。わたしにカムイのことを教えてくれた大切な人から……」

 公稀はその話が気になったが、話を変えるのはおかしいので、訊くのはやめた。

「僕はそのようなカムイの力を持ってないですけど……」

「ずっと身につけてるものは?」

「ずっと?」

 公稀は考えてみる。学生証は絶対に違うだろう。それなら自分の母親の形見の十字架のネックレスだろうか。しかし、そう考えると母親はカムイの力を持っていたということになってしまう。

「うーん……」

「どう?」

「特には……僕の母親の形見ぐらいです」

「形見?」

「はい。ずっと前に、僕の母親は亡くなってしまって……」

 と、公稀は困ったような顔をした。

「そ、そう。ごめんなさい」

 桜子は悲しげな顔をして謝罪した。

「謝らなくても大丈夫です。……これなんですけどね」

 公稀は手の平に十字架のネックレスを乗せた。十字架の中央には透明なダイヤモンドのような石がはめ込まれている。

「きれいなネックレスね」

「ありがとうございます」

 桜子は最初見たときは微笑んでいるような表情だった。しかし、その十字架を見つめていると次第に表情が変わってきた。まるで、過去に起こった何かを思い出していくかのように。

「……それを渡して」

 桜子の表情が急に険しくなる。

「ど、どうしたんですか、いきなり!」

 驚いて、公稀は立ち上がった。

「渡して」

 桜子の様子がおかしい。公稀は怖くなって扉に向かう。

「逃がさない!」

 桜子は桜色に染まった文をなぞり、それを公稀に向けて飛ばした。公稀を囲み、体と足首を縛った。

「ぐわっ!」

 身動きが取れず、公稀は勢いのままにうつ伏せに倒れた。

(こ、殺される――!)

 桜子の足音が自分の方に近づく。

「おとなしく渡して。お願い」

 桜子の手が公稀の手に握られているネックレスに迫る。

 ちょうどここで、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

「……」

 文字の鞭が消え去った。

「あ、あれ……」 

 助かったのか、と思い、公稀は安堵の息を漏らした。

 桜子はゆっくりと足を歩ませて、扉を開け、先に部屋を出る。

「ごめんなさい」

 微かにそんな声が聴こえた。震えたような声だった気がした。

「泣い、てた?」

 チラッと見えた桜子の表情はとても悲しげで、涙を流していたようにも見えた。

 よく分からなかったが、チャイムのおかげで助かったのだろう。

 公稀は形見をしまって、書庫から出た。

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