[漆] 七言絶句 の 7。
しばしの沈黙の後に、ぽっと蒼い炎が宙に灯る。夏生の手のひらの上だ。
夏生の目は、照らし出された侵入者をしっかりととらえていた。
「おい、お前」
廊下の端でカチコチになっているアキラが、ビクッと飛び上がる。
夏生が無表情に、つかつかつかと歩み寄る。
アキラの脳裏に、先ほど火あぶりになった女がよぎる。
一難去ってまた一難。
やばい、燃やされる・・・!
へたり、とアキラは腰を抜かした。
夏生の手がすっと近づく。
観念してぎゅうっと目をつぶるアキラの耳に、夏生の静かな声が聞こえた。
「高校見学なら、昼間来な」
目を開けると、眼前に、華奢な白い手が差し出されていた。
見上げると、夏生がこちらを見つめていた。
白いおでこに、さらりとかかる黒い髪、切れ長の黒い目。
黒いのに、黒以上に深い色の瞳。
思わずアキラは見とれてしまった。
「ほら、どうした」
手を差し伸べている夏生がせかす声に、我に返ったアキラ。
慌ててその手を掴んだ。
氷のように冷たい手だった。
「見ての通り、夜のこの学校は危険だ」
立ち上がったアキラから手を離す夏生。
「さっきは俺が予め結界張ってたから、何とかなった。
もし、俺が結界を張るのが遅れていたり、お前が結界の外に出ていたら・・・」
「たら・・・?」
睨む夏生の気迫に、ごくりと生唾を飲むアキラ。
「『彼女』の餌になってただろうに」
「・・・・っ!」
震え上がるアキラを「ふん」と一瞥し、廊下の奥に呼びかける。
「喃っ、お前もお前だ。
わざわざ攻撃するタイミングを教えなくていい」
「はぁい」
先ほどの子の声が返事して、とことこと足音が近づく。それが夏生の足元まで来て止まる。
炎の照らす光が届かなくて、その姿は闇に埋もれたままだ。
「あなたたちはいったい・・・」
アキラは、がくがくと頭を縦に振った
夏生の顔と足元を交互に見ているのだ。
「さっきこいつが云ったろう?」
夏生は自嘲的な表情を浮かべて云った。
「俺たちは迷える魂の案内役だ」
「案内・・・?」
「この閉じた空間から、元の、いるべき場所へ、『彼女』たちを送り出すのさ。
さっきみたいにな」
「????」
話についてこれないアキラに対して、夏生は鼻で笑う。
「・・・まあ、ガキにはわからん話だろう」
「夏生の説明の仕方が悪いんだよ」
喃が怒った口調で夏生をたしなめる。
「これで理解できなければそれまでだ。
説明する気もないしな」
そういう夏生を無視して、喃がアキラに説明し始める。
「あのね、わかりやすく云うとね・・・」
「あ、こら。立ち話をするな。まだ任務中だぞ」
「じゃあ、行きながら話そう、ね☆」
「あ、はい。。」
そんなやりとりをしながら、3つの影が歩き始めたその時・・・