唯一VS唯一
「フィルド・・・」
彼は家の前に立っていた。そちらこちらを見つけると笑顔で言ってきた。
「やぁ、事務所にいないからここだと思ってね。用件は一つ。決着をつけよう。午前零時に港の廃工場で待っていますよ。」
そう言ってフィルドは霧のように消えていった。
「フィルド・・・」
七海は僕の腕を掴んで言った。
「絶対に行っちゃダメだからね。今の唯一じゃ勝てない。相手は死神の力に魔法だよ。いくら唯一の死神の力が強いと言っても相手も同じ力を持っている。しかも相手は魔法持ち!勝てるはずが無い。だから行かないで。」
確かに、僕に勝つ勝算は無い。勝てる確率を表したら限りなくゼロに近いだろう。でも、僕が行かなければフィルドの方からやってきて僕を消しに来るだろう。そうなれば周りにも被害がでる可能性がる。僕は悩んだ。午前零時まであと三時間。
「ごめん。怒鳴ったりして。でも、僕は唯一が心配なんだ。」
シュンとして七海が僕から手を離した。僕らは家へと上がった。僕は自室にこもった。
「唯一・・・」
七海の心配そうな声を無視して。
リビングでは僕を除くみんなが揃っていた。
「フィルド・・・唯一の過去。唯一の力の半分。」
雪が独り言のように言う。どうすればいいのかみんなが悩んでいた。
『唯一は多分廃工場へ行く。』
これは長年付き合ってきた幼馴染としての勘だ。しかし、これは必然だ。みんなはわかっていた唯一が行く事を。しかし、言った所で僕が勝てる確率はほぼゼロ。そんな絶望の中に幼馴染を放り込む事が出来ないのだ。ミスミス僕を消したくは無い。それはみんな同じ気持ちだった。しかし、止められない。止める手立てが無いのだ。たとえ僕をみんなが護ろうと死神の目の前にはいささかの効果もないだろう。みんなはただただ悩んでいた。
『僕は、フィルドには勝てないのだろうか?』
たった1パーセントの希望に掛けるしかないのだ。それしか僕には勝てる道は無い。相手は僕であり僕以上の力を持っている。その1パーセントとは奇跡。
どんなに時間が止まって欲しいと願っても時は無常に一秒を刻む。いよいよ午前零時針が重なるとき決戦の火蓋が落とされる。
「やあ、よく来てくれましたね。それじゃあルールーを説明しますね。簡単ですよ。三対一でかまいませんから僕を倒せたら勝ち。でも逆に全員負けたら僕の勝ち。その際には死神の力と僕の未来。貰いますね。もし僕が負ければ僕の力を貴方に差し上げます。よろしいですね?」
僕は頷いた。
「それでは、勝負始めましょう。」
最初から全力でいく。七海は箒に乗って空から攻撃する。僕は眼帯を外して雪と融合した。僕の服が変わった。真っ白なマントに銀の髪。手には真っ黒い大きな死神の鎌。これが僕と雪の融合した状態。魂を狩る者の姿である。
「ならば僕も」
フィルドは自分の眼帯を取った。フィルドの姿が真っ黒な髪とマントに変わった。僕とは逆の姿だ。
「我の上に在りし月の女神よ。その溢れる力を使い 西に現れし災いをなぎ払え。」
七海が杖を出して呪文を唱えた。光の衝撃波がフィルドに向かって飛んでいく。しかし、死神の目の前では止まっているも同じこと。簡単に避けられてしまった。
「はやい」
その攻撃で地面に大きな穴があいた。
「七海ちゃん腕を上げたね。すごい威力だ。」
フィルドは七海の真後ろにいた。
「!」
七海は振り返る箒を加速させてその場を離れる。
「銀月に映えし漆黒の闇よ 我 星野 唯の名のもとに命ずる。来たれ 漆黒の戦士。召喚!!」
召喚されたのはコウモリのような翼の生えた騎士。まるでアニメのヒーローのようだ。
「いって!」
唯の命令と共に行動を開始する。しかし、攻撃ははじかれ廃工場にぶつかり炎上した。
「さすが唯ちゃん。強力な召喚をするね。」
フィルドはまるで戦闘を楽しんでいるようだ。無邪気な笑みを浮かべて攻撃を避けて召喚獣を破壊していく。
「楽しいけれど僕は決着をつけなきゃいけないから2人は観戦してて。」
フィルドは七海の後ろに回って一瞬で捕獲。唯も同様に魔法で捕獲された。二人はまるで蜘蛛の巣に掛かった蝶の様になった。しかも呪文を唱えられないように口に巻いて喋れないようにしている。
「それじゃあ決着をつけようか。僕自身に終止符を打つために。」
僕らは地面を強く蹴って上へと舞い上がる。羽を生やして空を飛ぶ。
「は!」
僕は鎌を勢いよく振り下ろす。
「ダー!」
フィルドが鎌で受け流し反撃する。僕は枝で受け止める。2人は大きく距離をとった。再び地面を蹴った。今後は地面すれすれを飛ぶ。僕が一閃に横に切るがフィルドは上へ前中し攻撃をかわす。回転しながら鎌を振るフィルド。僕はそれを枝で受ける。しかし、受けきれず僕は吹き飛ぶ。
「グハ」
五メートルほど跳ばされて廃工場内に激突。僕は鎌を振り回して風を起こして自分の周りの炎を消し飛ばした。
『強い。魔法で攻撃力、スピード、全てが僕を上回っている。これが・・・過去の僕だって?』
僕は勝てる自信がなかった。服は先ほどまでは真っ白だったが今では所何処に赤い色がついていた。自分の血だ。僕は勝てないとわかっている敵にまた突っ込んでいった。
「無駄なのに。炎の精霊よ 我が声に答えよ。全てを赤く染め上げよ 豪炎!」
巨大な火炎がこちらへ飛んでくる。
「そんなもの、壊してやる!はああ!」
鎌に力を溜めて火炎を切り裂いた。
「喰らえ!」
「無駄だ!」
フィルドは一瞬にして僕の目の前から消えていた。
「ガアァァァ」
背中に衝撃波をもろに受ける。僕は煙を出しながら真下のコンクリートへ激突。その衝撃で気を失いかけた。
『負けない。負けたくない。僕には護りたい者がある。唯や七海。世界を。全てを護るのは無理かもしれない。でも、僕には護りたい者がある。力が欲しい。全てを護りきれるような強い力が!』
僕の周りを不思議な力が溢れ出す。
『なんだろうこの力。今まで感じた事の無い力だ。』
しかし、僕は徐々に意識が薄れていく。もう限界に近い。
「これは、魔力の暴走?!そこまでの意思が魔力を溢れさせているのか。」
フィルドが驚いている。僕の目の前にフィドが降りてきた。
「どうやら、覚醒してしまったようですね。おや、もう意識が薄れているようですね。朦朧とした顔をしていますよ。」
強い力に飲み込まれかけている僕。もう意識が殆ど無い。でも、僕のうちに秘められた大量の魔力が暴発した。死神に魔法使いの息子なのだから魔力があるのは当然だ。そして、暴走によって魔力の封印が解き放たれた。
『すごい魔力。唯一お願い壊れないで』と七海は願った。唯も同じ思いだった。しかし、僕はそんな2人の願いを聞き入れる事はなく魔力を爆発させる。
「完全に目覚める前に僕が留めをさしてあげますよ。」
フィルドは一直線に僕に向かってくる。
「!!!」
フィルドは鎌を僕に振り下ろした。
「な!」
僕はその鎌を素手で掴んだ。握っている為血が垂れている。僕は無言で手を前にかざした。
「?!」
突然フィルドを衝撃波が襲った。フィルドは壁を貫通し何十メートルも吹き飛ばされた。すでに僕に殆ど意識が無い。あるのは・・・強くなりたい。力が欲しい。それだけだった。
『・・・・すごい力だ・・・・僕が震えている。僕は恐れているというのか?!いや、これは違う。恐怖じゃない。嬉しいんだ。僕は、僕を超える!超えて完全になるんだ。僕は失敗作なんかじゃない!』
フィルドも魔力を暴走させた。
「はあぁぁ!」
斬撃に火花が飛び散る。
「僕は過去の幻影なんかじゃない。僕はお前を超えて完成になるんだ。完全な存在に!」
フィルドの一撃一撃に巨大な意思が込められていた。
「僕は・・・負けない!」
溢れる魔力と死神の力で僕らの体はボロボロに傷ついていた。
「はぁはぁ。」
お互い体力の限界。次が最後だろう。
「はぁああ!」
「だああ」
鎌が触れ合った刹那。僕らの体力は尽きその場に倒れた。そのとき七海たちの魔法が解けた。唯達は真っ先に僕の場所へとやってきた。そこには服も体もボロボロになって倒れている僕がいた。
「フィルド・・・これ・・・で・・・終わりだ!」
僕は最後の力を振り絞って鎌を握りフィルドに刺した。フィルドは光となって僕へと取り込まれていった。そして僕は気絶した。唯達は現場を直して僕を事務所まで運んでいった。僕は宿直室のような場所で寝かされた。
「唯一・・・・」
どうしたらいいのかわからない。でも、フィルドが消えて唯一に取り込まれたのは魔力の感じで2人ともわかっていた。これによって僕が今までの僕なのかその保障がないため二人とも不安なのだ。