それは僕
鏡、それはそこにあるものをあるがままに映し出すもの。外見はすべて同じように何ひとつ間違いなく映し出す。でも、もしかしたら・・・・それは僕らを移しているのではなく、鏡の世界への覗き窓なのかもしれない。
季節が夏本番になる。猛暑というにふさわしい温度を超えていた。その暑さのせいでクーラーはオーバーヒートを起こして壊れた。おかげでこの部屋はまさにサウナだ。
「暑い・・・・」
その一言がこの部屋の温度をさらにあげていく。そんな時お客さんが来た。この部屋の暑さとその暑さにやられた社員を見て驚いていたが仕方が無いと言う顔をしている。
「あ、すみません。なんせクーラー壊れてるもので。で、ご用件は?」
訪ねて来たのは中学生の男の子だった。
「えっと、上手く説明できないんですけど、うちの学校で流行っている七不思議があるんです。実はそれが本当に起こってるんです。最初は誰かが流したでたらめの噂だと思っていました。でも、本当に七不思議が起こっていでは行方不明者まで・・・警察や先生に言っても相手にしてもらえなくて。七不思議なんてあるもんかと門前払いするんです。」と少年が言う。この時期になるとそう言った現象がよく起こる。まあ、基本的には人が死んだり消えたりする事は無いんだけどね。今年は特に霊脈の影響がひどくてこう言った事件が起こっているとこないだ協会の資料で読んだ。
「ちょっと、待って行方不明者が出てるのにどうして相手してもらえないの?」と七海が言った。
「実は、大人達はそんな人は居ないというんです。名簿を調べてもらってもその子の名前だけ消えていて。家族も記憶を無くしているみたいで。」
『まさか、忘却魔法?しかし・・・。』と僕は考え込んだ。
「わかりました。それで、どういった七不思議なんですか?」と唯が聞いた。
「七不思議と言っても俺は六個しか知らないんです。みんな同じで七個目を知らないんです。」七個目を知れば災いが起こるとかいう定番の掟である。
「かまいません。」
「一つ目は何処の学校にもあるような怪談で夜になるとピアノが勝手に鳴り出す。二つ目は理科室の人体模型が走り出す。三つ目は女子トイレの一番奥の部屋に花子さんがいるというもので。四つ目は三階の怪談が一段増えると言うもの。五つ目は笑うマリア像。六つ目が三階の鏡が光る。です。」
「なるほど、解りました。この件クラストがお引き受けいたします。ではこちらの書類にサインをお願いできますか?」
少年はサインした。少年はお金の心配をしていたが流石に中学生からお金を請求することは出来ない。それ以前に、今回は少し嫌な予感がする。だから、今回はあくまで調査という形にしておいた。
「そうそう、こう言った事件は僕らが学校に潜入するからあっても内緒だよ。」
僕は少年に僕らのことを隠す様に言った。
「中学校なんて久しぶりだね。」
七海が学生服を出して言った。確かに中学校に行くのは昨年の修学旅行以来だ。僕も学生服を着た。
「さて、向かいますか。」
僕らは学校に潜入する為に年齢を偽ってこの学校に転校してきた。まあ、天魔の姉ちゃんの作った年齢査証薬(改)を呑んで年齢を誤魔化しているんだけど。効果は3日間しか持たないからタイムリミットは3日だね。その間にけりをつけないと。
三人ともクラスはバラバラだ。同じクラスになるよりも情報が得られるからだ。
「始めまして。まどろみ町から来ました。二宮 洋二(偽名)です。よろしく。」
偽名を使う意味はあまり無いが、まあ、いいだろう。
『退屈だ。一応中学校を卒業した身なんでね。』
簡単な計算。簡単な漢字テスト。そんな事もあって一日で僕ら三人の噂広まってしまった。
「次は、体育か。」
僕は体操着に着替えた。体育は隣りのクラスと合同で行われるみたい。
「お、七海は隣りのクラスか。」
グラウンドには七海がいた。
「うん。情報は昼休みと放課後に集める予定だから。久しぶりの中学校楽しまなくちゃ。」
七海は楽しそういった。確かに学校なんて久しぶりだ。
「今日の体育はバスケットボールだよ。」とクラスの連中が教えてくれた。準備運動が終って試合開始である。七海とは敵チームになった。第二ゲームで対決だ。第一ゲームは七海のチームVS僕のクラスで一番強いといわれているバスケ部エースのいるチームだ。
「試合開始!」
笛が鳴った。七海がジャンプする。中学生が日頃訓練している七海に勝てるわけもなく。七海の独走状態を作る。
『それもいいけど・・・ここはやっぱりみんなと協力してやりたいな。久しぶりだし。』と七海は思ったらしい。その為パスしたりカバーしたりと大活躍だ。しかし、相手もバスケ部エースの名はだてじゃない。上手くボールを奪って点を入れていく。点差は二点。
「月影さん!」
見方からパスされたボール。しかし敵も馬鹿ではないので七海の行く手には壁のように人がいる。しかし、七海はニヤとわらった。七海は勢いよくジャンプしてボールを投げた。
「そんな遠くから届くはず無いだろ」とバスケ部エースが言う。しかしボールは見事に入った。どうやったら自分のゴールから相手のゴールまで届くんだ?その一撃で会場が熱気に包まれた。
『七海、力使いすぎ。』
試合終了。結果は一点差で七海のチームの勝ち。さすが七海である。第二試合。僕のチームVS七海のチームだ。
「試合開始!」
ジャンプから接戦を繰り広げる。七海がボールを取った。僕は七海にピッタリ着いていく。一応、運動神経は悪くは無い。七海のスポーツパワーに敵わなくとも相手ぐらいになる。
「月影さん。こっち」
七海がパスをしようとしたところをカットした。そのまま一気に走り出す。
『やるね。でも、僕からは逃げられないよ。』
七海は一瞬にして僕の道を塞ぎ前に立ちふさがる。
『右か・・いや左・・・』と僕は慎重に逃げる作を考える。
僕は左にボールを投げるふりをして右にボールを投げた。
「甘い!」
一度は左に手を伸ばしたものの一回転してボールを後で取った。
「な!」
すぐに七海は味方にパスをする。僕は急いでボールを追うがシュートされ得点が入れられた。それから僕は七海と接戦を繰り返すも後一歩及ばす負ける。こうして七海の不敗神話が出来たのであった。
昼休みになると本題の七不思議について調べた。
「そうなんだ。ありがとう。」
男子生徒は去っていった。
「やっぱりみんな同じことしか言わないな。」
僕は手帳を閉じた。特に収穫はなし。っと。僕は授業に戻ることにした。
放課後。僕らは部活動案内をされた。まあ入るつもりは無いが。
「ねえ、聞いた。ついに二人目の行方不明者だって。」と部活動をしている女子生徒が噂していた。
「そうそう。なんでも最後に見かけられたのは夜中のこの学校だったって話よね。やっぱり七不思議の最後の謎を知っちゃったからかな?」
「そういえば洋子ちゃんそんなこと言ってたっけ。最後の不思議を掴んだとか。」
僕は駆け寄って。
「その話詳しく聞かせてくれない?」
各自調べた資料をその日の事務所で話したった。
「僕の調べた所。行方不明になった子は2人。岡島 卓也・水島 洋子。この二名の共通点は2人とも七不思議最後の謎を知っていたと言う事だ。そして知ったその日の夜にいなくなっている。」
僕は今日聞いたことの報告をした。
「でも、その七つ目の不思議は誰にもばらしてないんだよね。一体どうして水島洋子は七番目の不思議を知る事が出来たんだろう?それに、七不思議が起こるのは夜なんだよね。ということはその子達は夜の学校に忍び込んだわけだ。そしてその次の日に消えた。」と七海が珍しく考え込んでいる。それに続いて僕らも考えた。
「記憶が消されているのも疑問だ。ただの霊脈の乱れなら記憶消去の魔法は無いはず。でも、今回それがあるって事は・・・。」と僕が言うと唯が
「魔法使いが絡んでるって事だよね?」
「うん。もしかすると、七番目の不思議はその魔法使いなのかも知れない。」
結果
「とりあえず明日の放課後、学校に忍び込んで調査しよう。」というものになった。タイムリミットは後二日。それまでに何とかしないと・・・
翌日。学校中(生徒)を騒ぎ立てる事件が起こった。なんとあの行方不明の2人が学校で発見されたのだ。話によると、七つ目の七不思議を覚えておらず行方不明になった前々日からの記憶が無いという。つまり事件の事を覚えはいない。発見場所は三階の鏡の前。2人とも気絶している所を見回りの職員に発見されたらしい。魔法が解けたのか突然のごとく思い出した大人達は混乱している。昼休み。僕ら三人は2人の休んでいる保健室へと向かった。二人とも眠っていて起きる気配は無い。
「これは・・・」
七海が険しい顔をした。何かに気付いたようだ。唯も何かを感じている。
「やっぱり・・・。」と七海がきになる事を言うが本題は話さない。まあ一般人の前に僕らのことを知られる訳にはいきませんからね。だから毎回契約書にサインしてもらって他の人には喋れないようにしているんです。あの書類に書いてある事は他言無用の魔法が掛かっていますから。
「唯一、いったん出よう。」
七海に言われて僕らは保健室をでた。人気の無い場所で七海が先ほど感じた事を話した。
「あの子達から魔法を感じた。あの子達自身に魔法の力はないと思う。あれは何らかの魔法が掛けられた後なんだと思う。」
唯も頷いて
「私も感じた。2人とも同じ魔法を掛けられていたよね。」
僕は2人の会話からどんな魔法が掛けられたのか推理した。
「やっぱり、記憶消去魔法?」
「おそらくは。やっぱり、やっかいなことになるね・・・」と唯が言う。
「そうだね。つまりは裏に糸を引く魔法使いが居るって事が確定しちゃったし。」
すごい厄介な事になった。僕らはその日の夜学校に忍び込んだ。夜の学校は何度きても不気味である。しかも、真夏なので暑い。
廊下の一番奥にある姿見。そこで行き止まりになっている。ほとんど人は近づかない場所で今では空き教室が並ぶ場所とされている。
「ここで最後か・・・」
僕が鏡の前に立った。その瞬間鏡が揺らいだ。目の前に移っている僕ら三人。でも、表情が違った。なぜか笑っている。
「この鏡・・・まさか!?」と僕が声を出した瞬間鏡に映っている僕らが手を伸ばして僕らを掴もうとする。手は鏡をすり抜けてこちらに姿をあらわす。僕らは一歩下がろうとしたが後ろの床が崩れてなくなった。
「これって、魔法!?」
鏡の僕に僕は手をつかまれた。同様に七海と唯も鏡の自分に手をつかまれて徐々に引き込まれていく。しかもすごい力で抵抗できない。僕らはついに鏡の中に放り込まれた。
「のわ!」
鏡の中は一面真っ白な世界でいくつかの鏡が飾られていた。そして、僕らの目の前には僕らと同じ格好をした僕らがいた。
「あんた一体何者?!」と七海が杖を出して聞くも答えない。
「鏡だから喋れないのか?」
その言葉を聞いた七海は笑った。
「姿を真似ても言葉が喋れないんじゃあ呪文も唱えられないね。僕の勝ちだね。我の上に在りし 月の女神よ 聖なる光の名のもとに 災いの闇を 切り裂け。」
七海が呪文を唱えて杖を振った。その瞬間、杖から光の粒が数発放たれた。しかし、僕らの偽者は鏡から外に出てしまった。七海の攻撃も鏡の先には届かなかった。
「逃げるな!」
鏡の向こうで僕らの偽者が笑った。そして走ってどこかへ行ってしまった。
「早くここから出ないと。」
僕らは外へでようとした。しかし、腕が出せるだけで体が出ない。しかも出そうとすると電撃が走る。
『これって結界。閉じ込められた。』
「ここからはでられませんよ。」
突然知らない声が後ろから飛んできた。僕らは振り返る。そこには真っ黒い喪服のような服をきた十歳くらいの男の子がいた。髪が綺麗な銀の色をしている。
「君は一体?」
僕は彼の左眼が気になった。僕と同じように眼帯をしている。
「僕の名前は・・・フィルド。君達と同じ魔法使いさ。ちなみにあの2人の生徒を捕まえたのも僕。開放すれば君達は必ずここに来ると思ったからね。僕の目的は君の持っているその死神の眼。その目が欲しいんだ。」
『この子、唯一の死神の目を知っている。一体何者?まさか、この子がこの魔法の主!?』
七海が思考をフル回転させて考えた。この状況からしてその可能性が強い。フィルドは七海の考えを察したかのようにいった。
「そう、この空間を作ったのは僕です。そして、貴方方は見事に僕の罠にはまった。シナリオどおりに動いてくれて本当に助かりました。」
七海は杖を構えた。
「おっと、そんなに怖い顔しないで下さい。そうだ、一つ善いことを教えてあげます。この学校の七つ目の不思議、それは鏡の自分と自分が入れ替わってしまうって事です。まあ、六番目の不思議は光るだけですけどね。その次の工程といったところでしょう。でもその鏡、僕が作り出した偽者なんですよ。」
フィルドは無邪気な笑みでいった。まるで自分がすごいだろと自慢しているように。
「だったらあんたを倒してこの空間を壊せば何もかも解決じゃない。」と七海が呪文を唱えようとする。
「簡単に言ってしまえばそうですね。でも、そんなこと果たして出来るでしょうか?」
「どういう意味?」
僕に質問にフィルドは笑って言った。
「僕は貴方達と戦う気はありません。でも、どうしても戦いたいと言うならば面白いゲームにしましょう。」
突然、空間が揺らいだ。目を開けるとそこはミラーハウスのように何処も鏡だらけ。そしてフィルドの姿がない。しかし声だけがした。
「これからゲームのルールを説明します。簡単ですよ。この中にいる僕の造り出した幻影。先ほど貴方方の見た自分を見つけて倒してください。それだけです。ね、簡単だったでしょ?」そこで声はと出た。
『つまりこの中に、僕らの偽者がいるわけだ。』
無数の鏡に映った無限の自分達。一体どれが奴の幻影だ。
「だめ・・だ・・・」
『え?声がうまくでない・・・なんで』
そこでフィルドの声が聞こえた。
「いい忘れていたけれど鏡の幻影は君達と入れ替わる。制限時間は後10分くらいかな?それまでに倒さないと君達は鏡の幻影といれかわってしまうよ。鏡は喋れないからね。もうじき言葉もだせなくなるかな。」と言って消えた。
『冗談じゃないぞ。こんな所で消えてたまるか。』
でも何処に誰が居るのかわからない。とりあえずみんな手を繋いで離れないようにした。でも時間がなくなれば僕らの負けだ。でも下手に動いて解らなくなったらやばい。どうする・・・
『どうする。七海も唯も喋れないから魔法が使えないし・・・』
そんな時、僕の後ろの僕が動いた。
「!」
僕は危うく攻撃されるところだった。しかし、その時七海達とはぐれてしまった。
「もうすぐ僕が君になる。」と鏡の僕が喋った。僕は反撃する事にした。蹴りを入れる。しかし鏡が割れた。
その頃七海は。
『みんな何処に行っちゃったんだろう。』
『どこだ。何処に・・・』
僕の目の前に七海が現れた。
『本当に七海なのか?』
僕はあまり疑いたくはないが疑わざるを得ない。七海は微笑み僕に杖を突き刺した。
「・・・・・!」
僕は目をみひらいた。偽者なのか。
「君は唯一じゃない。」と言って僕のみぞおちに膝を入れた。
「がぁ」
声と言うよりも息に近い音だ。
「何を言ってるの。」
声が上手くでない。しかし七海は僕に回し蹴りを喰らわした。僕は鏡に叩きつけられて。
「なんで・・・わかった」
僕の顔にひびが入る。
「さあね」
僕は砕けた。そう、七海が僕を偽者だと気付いたのは眼帯である。鏡に映った僕は右目に眼帯をしていることになる。つまり七海は僕の眼帯を見て判断したのだ。これで一人僕の幻影が消えた。後は七海と唯だ。
『もう時間が無い・・・』
時計を見ると後時間は5分。この間に見つけ出して倒すのはちょっと無理かも・・・
『しかたない・・・』
僕は眼帯を外して雪と融合した。どんなに離れていても融合する事が出来る。ちなみに雪は鏡の前で僕らを待っていた。
僕の服が変わった。真っ白なマントに銀の髪。手には真っ黒い大きな死神の鎌。これが僕と雪の融合した状態。魂を狩る者の姿である。
『見える。この場所にあるエネルギーが・・・』
僕はそれを頼りに七海と唯を救出し鏡と幻影全てを破壊した。空間が歪み元に戻ると僕らは校庭にいた。
「お見事。ゲームは貴方方の勝ちです。さすが死神の目ですね。やっぱりその目欲しいですね。」
「なぜこそまで僕の目にこだわるんだ?」
「僕の・・・ですか。間違ってはいませんがそれは僕の目でもあるんですよ。」
フィルドは自分の眼帯を取った。その眼は僕と同じ死神の目だった。フィルドの姿が真っ黒な髪とマントに変わった。僕とは逆の姿だ。
「は!」
一同が息をのんだ。その姿は昔の僕だった。そう、丁度十歳の頃の僕の姿だ。
「まさか!?君は・・・」
「お察しのとおり。僕は君です。正確にいえば君の過去です。君は十歳の頃両親がその死神の目を封印する為に魔法を掛けた。しかし、強力な死神の目はいくら両親と雖も(いえど)封印する事は出来なかった。正確には完全に封印する事は出来なかった。」
思い出した。僕の力は危険だと十歳の頃まで他の場所から隔絶されていた。僕は十歳の頃両親によって死神の目の封印をする為、魔法を掛けた。しかし、死神の力は強く半分だけ封印に成功した。それ以来死神の目は僕の左眼だけになった。それ以来僕は外に出られるようになった。
「しかし、正確には封印できなかった。そのときの半分の力は君の過去である僕に移された。でも僕の未来は貴方。だから僕はあの時の体のままなんだ。でも僕は見つけた。僕の片割れをこれで僕は大人になれる。これで僕は本当の僕になれるんだ。」
まさかフィルドが過去の僕だとはね。しかも彼が僕の失われた力をもっているとは。まさか敵が自分だとはね。ついでにフィルドに魔法の力まで移っていたとは。どうりで魔法使いの息子なのに魔法が使えないわけだ。
「今日はこれで失礼します。またゲームしましょう。」
そういってフィルドは闇夜に消えていった。僕は融合を解除したとたんに倒れた。
病院
僕は鏡の戦闘のさいに足と骨を折ってしまった。だってどこを攻撃してもかがみに突き刺さるんだもの。その上から攻撃されて足の骨が折れたのだ。そんなわけで今は休養を兼ねて入院中。「唯一。お見舞いきたよ。」
七海と唯がりんごを持って来てくれた。まあ、あれ以来フィルドに関しての事件は起こってないんですけどね。でも依頼は来ますよ。ちゃんと七海と唯が解決してくれています。なんだか僕がいなくてもしっかりやってるような・・・(苦笑い)
「お、ありがとう。」
唯がりんごをむいてくれている。
「はいこれ、今回の事件の報告書。で、こっちが記入書類。手は動くらか大丈夫だよね。」と七海は机をだした。書類に目を通す。
「えっと、来た依頼は全部で3件。一般からが2件と魔法団体から1件。」
「さすが七海と唯、仕事が速いね。」
七海と唯は少し照れた。本当に僕なんかよりも仕事上手だ。
「はい、りんごできたよ。」
僕は唯からりんごを受け取った。りんごは可愛くウサギになっている。しかも目までついている。すごいこだわりようだ。
「ところで七海。フィルドに関する事件とかない?」
僕はりんごを食べながら聞いた。七海は首を振った。
「あの鏡の事件以来まったく音沙汰無し。まったくどこにいっちゃったんだろね。」と言いながら七海もりんごをつまんだ。
「でも・・・未だに信じられないよ。唯一君の過去の存在が唯一君を消そうとするなんて。」唯が切なそうに言う。
「フィルドも僕も同じ存在。過去と未来か・・・・」
場の空気が重くなる。フィルドが僕の過去の存在で僕の力の半分を持っている。でも過去だから成長できない。
「どうしたらいいんだろう・・・」と一同が悩む。
「とりあえず。今は唯一の怪我が治るのを待ちましょう。今のところあいつが何か事件起こしてるわけじゃないし。」
一同が頷く。そういえば雪の姿を見かけない。一体どこに・・・・
その頃雪は病院の屋上にいた。屋上には病室で使われるシーツなどがほしてある。
『フィルドの言っていたことが本当だとすれば私の力が弱いのはその為・・・・でも私自身記憶が無い。』
雪の記憶は僕の方割れが封印されてからのものしかない。僕も雪に合ったのはその時が初めてだ。雪はすこし不安になった。自分は一体何者なのか、死神であるそれは事実だ。しかし、それ以上に何か頭に引っかかる。
「もし、あのフィルドって子が元の唯一になったら私はどうなるのかな・・・」
予想できない未来。その不安だけが雪の心にあった。
「今は考えてもしょうがないか・・・唯一の所行こうっと。」
僕はとりあえずする事もないので本を読んでいた。七海と唯は事務に帰っていった。
「唯一、おかげんどうですか?」
雪がやってきた。僕は本から顔をあげて答えた。
「相変わらず退屈だよ。」
「そうだろうね。何にも無いしね。」
「あるのは暇と時間だけ。」
「でも最近忙しかったらいいんじゃないかな?」と雪が言う。確かにここのところ色々と忙しかったからね。しょうがない。それじゃあ僕は三食昼寝つきの休暇をのんびりすごすか。
雪が聞いてきた。
「もし、もしだよ。フィルドの言ったことが本当だったら、フィルドと融合した唯一や私はどうなるんだろう・・・」
僕は言葉に詰まった。不確定な事ではっきりと大丈夫とはいえなかった。最初は未来である僕が残ると思っていた。でもあの台詞“これで僕は大人になれる。これで僕は本当の僕になれるんだ。”あの時フィルドは嬉しそうな顔をしていた。
「まあ、なんとかなるだろう。なるようになれだ。」
僕はぎこちない笑みを浮かべて雪に言った。
「そうだよね。わからない事予想してても意味無いものね。それじゃあ私は病院を回ってようかな。」
雪はそうして病室を出て行った。
翌日。今回はお見舞いの人数が多い。七海、唯、雪。そして天魔の姉ちゃんだ。 僕はただならぬ気配を感じていた。その天魔の姉ちゃんが持っている試験官に入った液体。それは一体何なのか?いや、言わないでくれ。
「さあ、唯一君。これを飲めば一瞬で骨折なんか治るよ。」と天魔の姉ちゃんが満面の笑みで僕に言う。僕は後ずさりし、2人に救いを求めるが2人とも首を横に振った。
「あ、あの。今、医者に掛かってるから不自然なことは起こさないほうが・・・」
「何を言ってるの?仕事できない方が困るでしょ。」
いや、本当にいらない・・・だってどんな副作用があるか・・・
「いいから飲みなさい。」
僕は天魔の姉ちゃんに魔法で縛られ強制的に口を開けさせられた。
「ささ。」
天魔の姉ちゃんの顔が鬼に見えた。
「!¥?~-|“#$%&‘()」==’」
声にならない叫び声が病室にこだました。僕はベッドの上をのたうちまわっていた。
『苦しい・・・足痛いし・・・』
激痛と共に僕の体に異常な事態がおきた。なんとネコ耳と尻尾が生え出したのだ。それを見た天魔の姉ちゃんが。
「あ、これ、動物用の治療薬だった。」という。七海と唯は僕のもだえる姿になんともいえない表情でいた。
「まあ、効力は同じだけどしばらく副作用の動物変身がつくわね。しかも人間にやったから中途半端な変身に。」
僕はそのうち気絶した。
目が覚めると苦しみは消え、足も元に戻っていた。しいて言えば回復しているような感じだった。問題は・・・・
「やっぱりニャ~」
僕は鏡をみて愕然とした。ひげが直接生えていて頭にはネコ耳。さらには尻尾ときた。これじゃあ前回の変身薬のほうがまだよかったよ。語尾は勝手に体が反応してしまうのだ。
「あ、起きた。やっぱり三十分じゃ変身は解けないか。」と天魔の姉ちゃんが気楽そうに言った。
「後どのくらい僕はこのままなニャンですか?」
「長くても一時間ね。早くて後三十分。」
僕はため息をついた。しかし、突然体が熱くなり煙が出た。
「けほけほ」
今度は一体どうなったんだ?反応を見て見ると。七海は笑いをこらえている、天魔の姉ちゃんはため息をついている。この展開前にもあったような・・・。僕は唯の方を見た。
「唯一君可愛い!!!」
僕に抱きついてきた。唯は可愛いものを見ると目の色変えて擦り寄ってくる。僕は近くにあった鏡を見た。そこに写っていた僕はなんと本物の猫になってしまった。しかも眼帯つきで。
「こら!七海、写真とるニャ~。」
七海が何処から持ってきたのか写真を取っている。しかし七海は聞いてくれない。唯が僕のあご下を撫でた。
「ゴロゴロ」
猫みたいに鳴いてしまった。体が勝手に反応したんだ。真っ白な猫だ。
「どうやら動物変身の効果が強かったみたいね。時間が経って変身するなんて。でも長くて一時間だから。」と天魔の姉ちゃん。唯は抱きついて僕を埋める。
『く、苦しい』
「僕にも抱かせて。」
七海が僕を弾力のある胸元へ押し込んだ。
『い、息が出来ない。し、死ぬ~』
案の定何処から現れてのか雪までもが僕を抱きしめた。
一時間後、僕は元に戻れた。体力をほとんど奪われた状態で。
「変なもの飲ませないで下さい。てか自分で飲んでください。」
「あはは。まあ、今度は改良したのを持ってくるから。じゃあね。」
「持ってこなくていい!!」と叫んだ頃にはもう姉ちゃんはいなかった。
「相変わらす逃げ足だけは速いな。」
しかし、翌日の検査で薬の効果があったらしく骨は完全に回復していた。天魔の姉ちゃん。たまにはまともなものを作ってください。と心から願った。