暗躍の陰
その日来たお客さんは僕達と同じくらいの年来の女子高生だった。
「ご依頼は?」
彼女はカバンから一つの名刺を取り出した。
「あの、こちらの会社の名刺ですよね?」
「えぇ。」
僕は名刺を見た。確かにうちの会社の社章マークが入っている。
「やけに古い名刺ですね。」
雪が言った。確かに古い。この名刺はこの会社が出来たばかりの頃に出来た名刺だ。名刺の下に製造日が書いてある。製造日を書くのがこの会社の特徴だからね。僕は名刺に書いてある名前を見て驚いた。
「この名刺。僕の父さんの名刺だ。」
「唯一のお父さんの?!」
七海が驚いた。
「この名刺は何処で?」
「おじいちゃんが持っていたんです。もし私に何かあったらここへ行きなさいと。」
「なにか・・・なにかとは?」
彼女は少しためらって、お茶を飲んでからようやく口を開いた。
「実はおじいちゃん、数日前に失踪しちゃったんです。最初は近所の人と遊んでるんだと思いました。でも、もう五日も帰ってこないんです。」
「なるほど・・・解りました。この件、私たちクラストがお引き受けいたします。では、こちらの書類にサインと連絡先を明記下さい。」
彼女は書類にサインを書いた。
「ありがとうございます。では、後日連絡させていただきます。」
彼女は帰っていった。
「この件、なんだか嫌な予感がします。」と雪が言った。
「嫌な予感?」
「えぇ、上手く言えませんが、あの子なんだか死者の匂いがしたんです。彼女自身は生きているんですが・・・」
僕は首をひねった。
「それじゃあ、依頼人の所に行ってくるね。」と僕は声を掛けた。
「ごめんね。本当は僕も一緒に着たいんだけど別の件で忙しくて。もし何かあったら連絡ちょうだい。」
七海は別の事件でお仕事中。同様に唯も。だから今はクラストには誰もいません。こういう場合は唯が式神を残していくらか問題ないんだけどね。
「うん」
僕は依頼人の家へと行った。そこは一軒家で和室を中心として作ってあった。
「う!」
僕の目が痛み出した。つまりここには強い力があるということだ。
「大丈夫ですか?」
依頼主が聞いてくる。
「えぇ。大丈夫です。」
僕はさらに力の強い場所へと案内される。
「雪。この魔法の感じどこかで・・・」
雪が答えた。
「ホムンクルス事件の時ですね。あの時とかなり似てますけど少し違いますね。」
でも似ている。そして案内された部屋は大量の人形が飾ってあった。それも全部日本人形。色々な意味で不気味である。
「これは・・・」
僕はその人形を手にとって調べた。背中にお札が貼ってあった。そのお札を見て僕は驚いた。
「このお札。まさかコピー!」
さらに目が痛み出す。その時目の前が真っ赤な空間に包まれた。まるで僕らを出さない為の結界を張ったかのように。
「しまった。これは、魔術の暴走。」
そう、このお札は自分の魂をコピーするものだ。しかし、その呪法はタブーとされ今ではその製造方法を闇の中とか。何故タブーなのかというと魂のコピーはその人の思考をなくし最終的はその人の欲望だけになり、さらに悪化すると暴走を起こし、その魂が魔法に変わってしまうからである。
「あれが・・」
目の前にいたのはおそらく依頼人のおじいちゃんだろう。その姿は泥で構成されていて目だけが唯一人間の名残を見せている。
「やっぱり繋がらないか。」
携帯で七海達に連絡を取ろうとするが繋がらない。おそらく空間が捻じ曲げられて電波が入らないのだろう。暴走したおじいさんは泥の塊を僕らに向かって吐いた。
「!」
泥の球を切ったのは雪だった。
「唯一、大丈夫?」
「雪。」
雪が戦おうとしている。しかし、雪自身の力は弱い。僕と融合して初めてあの強い力に変わる。しかし、それと共に僕はリスクを負う。
「融合はしなくていい。多分、七海達が来てくれると思う。あの仕事、七海達ならすぐに終る。」「ガヤアア」
怪物が吼えた。その声は既に人間の声ではない。泥のムチで雪を狙う。雪は飛んで攻撃を避ける。すかさず鎌で攻撃するが泥に打撃系の技は通用しないみたい。
「ガヤアア」
雪は急いで離れて鎌を空中で振った。すると、そこから真っ白な衝撃波が奴を襲った。しかし、傷はすぐに回復する。
「これじゃあ、きりが無い。」と雪がぼやく。確かにその通りだ。
「ガウアア」
雪が前から来た攻撃に対して鎌を降って切り裂いたが後ろからのムチに気付かず捕まえられる。壁が無いのに壁に押し付けられようになり雪が十字架にされる。
「しまった。」
「雪!」
雪に向かって泥の槍が突き刺さった。真っ赤な血が噴出し着ていた真っ白な服が血に染まっていく。それは徐々に前から赤かったようになっていった。そして雪はガックリと動かなくなった。光の粒子となって雪は消えていった。
「ゆ・・・・き・・・・?」
僕は愕然とした。こんな事今までに一度もなかったから。怪物がこちらへ向かってくる。しかし、僕自身になんの力もないのでどうする事も出来ない。怪物は僕には目もくれず彼女を狙っている。どうやら彼女を取り込もうとしているらしい。もう、彼は彼女のおじいさんではない。もはやだだの化け物だ。僕は彼女を背に隠すが意味がない。そんなとき光の矢が怪物に突き刺さった。
「七海!!」
「やあ。よく持ったね。後は僕達に任せて。」
七海は呪文を唱えて即ボロボロに追い込んだ。
「後は、私に任せてください。ちょっとこれには恨みがあるんで。」
「雪!生きてたのか?!」
「私は死神だから死にません。てか、勝手に殺さないで下さい」
「あ、そういうもんですか。」
しかも、ちょっと怒っています。雪は怪物の魂を浄化した。
「さて、これでお仕事終了っと。」
空間の歪みが消えもとの和室へ変わった。
「でも、なんで貴方のお爺さんはこんな事をしたんだろう?」
僕は人形を燃やしながら聞いた。
「多分、私がおじいちゃんと離れたくないって言ったからだと思います。」
「離れたくない?」
「うん。おじいちゃんに死なないでって。多分それでお爺ちゃんはタブーを。」
「だから、この魂が天国に行かないですね。」
雪がお爺さんの魂を持っていった。
「おじいちゃん。私、もう寂しくないよ。だからもう安心して、ね?」
その言葉に安心したのか魂は上へと上がっていった。
「あ~あ。せっかく僕がお札上げたのに全部燃やしちゃって・・・でも、いいもの見つけたからいいや。」
電柱の上から僕を見下ろす真黒い喪服をきた男の子。彼は一体何者なのか。僕はまだそれを知らない。