聖女のお願いなら、叶えなくちゃね★~監督局も巻き込んでの大茶番劇~
「婚約破棄したい……?」
「正確にいうと、婚約破棄茶番」
「……わたくしに何かご不満でも?」
「ち、違うよ! 私は君のこと愛してる! 愛の女神ディファーに誓ってもいい!」
「ディファーに誓ってどうしますの! ディファーは国防の神です! そして究極の面食いで前王朝の王家を呪った神です!」
「あ。そっか、うち、愛の神様いなかったね。って、ディファーのは祝福だろう。呪いよりたちが悪いけど。というか、君を愛しているのは信じてくれるよね!?」
「信じますけれど……では何故、婚約破棄なんて」
「だから、婚約破棄茶番ね。セシリアがやりたいって」
「まぁ、セシーが? それなら叶えてあげたいですけれど……」
「でも、婚約破棄茶番やったら、監督局出てくるからさ」
「ですわねぇ……。でも、誰ですの。セシーに婚約破棄茶番なんて教えたのは」
「ほら、半年くらい前に異世界転移聖女、来ただろう? 彼女らしい」
「ああ……あの方。でも、あの方矯正修道院に送られましたでしょう? 現実不認識の罪で。あと、ラノベ願望症候群の罪もありましたわね」
「うん、みっちり教育中。まだまだ先は長そうだけど」
「で、その異世界転移聖女、マツリさんでしたかしら。彼女が何を教えましたの?」
「異世界で流行っているという物語。平民出身の聖女が王子と結ばれる話で、クライマックスで悪役令嬢を断罪して婚約破棄するらしいよ」
「……アクバラー王国時代に大流行したというアレですのね」
「そう。ほら、セシリアはマツリに懐いていたから……」
「何にでも興味を持つ年頃ですものね……」
「そうなんだ。この前孤児院に慰問に行ったときにお願いされてね」
「そうでしたのね。如何でした、セシーの様子」
「うん、立ち居振る舞いはまだまだだね」
「仕方ありませんわ。まだ貴族になって3年ですもの。漸く基礎教育半ばといったところでしょうし」
「それで、誰と誰が婚約破棄して、誰と誰が真実の愛なのか、聞いたんだ。そうしたら、ルーミルが婚約者で、その婚約者のユーリアと婚約破棄して、セシリアとルーミルが真実の愛らしい」
「……それ、無理がありますわね。現実を考えますと」
「私もそう思う」
「無理だと言うほかありませんわね」
「……言ったんだ。大泣きされた。それで神官長に叱られた。セシリアを聖女認定したのはシッル神だろ? 秘密の暴露されるぞって脅された。神官長が脅すなよ……」
「この前はセシリアを泣かせた某男爵家の次男が12歳までおねしょをしていたことを暴露されていましたものね……」
「うん、だから神官長からもセシリアの願いはある程度聞くように言われてるんだよね」
「聞きすぎて傲慢になっても困りますから、そこは悩みどころですわね」
「うん。それに、いくらセシリアの頼みで、神官長のお願いでも、流石に婚約破棄茶番はね……。即座に監督局が反応するだろ」
「ですわねぇ……ここ数十年婚約破棄茶番がありませんから、茶番課が暇だとオーサ課長が愚痴っていらしたわ。暇なのはいいことですけれど、あまりにもないと手順や捜査手法、魔道具の調整など、色々と継承できないのですって」
「……なぁ、茶番って、茶番劇だよね? だったらいっそ、演劇にしようか」
「はぁ? 殿下夢でも見ていらっしゃる? 眼を開けて寝る特技があるなんて、婚約して15年、全く存じ上げませんでしたわ」
「うん、15年前から口悪いよね、エディタ」
「ですが、お芝居なら、監督局に捕縛されることはありませんわね。セシー以外は皆お芝居だと解っていて、セシーにだけ秘密。勿論、監督局には事前に連絡しておく、と」
「問題はルーミルとユーリアだなぁ。ユーリアはまぁ、出来るかもしれないけど、ルーミルは嘘でも婚約破棄とか言ったら泣きそう」
「有り得ますわねぇ。ルーミル殿下、お小さいときのルカーシュ殿下とそっくりで泣き虫さんですもの。ユーリアはユーリアで従姉妹ですのになぜかわたくしにそっくり。主に言動が。これ、お母様姉妹のせいですかしら」
「ユーリアが君を大好きで、君もユーリアを可愛がっているからじゃないか? まぁ、ユーリアはノリノリでやりそうだよね」
「問題は……お二人ともちゃんと台詞を噛まずに言えるかですわねぇ」
「時間帯も重要だよ。夜会はセシリアたちは参加できないし、日中も午後は難しい。となると午前中か」
「わたくしたちの公務の時間を調節するしかございませんわね」
「そうと決まれば、協力者を……って、お前たち話聞いてたな? その顔は参加する気満々だな?」
「殿下の侍従に護衛騎士、わたくしの護衛騎士と侍女、王宮の給仕係の侍従とメイド。あら、彼方からは庭師も顔を見せてますわね。……陛下、妃殿下、見なかったことにしたほうがよろしくて?」
「父上も母上も何をやってるんですか。え、侍従が面白そうな相談をしてると魔道具で知らせてきた? おい、どの侍従だ。正直に名乗り出ろ。特別賞与をやる。ってことで、父上、監督局のオーサ課長に連絡してください。婚約破棄茶番の模擬訓練やりましょうって」
「あにうえー!」
「あら、ルーミル殿下」
「あ、エディタ姉様! ごきげんよー」
「ええ、ごきげんよう、ルーミル殿下」
「ごきげんよお、エディタねえたま……ねえしゃま……ねぇ……」
「ユーリア、泣かないでいいのよ。段々上手に言えるようになってきたわ。まだ3歳なのだからゆっくりでよろしいのよ」
「あい、エディタねえさま。……言えた!」
「良かったね、ユーリア」
「あい、ルーミリュでんか!」
「……ルカーシュ殿下、この子たち、台詞言えます?」
「微妙だな。ラフマー魔術技官に何かいい魔道具はないか確認しよう」
「そんな都合のいい魔道具ありますかしら……監督局ならありそうですわね」
「兄様、何お話ししてたんですか? 僕にも関係あるの?」
「うん。セシリアがお芝居をしたいんだって。それで、ルーミルとユーリアにも協力してほしいんだ」
「せしー! ユーリア、せしーだいすき! せしーとおしばいしゅる!」
「むー。セシーより僕のほうがユーリアのこと好きだよ!」
「ユーリアは、せしーもルーミリュしゃまもだいすき!」
「僕もユーリアのこと大好き!」
「……平和ですわねぇ」
「ああ。芝居の台本を考えないとな」
「殿下、貴方がひそかに劇作家を目指しておられることは存じておりますが、正直才能有りませんわよ。趣味に留めてくださいませね。カヌーンの演劇史に駄作家の名を残したくはございませんでしょう?」
「誰か、エディタの歯に着せる布を持ってきてー!」
それから約1か月後、王宮のサロンでルーミルとユーリアの『婚約破棄茶番』劇が開演した。主演第五王子ルーミル(4歳)、主演女優聖女セシリア(5歳)、助演アドワ侯爵令嬢ユーリア(3歳)。脚本第三王子ルカーシュ、演出ファクル公爵令嬢エディタ。
観客は国王と王妃、前国王と王太后、王太子(第一王子)夫妻、第二王子夫妻、第四王子、何故か降嫁していた第一王女と第二王女も夫共にやってきていた。
そして、オブザーバーは王国特殊法監督局の婚約破棄茶番課の総員11名。課長のオーサは幼い子供たちの熱演に涙を流していたらしい。
こうして、小さな聖女の願った『婚約破棄茶番』劇は無事に終演したのであった。
なお、10数年後、これはセシリアの黒歴史となり(おねだりしたことが)、それは秘密保持の権能を持つシッル神によって厳重に部外秘として保管されたのだった。因みに部外秘の『部』がどの範囲なのかは謎である。




