閑話 怪物グラウ・クレーエの誕生
グラウ・クレーエは、ミル=セナ王家の血を引く高貴な生まれだった。
何不自由ない暮らし。
誰もが頭を垂れ、彼の前にひざまずいた。
彼には二人の姉がいた。
姉たちは毎夜、宮殿で開かれる舞踏会へと出かけていく。
その光景が、永遠に続くものだと――
誰も疑っていなかった。
壊れるはずがない。
あり得るはずがない。
そう、思っていた。
グラウが八歳のときのことだ。
今から二十五年前。
ミル=セナに“変革”が起こった。
王家の縮小と、分家の廃絶。
もともと、商人たちの力が強い土地ではあった。
だが慣習として、
彼らは王家を立て、自らをその下に置いていた。
――それが、崩れた。
協商連合の巨大化。
魔導帆船の導入による海運の発展。
それは急速に商人たちの力を肥大化させ、
やがて彼らは判断した。
“王家は不要だ”と。
他国との体裁のため、
王家そのものは残された。
だが、それはもはや――
必要最小限の飾りに過ぎなかった。
当然、一族は反発した。
父も、母も、誰もが。
だが――
惰性に甘え、ただ消費するだけだった王家に、
商人たちへ対抗する力など、残されてはいなかった。
身分は剥奪された。
平民へと落とされる。
父は怒り、嘆き、そして恨んだ。
血の涙を流さんばかりに、周囲を罵り、当たり散らす。
母は笑った。
壊れたように、笑いながら泣いた。
姉たちは受け入れなかった。
「そんなはずはない」
「私は姫だ」
わずかに残った使用人に、なおも傲慢に振る舞う。
だが、残された財産が尽きるにつれ、
使用人たちは一人、また一人と去っていった。
家は変わった。
住む場所も、空気も、すべてが。
かつての王族の屋敷は、
今やあばら家にも劣る有様となり――
そこにいるのは、もはや人ではなかった。
亡者だ。
怒りに縋る父。
狂気に沈む母。
過去にしがみつく姉たち。
それを――
グラウは、ただ見ていた。
金が、地位が、立場が奪われていく。
強く頼もしかった父は、
矮小な男へと成り下がり。
優しかった母は、
もはや正気を保っていない。
そのすべてを見て――
グラウは、心の底から思った。
――なんて。
――なんて、面白いんだ。




