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アウト・オブ・スクリプト ―世界の想定外―  作者: ぱんちゃん
二章 氷禍編
17/17

◆ 第16話 分断

ここまで見てくれて、ありがとうございます!

この話で、2章 氷禍編 完です。


3章は水禍編になります。

良かったら3章からもよろしくお願いします。

氷禍の体が完全に崩れ落ち、

凍気が、霧のように薄れていく。


街区を覆っていた氷は、

まるで“夢から覚める”ように、音を立ててほどけていった。


誰も、すぐには動けなかった。


勝ったはずなのに、失ったものも多い。

胸の奥が、重い。


その沈黙を破ったのは、セリアの端末だった。


《氷禍マテリアル解析率 100%》


「解析…もう終わったのか……?」


「ええ。

 雷禍のマテリアルを組み込んでから、

 処理速度が、桁違いに速くなった。」


彼女は、砕け散った氷禍の残骸――

倒れている融合者たちを見ながら呟く。


「……氷禍は、“色欲”だった」


不意に放たれた言葉に、

何人かが顔を上げる。


「……色欲?」

岩戸が、思わず聞き返す。


「正確には……

 “壊れる瞬間を、美しいと感じる欲求”」


セリアは、演算装置のログを呼び出す。


「氷禍は、ただ壊していたわけじゃない。

 “どう壊れるか”を、ずっと観測していた」


蓮は、最後に聞いたあの言葉を思い出す。


――美しい。


「……あの一言、か」


セリアは、小さく頷く。


「観測して、学習して、最適化していた理由はひとつ。

 “最も心が折れる壊れ方”を、見たいから」


空気が、冷えたように感じた。


「だから、環境ごと支配する。

 逃げ場を奪う。

 戦う前から“詰み”の状況を作る」


透が、低く呟く。


「……死の最短距離」


「ええ。

 あれは“処理効率”じゃない」


セリアは、言い切る。


「“絶望効率”よ」


その言葉に、誰も返せなかった。


「最も早く、

 最も深く、

 心が壊れる形を選んでいただけ」


岩戸が、吐き捨てるように言う。

「……趣味、悪すぎだろ」



「そうね」


セリアは、一瞬だけ目を伏せる。


「でも……

 それが“色欲”という枢要罪の歪み方。


“壊れる瞬間に、快楽を見出す”

“絶望の形に、美を感じる”


——それが、氷禍の“色欲”だった」



「今、氷禍のマテリアルも演算装置に組み込んでみたわ。

発する冷気で、オーバーヒートを抑制することはできそう。


ただ…

氷禍の解析で得た、新しいスキル


"色欲(最短絶望)"


この力は、皮肉にも壊れる心がない

災厄や神には使うことのできないスキル。


そう……人を壊すためだけの力」



激戦の末に、手に入れた力が、

"使い物にならない力"と知り、

またしても沈黙が続く。



そんな沈黙を破ったのは、またしてもセリアの端末だった。


《融合者093 : 生命反応停止……》

《融合者018 : 生命反応停止……》


全員が一斉に、周りを見渡す。


「安心して、この近くではない。

 けど…遂に……。

 私たち以外でも、犠牲者がでたわ」


蓮が食いつく。

「どういうことだ、セリア!!」


「みんな、見て。」


セリアはそう言い、端末を出す。


「今の犠牲者は、ここじゃない。

 海岸エリアでの戦いよ」


セリアは、海岸エリアを指差す。


「海岸……!?ひょっとして…」

美咲が不安そうに聞く。


「そう、このエリアは水禍のエリア。

 実は、氷禍の縁に近づいた辺りから、

 水禍の交戦反応はでていた。


だだ、

氷禍領域に踏み込んだ瞬間、外部と遮断された。


だから、何が起きていたかは分からないけど…」


「ってことは……

 今、誰かが……

 まだ水禍と戦っているってことだよな」


「そうなるわ。

 現時点での残ってる融合者反応は4つ。

 《融合者:030》

 《融合者:041》

 《融合者:099》

 《融合者:100》 」


蓮が更に食いつく。

「じゃあ、うかうかしてる暇はねーな。

 今すぐ応援に…」


セリアが割り込む。

「そう言うと思ったわ、蓮。

 ただ、今回はあなたに賛同はしない」


「なんでだよ‼︎

 このまま見捨てるって言うのか?」


「見捨てるとは、また違う…。

 なにも準備をせずに、

 水禍と戦闘する気はないってこと。


氷禍で痛いほど、痛感したでしょ?

 あれだけの事前準備をして、

 ライナは、完璧な布陣だった。


それでも5人も犠牲者を産んだの。


今、なんの策も持たずに行けば

【全滅】だって、平気であり得る」



「セリア、それを見捨てるって言うんだよ。


 悪いが……俺は行く。

 動いてる時のほうが、あんまりクヨクヨ考えなくて楽だしな」


蓮の声は、低く、

だがはっきりと戦場に響いた。


その言葉に、セリアはすぐには返さなかった。

ほんの一拍、端末を見つめてから、

静かに顔を上げる。


「……あなたらしいわね」


怒りでも、呆れでもない。

それは、どこか諦めに似た声音だった。


「でも、蓮。

 氷禍を倒したのは、あなた一人の力じゃない」


蓮は、視線を逸らさずに聞いていた。


「あなたが、氷禍を倒せたのは、

 周りが削って、支えて、命を削った“結果”よ」


その言葉に、蓮の指がわずかに強く握られる。


「……わかってる」


「いいえ。わかってない」


セリアは、はっきりと言い切った。


「“世界の想定外”であなたは生き残れる。

 でも――あなたの周りは、そうじゃない」


その場の空気が、ぴんと張り詰める。


「あなたが前に出るってことは、

 “周りが代わりに喰らう”

 可能性があるってことでもあるのよ」


蓮は、返す言葉を失った。

図星だったからだ。



「水禍の枢要罪は“嫉妬”。

 破壊力も速さも、雷禍や氷禍ほど、派手じゃないはず」


セリアは、端末の表示を切り替える。


「でもね、嫉妬には“二種類”あるの」


「二種類……?」

透が、思わず聞き返す。


「一つは、他人の持ち物への"羨望"

 もう一つは、自分の持っているものを

 失う恐怖からくる"嫉妬"」


その言葉に、場の空気が重くなる。


「水禍は……想像以上に厄介よ。

 私の見解では、雷禍や氷禍以上…」


蓮は、無意識に仲間たちを見渡していた。


「最後に忠告しておくわ」


セリアの視線が、真っ直ぐに蓮を射抜く。


「足元には、気をつけることね」


その言葉は、氷禍の凍気よりも冷たく感じられた。



「……それでも行く」


蓮は、きっぱりと言った。


「俺は、目の前で誰かが死ぬかもしれないのに、じっとなんかしてられねぇ」


美咲が、そっと一歩前に出る。

「……私も行く」


「美咲?」


「治せるかもしれない人がいるなら……

 行かない理由、ないよ」


絵音も、迷いながら手を上げる。

「……美咲が行くなら、僕も行く。

 また、道具が必要になる時が来るかもしれない。」


透が続ける。

「射線共有も、索敵も……僕の役目だ。

 それに、蓮は一緒にマテリアルを見つけた相棒だから……

相棒を、一人で行かせる理由はないでしょ」


岩戸は、短く息を吐いた。

「……守る奴がいねぇと、全滅する。

 俺も行くよ。盾に使ってくれ。」


四人の視線が、蓮に集まる。


蓮は、少しだけ困ったように笑った。


「……みんな……悪いな」


セリアは、その光景を黙って見ていた。


やがて、静かに口を開く。


「わかった。止めない」


そして、ポケットから一つの端末を取り出した。


「これは、私がライナに渡してたもの。

 さっき回収しておいたんだけど……

 この端末、あなたに託すわ、蓮。

 私の演算装置ほど、処理速度は速くはないけど――」


蓮に差し出す。


「七禍の位置情報や被害状況、

 融合者反応や融合者の安否

 マテリアル解析までできる」


蓮は、一瞬だけ目を見開き、受け取った。


「……セリア。悪いな、貰うぜ」


「あげるんじゃない。預けるの」


セリアは、そう言って視線を逸らす。


「だから、きっちり返しに来なさい」


冗談とも本気ともつかない言い方だった。



「左馬介」


セリアが声をかける。


「オルタリンクを立て直す。

 新しい融合者を集めて、戦力を補充するわ」


左馬介は、静かに頷いた。


「……承知した。

 次に皆に合う時は、胸を張れる部隊にしておこう」



ノエルは、誰とも視線を合わせず、背を向ける。

「……僕は、どっちにも行かない」


蓮が振り返る。


「ノエル?」


「……一人で生きる——そのほうが、“迷わずに済む”から」


その背中は、小さく見えた。


「一人で考えて、一人で決めて……

 それが、今の僕には必要なんだ」


誰も、引き止められなかった。



蓮たちとノエルが去ったあと。


左馬介が、低く呟く。


「……最後の忠告。

 まさかとは思うが……」


セリアは、目を伏せたまま答えた。


「ええ。

 裏切り者がいる可能性が高い」


左馬介の眉が、わずかに動く。


「……氷禍に能力干渉なんて芸当は、

 "存在しなかった"」


セリアは、演算装置のログを表示する。


「それでも、私たちは“確実に”能力干渉を受けていた」


沈黙。


「……誰なんじゃ?」


左馬介の問いに、セリアは首を振る。


「まだ、特定できない」


そして、静かに続ける。


「でも――

 “内部にいる”のは、ほぼ間違いない」


冷たい風が、戦場を吹き抜けた。


それは、次の厄災の予兆のようだった。

2章までご覧頂きありがとうございました。


3章 水禍編は、まったり更新になるかと思います。

ただ!内容はしっかりとしたものを届けるので、どうか3章からもよろしくお願いします。

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