◆ 第15話:氷禍討伐
氷禍は、押されていた。
明確に。
確実に。
出力も、精度も落ちている。
それでもなお、“七禍”という災厄の名は伊達ではない。
左馬介の斬撃が、灼熱の風を纏って氷禍の装甲を裂く。
だが、決定打には至らない。
「効いてはいるはずなんじゃが……
仕留めきれぬ……」
透の視界共有が、氷禍の挙動を赤く縁取る。
その瞬間——
氷禍の前腕が、蓮へと振り抜かれた。
「……このタイミングならっ!!」
――《世界の想定外》――
致命の一撃は、“ズレた”。
だが、
カウンターを叩き込むため、
蓮は、あえて“少しだけ”貰いにいく。
氷の刃が、脇腹を掠める。
「……ぐっ……!!」
血が、凍る前に地へ落ちる。
そのまま踏み込み、
反射的に小槌を振り抜いた。
――ゴッ。
…Good…
確かな手応え。
だが同時に、
カウンターの反動が腕を痺れさせる。
「……さっきよりは効いてる……
けど……致命打にはならねぇ……
こんなの、何度も喰らってられるかよ……」
氷禍の動きが、わずかに鈍る。
「……凍気、再構築……⁉︎
でかいの来るよ!!」
透の声が戦場を走った。
氷禍の全身に“収束”が走る。
凍気が、圧縮され、一点へと集まっていく。
「……最大出力……!」
空気が、悲鳴を上げた。
それは、吹雪でも槍でもない。
“圧縮された凍結空間”そのもの。
まさに——
【絶対零度】が、前方へ撃ち出される。
「……正面から受ける」
セリアが、一歩前に出た。
「っ、正気か!?」
岩戸が叫ぶ。
「散開したら“最短距離”が完成する。
ここで、正面から削る」
一瞬の沈黙。
誰もが、ライナの最期を思い出していた。
ノエルの空間が、悲鳴を上げる。
「……無理……っ、保持しきれない……!」
凍結空間が、今にも全員を飲み込もうとする。
「左馬介!!」
セリアの声が、鋭く走る。
「この一撃……
正直、相殺は無理よ」
「……承知しておる」
「だから使う。
あなたの斬撃を、私が“利用する”」
左馬介の目が、わずかに見開かれる。
「斬る角度は——三十七度。
“次列風切”を、最大密度で通して」
「……ほう。
ならば——全力で応えよう」
左馬介が、刀を構え直す。
「“次列風切”——!!」
灼熱の風が、圧縮凍結空間へと叩きつけられる。
だが、斬り切れない。
凍圧が、斬撃を押し潰そうとする。
「ここで……合わせる!」
その瞬間。
セリアの演算装置が、雷光を帯びた。
「——雷閃演斬」
雷禍の力が、
“刃のない刃”として顕現する。
雷で形成された、光の剣。
セリアの演算線が、
左馬介の斬撃に“重なる”。
風と雷が、完全に同調した。
次の瞬間——
圧縮凍結空間の“中心”に、
一本の“風穴”が穿たれた。
世界が、一瞬だけ息を吐く。
「……今だ……!」
透の視界が、氷禍の胸部コアを赤く染める。
「蓮!!
君なら、その風穴から懐まで届く!!」
「……ああ!!」
蓮が、小槌を握りしめ突っ込む。
――《世界の想定外》――
残滓の凍気が、
蓮の“いるはずの空間”を貫く。
だが——
やはり、当たらない。
蓮は、そのまま“風穴”へ飛び込んだ。
「——今度こそ……!」
氷禍の胸部。
空洞化したコアへ、小槌を叩き込む。
――ゴッ。
世界が、一瞬だけ“静止”した。
…Perfect…
確かに、音が鳴った気がした。
氷禍の胸部が、
内側から砕け散る。
砕け散る。
「……処……理……不能……
……ああ……
……壊れる瞬間は……美しい……」
それが、氷禍の最期の声だった。
氷の体が、ゆっくりと崩れる。
凍気が、霧散する。
街区を覆っていた氷が、
音を立てて、ほどけていった。
――氷禍、討伐ーー




