◆ 第14話:継承
戦場は、まだ氷禍に支配されていた。
出力は落ちている。
精度も、わずかに乱れている。
それでも――
“七禍”という存在そのものが、厄災だった。
「……くそ……」
岩戸の拳が、氷刃を砕きながら軋む。
左馬介は、刀を杖代わりに踏みとどまっていた。
もはや呼吸ひとつで、肺が凍りつく感覚がある。
「……このままでは、いずれ全滅だな……」
誰もが、その未来を否定できなかった。
その時だった。
後方で、セリアが一歩、前へ出た。
「……聞いて」
その声は、静かだったが、はっきりと戦場に届いた。
「雷禍のマテリアル解析が終わって、
私の演算装置は強化された。
まず、雷禍のマテリアルを演算装置に組み込んで、処理速度が大幅に向上。
そして…雷禍の枢要罪に対応した、
新たなスキルを習得した。」
全員の視線が集まる。
「――“強欲(スキル強奪)”」
一瞬、場が静まり返る。
「ただし制約がある。
スキルは“人の身体”には直接宿せない」
セリアは、端末を掲げた。
「一人の身体には、一つの能力が限界。
だから、奪ったスキルは――“物”に宿す」
左馬介が、低く息を吐く。
「……武具や道具に、能力を移す……ということか」
「ええ」
セリアは、静かに頷いた。
「先ずは……
失った指揮官を取り戻す」
彼女の視線が、凍りついた“それ”に向く。
ライナの融合装置。
⸻
【絶対指揮、継承】
「……ライナの“絶対指揮”を、私の演算装置へ」
セリアが端末に手を当てる。
空間が、わずかに軋んだ。
《スキル抽出:絶対指揮》
《媒体:演算装置へ転送》
その瞬間、セリアの視界が“変わる”。
戦場の構造。
氷禍の軌道。
味方の配置と生存確率。
――すべての“最適解”が、脳裏に流れ込んだ。
「……来た。
これが、ライナの見えてた世界……」
セリアは、顔を上げる。
「ここからは……
私が、ライナの代わりに指揮を執る」
誰も、異を唱えなかった。
⸻
「左馬介。最前線は、あなたに任せる」
「……承知」
「修造の“耐熱・放熱”を、その刀に継承」
左馬介の刀が、赤く脈打つ。
氷禍の凍気に、熱が拮抗する。
「……灼熱の風、か。
悪くない」
続けてセリアが話す。
「絵音、今から言う物を具現化して。
ピンマイクにコンタクトレンズ
それに小槌を…」
「……わかった、やってみる!」
空中に筆を走らせる絵音。
次々に形を持つ装備。
《視界強化•共有をコンタクトレンズに継承》
《応援歌をピンマイクに継承》
《ダメージカウンターを小槌に継承》
「透、コンタクト」
「……っ、視界が……!!
戦場が全部見える……!」
「これで、最強の目を取り戻した。
被弾する可能性も減らせるはず…」
「美咲、マイク」
「……これで遠隔回復できるってこと?」
「それだけじゃない。
あなたの治癒力で、遠隔回復が可能になっただけでなく
身体強化や音圧攻撃も可能になったはず…」
「小槌は……」
岩戸が反応するが、すぐに首を振る。
「……俺の能力は防ぐ力だ。
この能力は……向いてねぇ」
「……わかってる。
痛みを、自ら負うことが嫌なのもね」
セリアの視線が、蓮へ向く。
「……え?俺かよ」
蓮は、小槌を受け取る。
「かすり傷で死ねる男に、
カウンター能力って……皮肉だな」
「あなたの"世界の想定外"なら、ダメージ調整しやすいでしょ?
しかも、あなたは他の誰よりも、懐まで潜りやすい。」
「まあ確かにな……
郷の無念は、必ずこの小槌で晴らす!」
⸻
「配置、完了」
セリアの声が、鋭くなる。
「左馬介、前へ。
透、射線共有。
美咲、遠隔回復を維持。
絵音、発熱装置を作り続けて。
岩戸、私と絵音の護衛。
ノエル、空間維持を最優先」
最後に。
「……蓮。
あなたという存在も
“世界の想定外”という能力も
原理も理屈もわからないけど…
あなたは“世界の想定外”を駆使して
氷禍を削り続けて」
「……ああ、今は考えるのはやめた。
とりあえず、やるしかねえ」
蓮は、前へ駆けていく。
――《世界の想定外》――
氷の槍が、蓮の“いたはずの場所”を貫く。
だが、当たらない。
次の瞬間、小槌が氷禍の装甲を叩く。
…Defective…
微かに、そう聞こえた気がした。
「硬ぇ……これ、俺の攻撃に意味はあるのか?
いや……俺がダメージを、喰らってないせいか!?」
「修造…お主の熱で風切は進化した。
"次列風切"‼︎」
左馬介の斬撃が、灼熱の風を纏って走る。
氷を砕き、溶かし、斬り裂く。
透の視界共有が、
“死の射線”を味方に伝える。
美咲の声が、戦場に届く。
味方の身体能力が強化される。
遠隔回復とは思えない、治癒も同時に行う。
「……もう、役立たずなんかじゃない!」
絵音の生成した暖房器具が、次々に投げ込まれる。
岩戸が、範囲攻撃を硬化で守り抜く。
ノエルの空間が、ぎりぎりで崩壊を食い止める。
――流れが、変わった。
さっきまで“処刑場”だった空間が、
ここにきて“戦場”に戻った。
氷禍は、確実に“押され始めていた”。
⸻
セリアは、蓮から受け取った、
氷禍のマテリアルを見つめる。
「……今から、これを解析する」
氷禍の凍気が、再び荒れ狂う。
だがもう――
オルタリンク総勢13名の、
“反撃”は、始まった。




