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アウト・オブ・スクリプト ―世界の想定外―  作者: ぱんちゃん
二章 氷禍編
14/17

◆ 第13話:死の最短距離

ライナは、もう限界だった。


氷禍エリアの能力干渉により

絶対指揮による戦略すらも、鈍り続けている。


それだけじゃなく身体にいたっては、

肩の凍結は、解けきっていない。

脚は、凍傷で感覚が鈍っている。

息を吸うたび、肺が痛んだ。


それでも、立っていた。


“最前線に立つ”という役目を、

最後の最後まで放そうとしなかった。


氷禍の動きが、一瞬だけ止まる。


——いや、止まったように“見えただけ”だ。


その沈黙を見た瞬間、

ライナは直感した。


「……なにか来る」


氷禍の視線が、

“ライナだけ”に固定される。


今までと違う。

この視線は、“処理対象を選別する目”じゃない。


——“最短距離を確定させた目”だ。


ライナは、ゆっくりと剣を構え直した。


「……やっと、俺だけを見てくれたかマダム」


氷禍の口元が、わずかに動いた。


「……美しい」


それは、はたからみれば可笑しな会話だった。

ただ、生死の攻防を一進一退で繰り返した、

"2人だけには"伝わるやりとりだった。


ーー"美しい"ーー

その一言には、

最高の"賞賛"と"処理開始の宣告"が込められていた。



「……喋れるなら、もっと早く言えよ」


ライナは、薄く笑う。


「でも悪いな。

 俺は若い子のほうが好きでね」


氷禍の全身の氷が、きしりと音を立てる。


蓄積された戦闘データ。

ライナの癖。

左馬介の援護の間隔。

音無のバフ量。

エリスの射線共有のタイミング。

美咲&絵音の支援力。


——すべてが、最適化される。


氷禍は“強い一撃”を放とうとはしていない。

“ライナの最大の隙”を狙っている。


その瞬間が、来た。


氷の刃が、

音無とエリスの方向へ、同時に走る。


「……チッ!やっぱお前は浮気性だな」


ライナは反射で動いた。


“守る”という選択をした、その瞬間。


氷禍の“本命”が、背後から生成される。


圧縮された冷気の槍。

今までよりも、さらに細く、速く、鋭い。


ライナは、間一髪で気づいた。


「……なるほどな。そりゃ完敗だ」


身体が、思うように動かない。

氷で削られた脚が、

一瞬だけ、踏み込みを遅らせる。


それでも、剣を振る。


音無とエリスへの攻撃を、斬り落とす。


——だが、その代償。


「……ぐっ……!」


背中から、冷たい感触が突き抜けた。


熱が、奪われる。

痛みすら、凍りついていく。


氷禍の“死の最短距離”は、

“味方を守ろうとする力”を、

最大の弱点として突いてきた。


「……はは……」


ライナの口元から、白い息が漏れる。


「……くそったれ……指揮官の弱点お見通しだな……」


氷禍は、何も言わない。

ただ、“処理が完了した”というように、視線を逸らした。


ライナの膝が、ゆっくりと崩れる。


剣が、地面に落ちる。


「……ここまでだ……みんな……」


振り返ろうとしたが、

首が、もう動かなかった。


それでも、声だけは、届く。


「……生きろよ……

それが……俺の最後の“命令”だ……」


次の瞬間、

ライナの身体は、完全に凍りついた。


凍りついたまま、

戦場の“中心”に取り残されている。


セリアの端末が、淡々と告げる。

《融合者002:生命反応……停止》



誰も、すぐには動けなかった。


あまりにも静かで、

あまりにもあっさりと——

“希望の象徴”が消えたからだ。


「……団長……?」

音無の声が、震える。


「……嘘だろ……」

エリスは、視界が歪んでいくのを感じながら、それでも目を逸らせなかった。


“終わった”

その言葉が、誰の喉にも引っかかっていた。




——だが。


その背後で。


「……蓮」

透の声が、かすれながらも響いた。


蓮は、動けずにいた。

足が、凍りついたように動かない。


頭の中に、

ライナの最後の言葉がこだまする。


――仲間の死に日和るなよ。

――マテリアルが見つかるまで、俺“達”が耐える。


「……くそ……」


蓮は歯を食いしばり、拳を握りしめる。


「……行こう、透」


「……うん」


二人は、互いの顔を見ることなく、

ただ“役割”の方向へ走り出した。



氷禍の攻撃が、再び広がる。


無差別の凍結が、

逃げ場のない死の範囲を作り出す。


透は姿を消し、

氷刃の“隙間”を縫うように進む。


だが、流れ弾が頬をかすめる。


「……っ!」


血が、凍る前に拭い取る。


「……隠れてるだけじゃ……ダメだな……」


蓮は、正面から踏み込む。


——《世界の想定外アウト・オブ・スクリプト》——


氷の槍が、蓮の“いるはずの位置”を貫く。

だが、当たらない。


ズレる。

世界が、蓮の動線だけを“避けている”。


「……やっぱりだ……」


完全じゃない。

連続しては使えない。


それでも——

“進める時間”は、確実に生まれる。


「……見えた」

透が、低く呟く。


凍結範囲の“歪み”。

氷の質が、周囲と明らかに違う一点。


氷禍の胸部と、同じ光を放つ“異物”。


「……マテリアルだ」


二人は、同時に踏み込んだ。



蓮の指先が、

冷たい“核”に触れた瞬間——


戦場の空気が、変わる。


氷禍の動きが、

ほんの一瞬だけ“遅れた”。


「……?」


左馬介が、違和感に気づく。


「……凍気が、乱れておる……」


氷禍の放つ刃が、

わずかに軌道を外す。


精度も出力も、落ちている。


「……効いてる……?」

美咲の声が、震えた。


胸部の光が、揺らぐ。

コアが、空洞になっていく。


氷禍の出力が、明らかに落ちていた。


「……修造と郷の攻撃も、

 団長の時間も……

 全部無駄なんかじゃなかった……」

エリスが呟く。


ほんの一瞬。

戦場に、“希望”が戻った。



——だが。


氷禍は、止まらない。


精度は落ちた。

出力も、落ちた。


それでもなお——

“厄災”であることは変わらない。


氷禍の視線が、

音無とエリスへ向く。


そして、

能力干渉による弊害がここにも起きる。

ノエルの空間維持が、

一瞬、限界を迎え、縮小する。


その刹那。


左馬介と岩戸が、

氷禍の凍結領域の“外”に弾き出される。


「……っ!」


二人の身体が、

一瞬で凍りつき、動きを失う。


「……しまっ——」


音無が、声を上げるより早く。


氷の刃が、

“最短距離”で貫いた。


——音無の歌声が、途切れる。


続けて、

視界共有の要だったエリスの位置へ——


逃げ場は、なかった。


「……っ、や……」


声にならない声が、空に溶ける。


二人の身体が、

氷の彫刻のように、その場に固定される。


《融合者074:生命反応……停止》

《融合者088:生命反応……停止》


セリアの端末が、

淡々と、二つの“終わり”を告げる。


——希望は、叩き潰された。


確実に、ダメージは効いてる。

着実に、出力も精度も落ちている。

けれど厄災は"厄災"だった。


……終わりだ……


誰の喉からも、その言葉が出かかっていた。


生き残った者たちの顔から、

血の気が引いていく。



その時。


誰よりも後方で、

端末を握りしめていたセリアの指が——


震えを、止めた。


「……まだよ……」


声は、かすれていた。


だが、その目だけは——

まだ、死んでいなかった。


「……やっと辿り着いたんだから……」


端末の画面が、

異常な速度で書き換わり始める。


観測式。

解析式。

構造模倣。


理論が、噛み合わない。


——それでも。


セリアの中で、

“何か”が、確かに切り替わった。


世界の理を、

“観測する側”から——

“書き換える側”へ。



セリアが、顔を上げる。


その瞳に宿っていたのは——

絶望ではなく、

“希望”だった。


「……ライナ……確かに希望は繋がった」


誰に言ったのかも、わからない。


それでも——

戦場の空気が、わずかに変わった。


ーー"セリア覚醒"。ーー

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