◆ 第11話:孤軍奮闘
修造の身体は、もう動かない。
氷に覆われた地面に、
赤熱していたはずの体温の名残が、
じわじわと失われていく。
「……修造……」
音無の声は、震えていた。
「……クソ……ッ……!」
倍返死が、歯を食いしばる。
“最前線が崩れた”
それが意味するものを、全員が理解していた。
氷禍は、次の標的を定めるように、
ゆっくりと首を動かす。
――視線が、後衛へ向いた。
「――後衛! そっち来るぞッ!!」
ライナが叫ぶ。
氷禍の腕が振り下ろされる。
今度は、“広域”。
氷の槍が、雨のように降り注いだ。
「もう判断は遅らせないッ!
左馬介、岩戸!!」
「……うむ」
「……おうっ……!!」
硬化。
最大出力。
岩戸が、前に出て壁になる。
風刃抜刀 一の太刀
――初列風切――
岩戸の壁で防ぎきれない氷の槍を、
左馬介の風の刃が斬って対応する。
――だが。
「氷禍、急速接近っ!!」
エリスが叫ぶ。
氷の槍に全員が夢中になっていた隙に、
氷禍は、一瞬で距離を詰めていた。
狙いは音無。
無防備だった音無に、氷禍の刃が襲いかかる。
――キィンッ――
氷禍の刃と、ライナの剣がぶつかる。
間一髪。
ライナが割って入った。
「もう、判断は遅らせないって言ったろ」
が、その瞬間――
修造を貫いた
“圧縮された冷気の槍”が、
目の前のライナを無視し、
エリスに向かって高速で放たれる。
「もう、目の前で死なせねぇええっ!!」
いち早く気づいた倍返死が、エリスを突き飛ばす。
冷気の槍が、
倍返死の腹部を貫通した。
「……ぐはぁっ。いいダメージだぜ……。
受けた分は、きっちり返す主義でな……
ほらよ……置き土産だ、化け物ぉお!!」
最後の力を振り絞り、
倍返死が決死のカウンターを放つ。
修造に剥がされた箇所から、
氷禍の装甲はさらに一箇所、砕け散り――
装甲ごと、氷禍は後方へ吹き飛ばされた。
「郷っ!!
私を庇って……馬鹿野郎ぉ!!」
エリスが、泣きながら叫ぶ。
セリアの端末が、無常にも告げる。
《融合者081:生命反応……停止》
戦場の“密度”が、
一気に変わった。
――削られている。
確実に、こちらが。
「……クソッたれ……!」
ライナが、歯を食いしばる。
「全員……下がって、お互いをカバーできる位置につけ。
今のコイツの動きで、よくわかった。
コイツは……
本当に“殺すための最短距離”を狙ってやがる。
前線は、俺が一人で引き受ける!!」
「団長、無茶だ!!」
エリスが叫ぶ。
ライナは、笑った。
「……だからだろ」
そして、一歩前に出る。
「処理効率重視のコイツなら、
この陣形を組めば確実に俺が狙われる。
だから、俺が前に出る。
ただ一つ言うけどな。
死に急いでるわけでも、
諦めてるわけでもねえ。
こっからは――
“希望を繋ぐ”戦いだ」
ライナの融合装置が、強く発光する。
世界一の指揮官
融合元:戦術盤
能力:絶対指揮
視界が、研ぎ澄まされる。
戦場全体の“最適解”が、
脳裏に一気に流れ込む。
「左馬介、風刃で俺の援護を。
岩戸、後方の守備は任せた。
音無、回復を捨てて身体バフ特化。
エリス、次の射線と動線を即時共有」
指示が、次々に飛ぶ。
迷いのない声。
「最後に……一番重要なことだ。
蓮、透……
仲間の死に日和るなよ?
マテリアルが見つかるまで、
俺“達”が必ず耐える。
そしてセリア。
お前なら必ず、時間内に解析できる。
後は任せたぜ……」
「ライナ……」
左馬介が、低く呟く。
ライナは、前線で氷禍と向き合う。
氷禍の攻撃が、
ライナのすぐ横を通過する。
紙一重。
「……チッ」
それでも、退かない。
「来いよ、化け物」
左馬介の遠距離援護。
音無の身体バフ。
エリスの射線・動線共有。
現状のありとあらゆる戦力と戦略で、
ライナと氷禍は一進一退の攻防を繰り返す。
――だが、ライナは分が悪い。
少しずつ、だが確実に被弾し、削れていく。
それでも――
ライナには、恐怖よりも、
“怒り”があった。
仲間を失った怒り。
自分の判断ミスで、
本格戦闘を強いられている、現状への怒り。
それでも立ち向かっているのは、
自分への贖罪と、意地だけだった。
その背中を見て、
誰かが呟く。
「……ああ、クソ……」
音無が、涙を拭って歌声を張り上げる。
「……団長が一人で前に出てるんだ……
私にできることは、やり尽くす……!」
左馬介が、刀を握り直す。
「……まだ、終われぬ」
戦場に、再び“闘志”が戻る。
だが――
氷禍は、冷酷かつ理性的。
着実に削っているのに、
それでも倒れないライナへの、
“死の最短距離”を、静かに練っていた。




