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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第一章:沈黙の断罪

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【第8話 氷狼王襲来――辺境の大地で始まる決戦】

 冬の谷間に響いた咆哮は、

 ただの魔物ではない“災厄”の訪れを告げるものだった。


 氷狼王という脅威に対し、

 豪胆な力のゼノと、冷静な分析のエレノア――

 二つの才が初めて並び立ち、死地を乗り越えた。


 この戦いは、

 彼らが“互いの力を認め合う”はじまりでもある。


【第8話 氷狼王襲来――辺境の大地で始まる決戦】


 谷を震わせる咆哮が、空気そのものを引き裂いた。


 白い靄の向こうで、巨大な影が姿を現す。

 その毛並みは凍てつく氷結の結晶で覆われ、

 金属のような牙が白銀の輝きを放った。


 ――氷狼王アイス・ファングロード


 フロストハウンドを従える、辺境でも滅多に見ることのない“災厄”。


 兵士たちの背筋が凍りつく。


「な……なんだ、あの化け物……!」

「でかすぎる……!」

「王都の魔物とは桁が違うぞ……!」


 ゼノが前へ出る。


「落ち着け。恐怖は後だ。今は――構えろ」


 その声は低く、揺るがない。

 兵士たちの震えは、自然と収まっていった。


 エレノアも、唇を凍らせる寒気に耐えながら、影を見つめる。


(……大きい。けれど、動きは重い。

 あの巨体では、狭い谷は使いづらいはず)


 氷狼王はゆっくりと歩みを進めるたびに、

 足元の雪を硬く凍らせて砕いていく。


 生物が出していい量の寒気ではない。

 まるで氷嵐そのものが姿を取ったかのようだった。


「エレノア、ここから先は危険すぎる。下がれ」


「いいえ、見ます。判断材料を得ないと――皆さんの命に関わります」


 ゼノが眉を動かす。


「……わかった。ただし俺の背中より前に出るな」


 その瞬間、氷狼王の足が地を踏み砕いた。


 “ドンッ”


 それだけで、地面が揺れ、兵士の一人が尻もちをつく。


「来るぞ!!」


 ゼノの叫びと同時に、氷狼王が跳躍した。


 巨体とは思えない速さ。

 目の前の空気が凍りつき、白い衝撃が迫る。


「きゃ……!」


 兵士たちが吹き飛ばされる中、ゼノだけは踏みとどまり、剣を構えた。


「うおおおおおっ!!」


 氷狼王の爪とゼノの剣が衝突し、

 甲高い金属音と共に氷の破片が飛び散る。


 エレノアの目に映ったのは――

 ゼノの“圧倒的な膂力”。


(……本当に、人間なのかしら)


 剣は折れず、腕も砕けない。

 ゼノは氷狼王と正面から戦っていた。


 だが、魔物は後退しない。

 爪を振るい、氷の息を吐き、

 周囲の温度を一気に奪っていく。


 兵士たちの動きが鈍くなる。


「ゼノ様っ……!」

「あれでは持ちません!」


「ゼノ様を援護しろ!!」


 兵士たちが矢を放つが、氷狼王の毛皮は硬く、

 矢は弾かれるだけだった。


(このままでは……皆が凍死してしまう)


 エレノアは震える手を握りしめた。


(氷狼王の弱点……どこ?

 動きは重い、毛皮も厚い……けれど――)


 氷狼王が息を吸い込んだ。


 巨大な口が開く。

 次の瞬間、白い暴風が吐き出される。


「ゼノ様!! 氷の息です!!」


 エレノアが叫んだ瞬間、

 ゼノは飛び込み、兵士たちの前に立つ。


「伏せろ!!」


 氷嵐が大地を薙ぎ払った。


 地面が一瞬で凍りつき、樹木が粉々に砕ける。


 兵士たちは歯を食いしばり、

 ゼノだけが踏みとどまり、剣を地面に突き立てて堪えた。


(……ゼノ様、一歩間違えば全員即死……!)


 息を吐くたびに、肺が凍る。

 だがエレノアは、冷静に魔物の動きを追い続けた。


(氷の息の後……

 おそらく“呼吸を整えている時間”があるはず)


 氷狼王の胸が上下している。


 その瞬間――


「ゼノ様!! 背後の崖へ誘導してください!

 あそこは雪庇が薄く、崩れやすい!

 重量のある魔物なら――落とせます!!」


 ゼノが驚愕と共にエレノアを見る。


「崖を……落とす?」


「はい!!

 谷の入口の雪庇は、今朝の気温で不安定になっています!!

 “あれ”を落とせば――氷狼王の足を取れます!!」


 ゼノの口角が僅かに上がる。


「――面白い。やってみるか」


 彼の声が、兵士の血を一気に沸かせた。


「全員聞け!!

 魔物を崖の縁まで誘導する!!

 エレノアの指示に従え!!」


 兵士たちは即座に動き始める。


 エレノアが冷静に指示を出す。


「左側へ圧力をかけてください!

 右は氷が厚いので崩れません!!」


「矢隊、右へ回って魔物を追い立てろ!!」


「盾隊はゼノ様の援護に回れ!!」


 氷狼王が咆哮を上げ、

 追撃する兵士たちをなぎ倒そうとする。


 だが――動きは確かに誘導されていた。


「あと少し……そのまま……!」


 エレノアの声が震える。


 ゼノが剣を振り上げた。


「――ここだぁッ!!」


 剣が地面を叩き割り、

 雪庇が大きく崩れ落ちる。


 氷狼王の足元が沈んだ。


『ガアアアアアアァァァッ!!』


 谷底へ落ちかけた巨体が、

 崖の縁に爪を引っかけて必死にしがみつく。


「今です!! 押し込めば――!!」


「全員、押し切れぇええ!!」


 ゼノと兵士たちが総出で攻撃を浴びせる。


 そして――


『オオオオオオオオォォ……!!』


 氷狼王は、谷の暗闇へと落下した。


 轟音が谷底で響き、

 雪の波が空へ舞い上がった。


 静寂。


 誰もが息を止めていた。


 そして――


「勝った……のか……?」

「ゼノ様……!」

「……助かった……」


 兵士たちが安堵の声を上げ始めた。


 エレノアは膝に手をつき、

 ようやく胸の奥の緊張を吐き出した。


(命が……繋がった……)


 ゼノがエレノアへ歩み寄る。


「……よく見えていたな、エレノア」


「わたくし……ただ、少し観察しただけですわ」


「違う」


 ゼノは、深く息を吸った。


「――お前の洞察と判断がなければ、

 今、俺も兵たちも死んでいた」


 エレノアの胸が震えた。


(わたくしが……誰かの役に立てた……?

 王都では、ずっと否定されていたのに……)


 ゼノは静かに言う。


「お前は辺境に必要だ。

 それを誰が否定できる?」


 エレノアは答えられなかった。

 ただ胸に、確かな熱が灯っていた。


 氷狼王は、ただの魔物ではない。

 その出現は、辺境を覆う大きな影の“前触れ”にすぎない。


 だがこの一戦で、

 エレノアの名は兵士たちの心に深く刻まれた。


 沈黙の令嬢ではなく――

 戦場を読み解く“賢き者”として。


 次に語られるのは、

 氷狼王の背後に潜む存在、そして迫る新たな脅威。


第9話


「氷結の痕跡――辺境を脅かす者の正体」

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