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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第一章:沈黙の断罪

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【第7話 氷狼たちの影――迫る脅威と、エレノアの気づき】

 谷間の静寂が、突如として破られた。

 魔物の襲撃は決して偶然ではなく、

 辺境へ忍び寄る“影”の一端であったことが判明する。


 沈黙の令嬢は、戦場に立ってもなお冷静で、

 誰よりも早くその異常に気づいた。


 そしてついに姿を見せたのは――

 氷狼たちの王、古い伝承に語られる怪物。

【第7話 氷狼たちの影――迫る脅威と、エレノアの気づき】


 フロストハウンドとの戦闘が終わり、谷間に静寂が戻った。


 雪を割る風の音だけが響く中、兵士たちは周囲を警戒しつつ、魔物の死骸を回収していた。

 寒気は増し、空気も少しずつ重くなる。


「……おかしいわ」


 それは、エレノアが井戸を見つめながら小さく呟いた言葉。


「何がだ?」


 ゼノが近づく。

 エレノアは井戸の縁に残った霜を指で触れ、ゆっくりと答えた。


「この霜……先ほどより厚くなっていますわ」


「気温が下がっただけでは?」


「いえ。自然の冷気ではありません。

 魔力による“氷結の余波”ですわ」


 兵士たちの表情が強張る。


「つまり……」

「まだ魔物が……?」


 エレノアはかすかに首を振った。


「魔物そのものより――誰かが“氷の魔術”を使っている可能性があります」


「……人が、魔物を誘導したということか?」


「はい。それが最も自然です」


 ゼノが腕を組む。


「魔物を操る術師など、この辺境にいるのか?」


「普通は、いませんわ。

 ですが――ここ数日の出没の増加も、村の避難も、自然とは思えません」


 エレノアの瞳は、冷たい紫の輝きを帯びていた。


「フロストハウンドがあれほどまとまって行動するのは不自然。

 あの群れには“統率者”がいましたわ」


 ゼノの表情がわずかに変わる。


「……群れを率いる存在か」


「ええ。自然発生の群れではありませんわ。

 “上位魔獣”がいるか、あるいは――」


 一瞬、言葉が止まる。


「あるいは?」


「人の意志です」


 場が、静まり返った。



 視察隊は村の奥をさらに調査した。

 日が沈むにつれ気温は急激に下がり、白い霜が屋根から地面まで進む。


「……ゼノ様。見てください」


 エレノアが指差したのは、家屋の壁に刻まれた“爪痕”。

 だが、その形状は通常のフロストハウンドのものとは異なる。


「爪が……太い?」


「いいえ。これは氷結による結晶化。

 まるで『氷の腕』で削ったような」


 ゼノの息が白くなった。


「ならば……」


「フロストハウンドを操る存在が、まだ近くにいる。

 もしくは……」


 エレノアの瞳が鋭く細められる。


「“もっと大きな脅威”が、辺境へ迫っている可能性があります」


 兵士たちがざわめく。


「おいおい……まさか……」

「去年噂されていた“氷嵐の魔獣”か……?」

「いや、あれは伝承だろう……」


「静かに」


 ゼノは一言で全員を沈黙させ、エレノアの言葉を促す。


「……あなたは何を感じている?」


 エレノアは数秒考え、息を吸った。


「“意図”です」


「意図?」


「魔物の襲撃も、村人の避難も……すべて、

 “ここを丸ごと空白地帯にするため”に起きたように見えます」


 ゼノが目を細める。


「つまり――敵が布陣しやすいように、か?」


「はい。誰かが、辺境を試している。

 そんな印象を受けますわ」


 ゼノの瞳に、鋼のような光が宿る。


「よく見抜いたな、エレノア」


「わたくしは……ただ、状況を見ただけですわ」


「違う。

 王都は、“状況を見て判断できる者”を手放した。

 だが、お前のその目は――」


 ゼノは静かに言葉を結ぶ。


「――辺境ではなかなか得られない力を持っている」


 兵士たちの視線が変わる。


 疑念の目から、

 敬意と認識の目へ。


 エレノアは微かに唇を結んだ。


(わたくしが……辺境の役に立てている……?)


 胸の奥で、何かが確かに形づくられていく。


 その瞬間。


 谷の奥から、轟音が響いた。


 空気そのものが揺れるような、低く重い音。


「っ……!?」

「な、何だ今のは!」


 地面が震え、木々の枝から雪が落ちる。


 エレノアは叫んだ。


「皆さん、構えてください!!

 これは……“来ます”!」


 ゼノの手が剣の柄を握る。


 谷の奥。

 白い靄が揺れ、その中で巨大な影が動いた。


『ォオオオオオォォォォ……!』


 それは――フロストハウンドの比ではない。


 谷を震わせるほどの咆哮。


 氷を砕き、雪を巻き上げ、

 大地そのものが押し潰されるような圧力。


「エレノア、下がれ!

 あれは……“氷狼王アイス・ファングロード”だ!!」


「…………!」


 エレノアの瞳に映ったのは、

 氷の結晶をまとった巨大な狼――


 氷嵐を呼ぶ、伝承級の怪物だった。


 辺境へ迫る脅威は、王都の噂話では済まされない。

 氷狼王の咆哮は、エレノアの新しい物語を大きく揺り動かす。


 ゼノは剣を構え、

 エレノアは思考を研ぎ澄ます。


 次に語られるのは――

 初めて訪れる、真の戦いの幕開け。


第8話


「氷狼王襲来――辺境の大地で始まる決戦」

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