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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第一章:沈黙の断罪

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【第6話 辺境視察――牙を剥く大地での初任務】

 狼たちの地に足を踏み入れたエレノアは、

 初めて“己の力を試される”戦場に立つことになった。


 王都では机上の知識として扱われた観察力も、

 辺境では命を救う武器となる。


 沈黙の令嬢は、

 その静かな瞳で、荒ぶる大地の動きさえ読み取った。

【第6話 辺境視察――牙を剥く大地での初任務】


 朝日がまだ山の稜線に触れる前、辺境グレンヴィル城はすでに動き出していた。


 訓練場には兵士たちが並び、武器のぶつかり合う音が響く。

 熱気、汗、そして凍る空気が混じった独特の風。


 その中に、エレノアの姿もあった。


「本当に、視察に同行するのか?」


 膝当てをつけた兵士が、半ば呆れながら声をかける。


「王都育ちのお嬢様には無理だろう」

「せめて半日で戻ってこられれば……」

「雪も降るぞ? あの細腕で……」


 冷たい視線と、予断に満ちた声。

 だがエレノアは、薄い防寒マントの襟を整え、毅然と立っていた。


「ご心配なく。わたくし、自分の足で歩きますわ」


 それだけで、兵士たちは言葉を飲む。


 声を荒げるでもなく、怒りを露わにするでもない。

 しかし――その沈黙には、確かな“意思”が込められていた。


 まるで氷を砕くような静かな強さで。


 その瞬間、場の空気がわずかに揺れた。


(……悪くない)


 ゼノが、訓練場へ歩み寄りながら呟いた。


「出発する。準備は? エレノア」


「問題ありません」


 ゼノは満足げに頷く。


「よし。まずは谷沿いの村へ向かう。

 ここ数日、魔物の出没が増えているらしい」


(魔物……)


 王都では、ほとんど耳にしなかった言葉。

 だが、辺境では日常の一部なのだ。



 視察隊は十名。

 ゼノを中心に、熟練の兵士たちが馬に跨り、雪交じりの風を切って進んだ。


 エレノアは馬車ではなく、ゼノが用意した乗馬用の軽馬に乗っていた。

 二人乗りではなく、あくまで“自分の足”で。


「乗れているか?」


「ええ、落ちるほどでは」


「なら十分だ」


 ゼノのその言葉に、隣を走る兵士が驚いた表情を浮かべた。


「ゼノ様が褒めるとは……」


「相当だな……あの令嬢……」


 だが噂はそこまでだ。


 やがて一行は、谷間の小さな集落に到着した。



 村は、静かだった。

 雪解け水が流れる音だけが、妙に大きく聞こえる。


「……人の気配が薄い」


 ゼノが呟く。


 兵士たちは即座に構えを取る。


「エレノア、俺の後ろに」


「状況によりますわ」


「……は?」


 エレノアは馬を降り、周囲を観察し始めた。


 村の家屋は荒らされていない。

 火事の跡もない。

 だが――生活の“音”がない。


「魔物の襲撃……かと思いましたが、形跡がありません」


「確かに……爪痕や血痕もないな」


 ゼノが周囲を見る。

 兵士たちもざわつき始めた。


「だが、村人がいない理由は?」


 エレノアは、ある一点に目を向けた。


 ――井戸。


 その縁で、白い霜が異常に厚く残っている。


 この温度では本来あり得ない厚みだ。


(魔力反応……?)


「……ゼノ様。ここ、魔力の痕跡がありますわ」


「魔力?」


「おそらく、氷属性の魔物か、術式の余波。

 村人たちは戦わず“逃げた”のだと思います」


「なるほど……生存の可能性があるな」


 兵士たちの顔に明るさが戻る。


 エレノアはさらに続けた。


「ここから北へ、風下――谷を抜けて逃げるのが最も自然です。

 獣避けの柵が壊された跡がありますから」


 ゼノがその方向へ視線を送った。


「……よく観察しているな」


「王都では、“観察力は淑女の嗜み”と教わりましたので」


 エレノアが微笑むと、ゼノは思わず苦笑した。


(嗜みどころか……こいつは実務に使いこなしている)


 その時――


 村の奥で、突然鋭い叫び声が上がった。


「敵襲!! 魔物だ!!」


 白い影が雪崩のように迫ってくる。

 狼のようでありながら、凍った牙を持つ魔物・フロストハウンド。


 十数匹。


「エレノア、下がれ!」


「下がりますが――状況は見ます!」


 その気迫は、兵士たちよりも鋭かった。


 ゼノが剣を抜き、咆哮する。


「全員構えろ!!」


 雪煙が舞い、魔物が牙を剥いた。


 エレノアは地を踏む音を聞きながら、

 その進路と群れの動きを瞬時に分析する。


(左の三匹が先陣……後続は右寄り。

 群れを分断すれば対処しやすいわ)


「ゼノ様!! 左側の岩場に誘導を!

 あそこなら、群れが細くなります!」


「――なるほど! 聞け!!

 指示通り、左へ追い込む!!」


 兵士たちが一斉に動く。


 エレノアの“判断”が、戦場を形づくっていく。


 フロストハウンドが牙を剥き、ゼノがその牙を受け止め――

 金属音が雪に響く。


 激しい戦闘が始まった。



 数分後。

 雪煙が晴れたとき、魔物の群れは全滅していた。


「……ふぅ」


 ゼノが剣を払う。

 兵士たちは互いの無事を確かめ合う。


「エレノア、よく見えていたな」


「お役に立てたなら幸いですわ」


「いや。立っていただけではない。

 お前の指示がなければ、被害は出ていた」


 ゼノは真剣な目で言った。


「――やはり、お前は辺境に必要だ」


 その言葉は、

 王都のどんな賞賛よりも重く響いた。


(必要……わたくしが……)


 冷たい風が吹く中、

 エレノアは胸の奥に新しい熱を感じていた。


 辺境は厳しい。

 だが――


(ここなら、わたくしは……“役に立てる”)


 そう実感した瞬間だった。


 戦いが終わり、辺境の兵たちは気づきつつある。

 ――この令嬢は、ただの貴族ではない。


 彼女の判断は戦場を変え、

 彼女の沈黙は空気を引き締め、

 彼女の誇りは兵たちの敬意を呼び起こす。


 次に語られるのは、

 フロストハウンドの襲撃の裏に潜む“新たな危機”。

 辺境を脅かす影が、静かに姿を現す。


 第7話


「氷狼たちの影――迫る脅威と、エレノアの気づき」

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