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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第四章:揺らぐ王国と目覚める意志

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第65話 軍師と領主――ふたりの選択

第65話 軍師と領主――ふたりの選択


 グレンヴィル城の夜は静かだ。

 遠くで風が吹き、雪が屋根を叩く音だけが、時の流れを告げていた。


 執務室の灯が落ちると、

 ゼノは重たい帳簿を閉じ、肩をほぐすように背もたれに身を預けた。


「……今日でようやく、補給路の再編も一段落か」


 扉の向こうから、ノックの音。

 エレノアだった。


「遅くまでお疲れ様ですわ、ゼノ様」


「お前もな。こっちはもう片付いた」


 彼女は遠慮がちに室内へ入り、

 テーブルの上に一枚の紙を置いた。


「新たな教育施策案です。

 民兵訓練に識字教育を組み込むことで、

 将来的に兵の質と文官候補の育成を両立させられるかと」


 ゼノは目を通し、驚き半分、感心半分の息を吐いた。


「……本気で、“国”を作る気なんだな」


「ええ。

 この地に住む人々のために。

 それが、わたくしの責任です」


 責任。

 それは彼女が好んで使う言葉だった。


 だがゼノは、その背負い方に、ずっと疑問を抱いていた。


「……なあ、エレノア」


 不意に彼が口を開く。


「お前は、“自分の人生”を生きているか?」


 エレノアは、一瞬だけ目を見開いた。

 だがすぐに、目を伏せる。


「……わたくしは、この地に拾われ、

 そして今、役割を与えられています。

 それだけで十分ですわ」


「違う」


 ゼノは立ち上がり、彼女に歩み寄った。


「俺は、お前に“使われる”つもりはないし、

 “支配する”つもりもない」


 エレノアが顔を上げたとき、

 彼はその瞳をまっすぐに見つめていた。


「……俺と共に、“選ぶ側”でいてくれ」


「……ゼノ様……」


「お前がここにいてくれるのは、役目のためじゃなくていい。

 この地が、お前の望む場所であってほしい。

 俺は、そう思っている」


 エレノアは言葉を失った。

 心の奥に、ぬくもりが広がる。


 王都にいた頃、

 誰も自分に「選んでいい」とは言わなかった。

 ただ与えられ、従うだけの日々。


 だが今、彼は「共に選ぼう」と言ってくれる。


「……ありがとうございます」


 それだけを、絞り出すように言った。


「では……わたくしも、ひとつ提案を」


「なんだ?」


「わたくしたちのこの関係――

 “グレンヴィルの軍師と領主”だけでなく、

 “信頼する対等な者同士”として、正式に記録しましょう」


 ゼノは一瞬だけ目を細め、

 やがて、口元に静かな笑みを浮かべた。


「……そういう形式も、悪くないな」


 それはまだ恋ではない。

 だが、確かな“対等な絆”の始まりだった。



 夜が深まる。


 雪は音もなく降り積もり、

 ふたりの選択を静かに祝福していた。


 王都の支配ではなく、

 強引な契約でもない。


 それは、ただひとつの“対話から生まれた共闘の誓い”。


 そしてこの先――

 彼らの選んだ道が、国を揺るがす軸となっていくことを、

 まだ誰も知らない。


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