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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
3章辺境の再生

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第36話 辺境同盟構想

第36話 辺境同盟構想


 冷たい風が、城の塔をなぞるように吹き抜けていた。

 広間には、辺境諸領から集められた使者たちが静かに並んでいる。


 それぞれの紋章、それぞれの思惑。

 そして、それぞれの恐れ。


 グレンヴィルの名は、もはや「辺境の一領」ではない。

 新たな“中心”として、確かに影響力を持ちはじめていた。



「本日は遠路はるばる、ご足労感謝する」


 玉座に座るゼノの声は低く、冷静で、揺らぎがなかった。


「これより我々は、互いの領を守るため、

新たな枠組みを築く」


 ざわめきが走る。


「辺境同盟構想――

それが本日の議題だ」


 その言葉は、宣言だった。

 相談ではなく、未来の提示。



「……果たしてそれは、誰のための同盟なのか」


 一人の使者が、慎重に問いを投げかける。


「グレンヴィルのみが主導する支配ではないのか、と」


 空気が張りつめた。


 ゼノは、視線だけを向ける。


「支配ではない。

相互防衛と、情報共有のための連携だ」


 淡々とした声。


「俺は、奪うためではなく、守るために剣を振るう」


 その言葉に、重みがあった。



「ではなぜ、今なのですか」


 別の使者が問う。


「王都の動きが不穏なことは、我らも知っております。

だが、あまりにも急では……」


「急ではない」


 静かに割って入る声。


 エレノアだった。


「これは“備え”です。

不安に怯えるのではなく、未来を選ぶためのもの」


 使者たちの視線が、彼女へと集まる。



「辺境は、切り捨てられてきた土地です」


 エレノアの声は優しく、だが確かだった。


「だからこそ、今ここに立っております。

孤立ではなく、連携という選択を」


 沈黙。


 だが、そこに反発はなかった。


 誰もがこの言葉の意味を理解していた。



「……この同盟に、何を約束してくださるのですか」


 一人の老使者が尋ねる。


「信用は、言葉だけでは得られません」


「その通りですわ」


 エレノアは穏やかに微笑んだ。


「ですからこちらからは、

交易の優先権と、防衛部隊の常設支援をお渡しします」


 ざわめきが広がる。


「常設支援……?」


「ええ。困ったときだけではありません。

困る前に、手を差し伸べる仕組みです」


 そこに、ゼノの声が重なる。


「俺の剣は、同盟のためにある」


 短く、確信をもって。



 その場にいた誰もが理解した。


 グレンヴィルは力で縛ろうとしていない。

 だが、確実に導こうとしている。


 異質な統治。

 だが、それは信頼の形だった。



 会議が終わり、使者たちが退いたあと。

 広間には、ゼノとエレノア、そしてわずかな側近だけが残る。


「……恐れながら」


 副官が小さく声をかける。


「本当に、ここまでの譲歩を……?」


「譲歩ではない」


 ゼノは静かに答えた。


「未来への布石だ」



 人の気配が少なくなった回廊で、

ふたりは肩を並べて歩いていた。


「見事な采配でした」


 エレノアがそっと言う。


「お前の言葉が後押しした」


「私は、ただ事実を語っただけです」


「それが、一番難しい」


 ゼノはふっと微かに笑う。



「エレノア」


「はい」


「お前は、俺の“参謀”だ」


 いつもは「統括官」と呼ぶ彼が、その言葉を選んだのは、はじめてだった。


「参謀の言葉は、剣よりも鋭い」


「それは、過分なお言葉ですわ」


「いや……」


 少し間を置く。


「俺の心すらも、動かしている」


 その声は、いつもより低く、柔らかだった。



 沈黙。


 だが、それは心地よい静けさだった。


「……ゼノ様」


「何だ」


「あなたは、どこまで行こうとしておいでなのですか」


「どこまでもだ」


 視線を遠くへ向けながら続ける。


「この地が“捨てられた地”と呼ばれなくなるまで」


 そして、彼女を見る。


「そして、お前が二度と“追放される令嬢”でなくなるまで」


 その言葉には、ただの政治的想いではない確信があった。



「……あなたとなら」


 エレノアは小さく微笑む。


「どこへでも、行ける気がいたします」


「ならば」


 ゼノの声が、ふっと柔らかくなる。


「俺は、生涯その隣を歩こう」



 夕刻。

 塔の高みから、連なる領地を見渡す。


 そこに生まれようとしているのは、ひとつの国家の形ではない。


 “意志をもつ地”だった。


 そして、その中心には、

鉄と理、支配と導き、力と温もり。


 互いを補い合うふたりの姿が、確かにあった。



(この領も、この女人も)


(……俺は、命をかけて守る)


 ゼノの胸に刻まれたその想いは、もはや揺るがない。


 それは誓いであり、愛であり、

誰にも奪わせぬと決めた、ただひとつの真実だった。


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