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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第一章:沈黙の断罪

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【第2話 婚約破棄は、華やかな舞踏会の中心で】

第2話をお読みいただきありがとうございます。


今回は、

王都史上最悪の「婚約破棄劇」

を描きました。


【第2話 婚約破棄は、華やかな舞踏会の中心で】


 王城の大広間は、いつもより眩しいほど輝いていた。


 天蓋から吊るされた黄金の燭台には無数の火が灯り、

 磨き上げられた大理石の床は、まるで夜空に星を撒いたように反射している。


 この夜は、王都の社交界にとって“特別”な宴だった。


――表向きは。


 本当の意味で“特別”なのは、

 この華やかさの裏で、ひとりの令嬢が断罪されるための舞台が用意されているということだ。


 エレノア・フォン・アウグストは、

 ゆっくりと大広間の中央へ歩いていった。


 白金の髪に月光を散らすような淡い紫のドレス。

 完璧な姿勢、完璧な礼法、完璧な微笑。


 それでも、視線には冷たさが宿る。


『あれが……悪役令嬢』

『王太子殿下を欺いたって噂の……』

『アメリア様が気の毒だわ……』


 噂は既に王都を満たしていた。

 火のないところに煙は立たない――などと、誰もが勝手に言葉を重ねていく。


 だがエレノアは、反論しない。


 それは誇りゆえの沈黙であって、敗北ではない。


(……案外、静かなものですわね)


 心だけがわずかに疲れていた。



 やがて、楽団の音が一度止んだ。


 人々の視線が、階段上へ一斉に向けられる。


「皆の者、注目してほしい!」


 王太子フレデリックが声を張り上げる。

 その隣には清楚なドレスを纏ったアメリアが、少し怯えたふりで佇んでいた。


 令嬢たちの間から、一斉に期待と興奮が上がる。


「今日こそ、はっきり言うべきだと思ったのだ!」


 フレデリックは芝居じみた身振りで手を上げた。


「エレノア・フォン・アウグスト――前へ!」


 視線が刺さる。

 エレノアは、ためらうことなく進み出た。


 その一歩一歩が、無音の刃となり、

 大広間の全ての視線を飲み込んでいく。


 その静寂こそが、彼女の力だった。



「エレノア。長年、そなたを婚約者として扱ってきたが……」


 王太子が、書類を掲げた。


「ここに、お前の悪行の証が揃った!」


 大広間が、一気にざわめく。


「税率の引き上げ……?」

「隣国への密書……?」

「アメリア様への接触禁止……!?」


 エレノアは、微動だにしない。


(どれも……私が書いたものですわ)


 それは真実。

 だが目的は全て違う。


 ――税率の引き上げは、殿下の浪費による財政赤字を埋めるため。

 ――密書は、殿下の外交の失策を謝罪するため。

 ――アメリアを遠ざけたのは、彼女に近づいた悪意ある貴族を守るため。


 だが伝わるはずもない。


「エレノア様……本当なのですか?」

 アメリアが震える声で問いかける。


「わたし、あなたに憎まれるようなこと……何かしましたか……?」


 声が震えている。

 本当に悲しんでいるように見える。

 だがそれは――演技だった。


 周囲の視線は一気にアメリアへ向き、同情と憐憫が溢れる。


「まあ……可哀想に」

「なんて悪質なの」

「エレノア様、謝らないの?」


 エレノアは沈黙する。

 否定すれば、王太子の失態が全部露見する。


 だから沈黙。

 それが彼女に残された最後の矜持。


「エレノア!」


 フレデリックが声を張る。


「何か弁明はないのか!?」


 大広間の空気が壊れそうなほど張り詰めた。


 エレノアは、ゆっくりと顔を上げた。


 瞳に浮かんだのは――感情ではなく“覚悟”。


「……王太子殿下のご判断に、異を唱える立場にはございません」


 その一言が、全てを終わらせた。


「やはり……」

「やっぱり悪女だったのね」

「殿下に逆らわないなんて、白状したようなものよ」


 勝手な解釈が、勝手な正義にすり替わる。


 フレデリックは勝ち誇った。


「エレノア・フォン・アウグスト。

 この場をもって、婚約を破棄する!」


 歓声と拍手が上がる。


 アメリアが涙を浮かべて殿下にもたれかかる。


 エレノアは、動じない。

 崩れない。

 泣かない。


 ただ、その瞬間――

 大広間の端で、ひとりの男が彼女を見ていた。


 黒髪に灰色の瞳を宿す青年、ゼノ・フォン・グレンヴィル。


(……やはり、お前は悪役などではない)


 誰も気づかない。

 エレノアの沈黙を“敗北”ではなく“誇り”だと理解する者は。


 ――だがゼノだけは、違った。


(王都ごときに、お前を評価する資格はない。

 お前が沈黙を貫いたその意味……俺だけは知っている)


 その瞳は静かに、確かに、

 ひとりの令嬢の“本質”を見抜いていた。


 この夜、王都は悪役令嬢を追放した。


 そして同時に――

 未来の“国の柱”を、自ら手放したのだった。


ここまで読んでくださり、心からありがとうございます。


エレノアは全てを失い、

王都は“正義を成した”つもりで満足している。


しかし――

本当の地獄は、王都の方にこそ訪れる。


エレノアは追放され、

その道を歩む中で少しずつ人の温もりを知っていく。


そして、

彼女の誇りを理解し、

沈黙の意味を最初から見抜いていた男――ゼノが、

次話からいよいよ本格登場します。

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