第27話 税制改革計画
第27話 税制改革計画
蝋燭の炎が静かに揺れていた。
作戦室の長机には、地図と帳簿、領内すべての村の収支記録が整然と並べられている。
夜も更けているというのに、誰も疲れた様子を見せようとはしなかった。
それほどまでに、“この一手”は重要だったからだ。
「これが、従来の税収一覧です」
ロイドが差し出した帳面を、エレノアは静かに開く。
「……多すぎますわね」
その言葉に、空気が張りつめた。
「村が貧しくなるのは当然です。
収穫の半分近くを奪われては、生きる力さえ失われてしまいます」
「だが税を緩めすぎれば、領政が立ち行かなくなる」
そう言ったのは、年嵩の行政官だった。
エレノアは顔を上げ、微かに微笑む。
「ですから“緩める”のではありません。
“変える”のです」
その場の空気が、少しだけ変わった。
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彼女は一枚の新しい書類を掲げる。
「これより、グレンヴィル領では
“収穫比例型税制”を導入いたします」
「比例……?」
「豊作の年は多く。
不作の年は少なく。
人が生きることを前提にした税制です」
静かな声だったが、その言葉には確かな温度があった。
「さらに、罰則による徴収を廃止します。
恐怖で縛られた民から、未来は生まれません」
場に、どよめきが走る。
「それでは統制が――」
「信頼で成り立たぬ統治など、いずれ崩れますわ」
エレノアの視線は、まっすぐだった。
「私はこの領を、“生き延びるための土地”ではなく、
“生き続けたくなる土地”にしたいのです」
その言葉を、ゼノは黙って聞いていた。
だが次の瞬間、彼は立ち上がった。
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「……この改革、正式に採用する」
室内がざわめく。
「ゼノ様、それでは慎重すぎるのでは……?」
「いいや。遅すぎるくらいだ」
そう言って、ゼノはエレノアの方へ視線を向ける。
「彼女の言葉に、間違いはない」
そして、はっきりと告げた。
「理解できなくてもいい。
だが、この方を信じられない者は、俺を信じろ」
空気が、一瞬で変わった。
その言葉は、命令ではない。
覚悟の宣言だった。
エレノアは、思わず瞬きをした。
「……ゼノ様」
「何も言うな」
彼は短く続ける。
「お前の考えは、この領の未来だ。
俺はそれを、誰よりも信じている」
その瞳には迷いがなかった。
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会議が終わり、夜の廊下。
灯りの少ない回廊を、二人で歩く。
「……ずいぶんと、大きな賭けをなさいましたね」
「賭けと思っていない」
「それは危険ですわ」
「ならば言い換える。
信じた女に従っただけだ」
その言葉に、エレノアは思わず足を止めた。
「私に、その価値があると……?」
「ある」
一瞬の迷いもなく。
「お前の言葉には、人を生かす力がある。
だがそれ以上に……」
ゼノは少しだけ声を落とした。
「その在り方が、俺を動かしている」
冷たい廊下の空気の中で、
エレノアの胸が、かすかに高鳴った。
⸻
城の中庭。
月明かりが白い石を照らす。
「税を変えるということは、人の生き方を変えるということですわ」
「怖くはないのか」
「ええ、少しだけ。
けれど、それ以上に……この地の未来が見たいのです」
「……なら俺は、その未来に付き合おう」
ゼノはそっと微笑む。
「いや、違うな。
俺は――お前に付き合う」
ほんの少し、不器用な優しさ。
「それは……まるで、恋の言葉のようですわね」
冗談めかして言ったエレノアに、ゼノは真顔で返した。
「そう聞こえたなら、それで構わない」
沈黙が流れる。
月明かりだけが、ふたりを包んでいた。
⸻
税制改革は、静かに始まった。
だがそれは単なる制度の変更ではない。
“恐怖の支配”から“信頼の統治”への転換だった。
そしてその中心には、ひとりの誇り高き令嬢と、
彼女を信じきった一人の男がいた。
税を変え、土地を変え、人を変える。
だが――
ふたりの距離もまた、静かに変わり始めていた。
それは、まだ言葉にならない。
けれど確かに、温かい何かだった。




