【第20話 隠された二重帳簿】
「誇り高き悪役令嬢たちの邂逅」
――どこか幻想的な薔薇庭園。
世界線すら超えた、優雅なる茶会の席。
そこに並ぶのは、二人の悪役令嬢。
一人は追放された才女。
一人は追放されそこねた自称悪役。
「ごきげんよう、エレノア様」
豪奢なドレスを翻しながら、エリザベート・フォン・ローゼンクロイツは優雅に微笑んだ。
「噂はかねがね伺っておりますわ。
追放されながらも、その才覚で辺境を支え、国を揺るがす存在になられたとか……」
「恐縮ですわ」
静かに微笑むエレノア・フォン・アウグスト。
その眼差しは凛として、揺るぎない。
「ですが、あなた様こそ。
“悪役になろうとしても崇められてしまう令嬢”とお聞きしました」
「そうですのよ!」
エリザベートは扇子をぱたりと閉じた。
「わたくし、誇り高き悪役令嬢を目指し、日々高笑いと嫌味の練習に励んでおりますのに……
なぜか感謝され、尊敬され、殿下にまで溺愛されてしまいますの!」
「それは……それは……」
エレノアは一瞬言葉を探し、そして微かに微笑む。
「それはきっと、エリザベート様の“誠実さ”が滲み出てしまっているのだと思いますわ」
「まあ!?
悪役にとってそれは最大の敗北ですわ!」
「ですが、悪役とは本来“強く、美しく、信念を持つ存在”」
エレノアは夜風に揺れる薔薇を見る。
「たとえ立場が違えど、私たちは同じです。
己の美学を貫こうとする者――それが悪役令嬢ですもの」
エリザベートの瞳が、きらりと輝いた。
「まあ……エレノア様、なんとお美しいお言葉。
さすが追放系悪役令嬢の鑑ですわね」
「エリザベート様の“追放されそこね奮闘譚”も、多くの方の励みになるでしょう」
「うふふ……
ではこういたしましょう」
エリザベートは胸に手を当て、朗々と宣言した。
「追放から這い上がる令嬢、エレノア様。
追放を目指して空回る令嬢、このわたくし。
正反対でありながら、誇り高き悪役令嬢として――
共に物語を盛り上げてまいりましょう」
「喜んで」
エレノアは静かに頷いた。
「どのような道であろうと、誇りを失わない令嬢の物語は、必ず誰かの心に届きます」
読者の皆さまへ
エリザベート様の
『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』は
✔ コメディ×悪役令嬢
✔ 空回り貴族ムーブ
✔ 断罪されたいのにモテる地獄
という、全く新しい“悪役令嬢の地獄絵図”をお楽しみいただけます。
一方で――
エレノア様の物語は
✔ 追放×覚醒
✔ 知略×逆転
✔ 静かな誇り×冷徹王都
という、美しくも力強い覚醒譚。
どちらの令嬢も、
違う形で“悪役令嬢の美学”を示しております。
どうぞ、両方の世界で
誇り高き令嬢たちの戦いと愛と意地を、見届けてくださいませ。
エリザベート様、エレノア様――
あなたはどちらの悪役令嬢に心を奪われましたでしょうか?
それとも……
両方推し、ですわね?
【第20話 隠された二重帳簿】
カーネス中継地の存在が判明してから、城内の空気は一層緊張を帯びていた。
表の業務はこれまで通り遂行されているが、水面下では別の戦いが静かに進んでいる。
エレノアの指示により、密偵たちは“黒い管”の入口周辺を慎重に監視しつつ、その周辺に出入りする人物の動向を記録し続けていた。
「出入りする馬車の刻印をすべて記録しています。だが、同じ印の馬車が二つの帳簿に別々の内容で記されています」
報告を受けながら、エレノアは小さく息を吐いた。
「やはり……偽装ではなく、管理の二重化ですね」
「二重化?」
ロイドが問い返す。
「はい。表向きの帳簿と、裏の帳簿。この二つが同時に存在している可能性が高いです」
「つまり、表では正常を装いながら、裏で別の流れを作っていると」
「まさに、その通りです」
単なる横流しではない。
それは“組織としての意志”がなければ成立しない仕組みだった。
⸻
数日後、密偵から緊急の報告が届いた。
「軍師様……帳簿を、入手しました」
その声には緊張と疲労が滲んでいる。
差し出されたのは、二冊の帳簿。
一見すると同じ形式、同じ書式。だが中身はまったく違っていた。
エレノアは静かに表紙を撫でる。
「これが……証拠なのですね」
まず、表帳簿。
そこには「王都緊急備蓄への一時移送」「調査後返還予定」と記されている。
そして、裏帳簿。
「……これは」
ページをめくるにつれ、空気が凍りついた。
そこに記されていたのは――
「氷狼実験用魔力触媒」
「術式核素材搬入」
「境界域誘導試験費用」
明らかに、治安目的では説明のつかない項目ばかり。
「氷狼“実験”……」
ロイドが呟く。
「彼らは本当に……辺境を使っている……」
「ええ」
エレノアは裏帳簿を閉じた。
「表向きは監査、裏では実験場。
私たちの土地を、研究施設の一部として扱っているのです」
ゼノが静かに拳を握った。
「ここまでくれば、偶然ではないな」
「偶然ではありません。
これは明確な“侵略準備”です」
作戦室の空気が、一瞬で変わった。
怒りだけではない。
冷静な決意が広がっていく。
⸻
「この帳簿はどうする?」
ロイドの問いに、エレノアは断言した。
「保全します。王都への“切り札”として」
「今すぐ突きつけないのか?」
「いいえ。まだです」
彼女の目は静かだった。
「証拠とは、使うタイミングによって刃にもなるし、盾にもなります。今はまだ、その時ではありません」
ゼノが頷く。
「見せるのではなく、握っておく」
「はい。そして――」
エレノアはゆっくりと言葉を継ぐ。
「この帳簿こそ、王都が本気で隠したがっている“核心”です」
⸻
夜。
エレノアはひとり、帳簿を開きなおしていた。
数字の列、品目の名前、日付のずれ。
そこには、人の命や暮らしを顧みない冷酷な論理が滲んでいる。
(辺境を統治し、改革するのではない。
実験し、観察し、支配する……)
王都にいた頃、彼女はその片鱗を感じていた。
だが今、こうして明確な形として目の前にある。
「……これが、あなたたちの正体なのですね」
小さく呟く声には、怒りよりも深い拒絶がこもっていた。
⸻
翌朝。
エレノアはゼノと並んで地図の前に立ち、黒い管の線を見つめる。
「この管の先にある施設。必ず突き止めます」
「その時、王都はどう出ると思う?」
「証拠を隠そうとするでしょう。
もしくは、その存在自体を抹消しようとする」
「なら、守り抜くしかないな」
「はい。この帳簿は、ただの紙ではありません」
エレノアはゆっくりと視線を上げた。
「辺境を“実験場”とした王都の、罪の記録です」
それは、宣戦布告に等しい認識だった。
⸻
隠された二重帳簿は、ようやく姿を現した。
そこに記されていたのは、治安でも秩序でもなく、“支配と実験”という明確な意思。
沈黙の軍師はその事実を、静かに受け止める。
だがその沈黙は、もはや服従ではない。
反撃の準備だ。
ついに明かされた「二重帳簿」。
あなたは、この内容を読んで、王都の行為をどう受け取りましたか?
ただの暴走か、それとも確信犯的な支配か――
もしあなたがエレノアの立場なら、この証拠をいつ、どのように使いたいと思いますか?
次話「エレノアの警告」では、この帳簿を巡り、ついに王都への“公式な言葉”が放たれます。
その時、軍師はどこまで踏み込むべきだと思いますか?




