【第19話 王都と繋がる黒い管】
ごきげんよう。
わたくし、誇り高き悪役令嬢――
エリザベート・フォン・ローゼンクロイツと申しますわ。
本作の主人公エレノア様。
追放されながらも、その真価を見抜かれ、辺境の地で花開いていく姿……
実にお見事ですわね。
王都に捨てられた令嬢が、
やがて国を揺るがす存在になる――
まさに“悪役令嬢の美学”を体現したようなお話ですわ。
ですが世の中には、
わたくしのように「悪役になろうとしているのに、なぜか追放されない」
困った令嬢もいるのですけれど。
ええ。
断罪されるために努力しているというのに、
なぜか感謝され、尊敬され、王太子に溺愛されておりますの。
理不尽ですわね?
その不本意極まりない奮闘の物語が
『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』
真面目に悪役を目指しているのに報われない――
そんな“方向性の違う悪役令嬢”の物語ですわ。
エレノア様のように
「追放から始まる英雄譚」がお好きな方には、
きっとわたくしの“追放されそこね人生”も
愉しんでいただけるはず。
どうぞこの機会に、
誇り高き悪役令嬢たちのそれぞれの物語も、
覗いてみてくださいませ。
それでは皆さま、
エレノア様の輝かしい逆転劇を、心ゆくまで――
あぁ殿下。
わたくしは本気で悪役を目指しておりますのよ?
ですから、溺愛はほどほどになさいませね?
【第19話 王都と繋がる黒い管】
不可解な補給経路の存在が明らかになって三日後。
エレノアは城の地下作戦室で、密偵たちから集められた情報を精査していた。
机の上には地図が広げられ、赤線と黒線が複雑に交差している。
赤は表の補給路、黒は“異常経路”――王都へ消えていく物資の流れだ。
「やはり、ここですわね」
エレノアの指先が、地図の一点に止まる。
王都と辺境の中間に存在する、小さな集落。
名目上はただの“中継地”であり、商人の休憩所としてしか記されていない場所。
「カーネス中継地……?」
ロイドが地図を覗き込みながら呟いた。
「貴族商人の補給中継所として登録されていますが、実際には通常の商人はほとんど利用していません」
「それなのに、物資の一部が必ずここで記録を途切れさせています」
エレノアは淡々と続ける。
「これは偶然ではなく、意図的な“節”です。
王都と辺境を繋ぐ、裏の輸送路」
「つまり……」
「表向きは交易路。実態は王都貴族派のための“動脈”です」
その瞬間、ゼノが口を開いた。
「黒い管だな」
作戦室にいた誰もが、その言葉の意味を直感で理解した。
「はい。王都と外を密かに繋ぐ非公式な補給経路。
私はこの通路を“黒い管”と呼びます」
エレノアの声音は冷静だったが、その視線は鋭い。
「この管を通して流れているのは、単なる物資ではありません。
情報、人材、そして……実験資材です」
「氷狼に使われた術式核か」
ロイドが顔をしかめる。
「おそらく、同一系統です」
エレノアは頷いた。
「黒い管の先にあるのは、王都のどこかに存在する“非公認施設”。
そこが魔術師団の裏研究拠点である可能性は非常に高いです」
一拍の沈黙が落ちた。
その空気を破ったのは、ゼノだった。
「実地確認だな」
「はい。ただし、正規兵を動かせば即座に感づかれます」
「密偵を潜らせるか」
「ええ。ですが今回は――私の監督下で行います」
「自らか?」
「現地の状況を直に把握しなければ、管の全容は掴めません」
ゼノは一瞬だけ眉を動かしたが、否定はしなかった。
「無理はするな」
「承知しております」
⸻
その夜。
月明かりに紛れ、二人の密偵がカーネス中継地へと向かった。
エレノアは城の高台で、送信石を手にその動きを追っていた。
「現在位置、確認」
『問題なし。表の倉庫に偽装された建物を発見』
「内部の様子は?」
『人の出入りは少ないが、馬車の通過が異常に多い』
短く息を吐く。
(やはり……これはただの中継地ではありません)
⸻
翌朝。
「軍師様、報告です」
密偵の一人が、疲れた顔で作戦室に現れた。
「倉庫の地下に隠し通路を発見しました。王都方面へと続いている形跡があります」
「入り口の構造は?」
「外見は補給倉庫ですが、地下は石造りで補強され、魔術障壁が張られていました」
ロイドが唇を噛む。
「完全に裏ルートだな……」
「ええ」
エレノアは地図に新たな印をつけた。
「ここが“黒い管”の入口です」
ゼノが低く呟く。
「つまり、王都は最初から、
この辺境を“表”と“裏”の両方から握ろうとしていたわけか」
「はい。正規の王命と、この黒い管。
二重構造による支配です」
そして、エレノアは断言した。
「――王都に、組織的背後勢力が存在します」
誰も否定しなかった。
なぜなら、ここまで明確な証拠が揃ってしまったからだ。
⸻
窓から差し込む朝日を眺めながら、エレノアは静かに呟く。
「黒い管は、命を運ぶ道です。
ですが、それはこの地を縛る鎖にもなり得ます」
「断つか?」
ゼノが問う。
「いいえ。今はまだ……」
彼女は首を横に振った。
「切るのではなく、流れの先を見極めます。
管の先端にこそ、王都の本心があります」
(そこにいる人物こそ、真の意思決定者――)
その存在を突き止めることが、ここからの目的だった。
⸻
エレノアは静かに地図を見つめる。
黒い線で描かれた“管”は、まるで王都から伸びる黒蛇のようだった。
それは今もなお、絶え間なく動いている。
だが、その胴を断ち切る刃もまた――
すでに、こちら側で研がれていた。
ついに姿を現した、“黒い管”。
王都と辺境を裏で繋ぐこの存在を、あなたはどう受け止めましたか?
単なる裏補給路なのか、それとももっと大きな「意思の通路」なのか。
その先にいるのは、貴族でしょうか? 魔術師でしょうか? それとも別の何かでしょうか?
次話「隠された二重帳簿」では、ついに決定的な証拠が手に入ります。
この黒い管の先にある真実――あなたなら、どんなものを想像しますか?




