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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第二章:王都の影

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【第18話 不可解な補給経路】

ごきげんよう。

このような高尚かつ劇的なお話の導入に、

わたくし――悪役令嬢の鑑、

エリザベート・フォン・ローゼンクロイツが

ひとこと添えさせていただきますわ。


“悪役令嬢”として追放されたエレノア様。

北方の辺境でその真価を開花させ、

ついには王都すら震え上がらせる存在となる――

なんと美しく、気高く、そして誇るべき生き様でしょう。


そうですわ。

これこそが真の悪役令嬢。

追放されてなお、己の価値で世界を黙らせる姿。


……羨ましいですわね。


ええ、とても。


なぜならわたくし、

どれほど完璧な悪役ムーブを実行しても、

なぜか追放されるどころか

「素晴らしい令嬢だ」「理想の王妃だ」などと

讃えられてしまう人生を歩んでおりますの。


誰のせいか、ですって?

……ええ、殿下でしょうね。

十中八九、あの空気の読めなさが原因ですわ。


そんな不本意な悪役人生を描いた物語が

『悪役令嬢になりたいのに、全部善行扱いされてしまうんですが!?』


断罪されたいのに溺愛され、

嫌われたいのに信仰され、

悪役になりたいのに英雄扱い――

世の理不尽を一身に背負う、気の毒で可憐な令嬢の物語ですわ。


エレノア様のような

“追放から始まる王道逆転劇”を愛する方には、

きっとわたくしの

“追放されたくてもされない地獄の奮闘”も

お楽しみいただけることでしょう。


どうぞこの機会に、

ふたつの歪んだ世界で懸命に戦う

悪役令嬢たちの物語をご堪能くださいませ。


そして殿下。

わたくしは本気で悪役として歴史に名を刻みたいのですから、

次は少しばかり協力なさってくださいませね?


……溺愛ではなく、断罪のほうで。

【第18話 不可解な補給経路】


 作戦統括官としての任命から二日後。

 エレノアは早朝から補給倉庫の帳簿に向き合っていた。


 分厚い革表紙を開き、過去一か月分の物資の流れを一行ずつ追う。

 穀物、薬草、矢束、鉄材、乾燥肉――どれもが規則正しく搬入されている、はずだった。


 だが。


「……数量が、合いません」


 小さく呟いた声は、ほとんど独り言に近い。

 しかしその目は、確かな違和感を捉えていた。


 扉の向こうで控えていたロイドが中を覗く。


「何か見つけましたか?」


「はい。グレンヴィル領向けに手配された補給物資が、帳簿上では“到着済み”になっていますが……倉庫内の実数と一致しません」


「誤差ではなく?」


「誤差では済まない範囲です。特にこの三回分……輸送記録は残っているのに、実物が確認できない」


 ロイドが眉をひそめる。


「横流しか」


「その可能性が高いですわ。ただし問題は、その“流れ先”です」


 エレノアは数枚の帳簿を並べ、指で印をつけていく。


「通常なら、王都を経由して再配分されるはずの物資です。しかし、ここを見てください」


 ロイドが覗き込む。


「輸送経路の記録が……妙に曖昧だな」


「はい。“王都緊急備蓄へ一時移送”とありますが、その後の返却記録が存在しません」


「つまり――」


「辺境向け物資が、王都のどこかに消えている。しかも公的な記録の皮をかぶって」


 エレノアは軽く息をついた。


「流れは断ち切りません。追います」


「追う?」


「はい。物資が“どこへ向かっているのか”を可視化することの方が重要です」


 そこには、単なる補給管理ではない意図があった。

 王都の真の狙いを暴くための布石である。



 その日の午後、密偵の一人が作戦室に呼び出された。


「この印章を見たことがありますね?」


 エレノアが差し出したのは、補給書類に押された不鮮明な刻印だった。


「……ええ。王都の商人組合ではなく、貴族専用の搬送印です。ですが、公に出ることはまずありません」


「この印章が、物資の行方の鍵です」


 エレノアは地図に視線を落とす。


「物資は王都を“通過”しているのではなく、王都の中のどこかに“吸い込まれて”います。私はここを“不可解な補給経路”と呼びます」


「目的地は……?」


「まだ断定できません。ただし、いずれ明らかになります。

 だからこそ、流れを止めずに泳がせるのです」


 密偵は頷き、静かに出ていった。



 夕刻。


 ゼノが作戦室を訪れた。


「首尾は?」


「補給経路に明確な異常が見つかりました。こちらをご覧ください」


 エレノアは地図を広げ、赤い線を引いた。


「ここ、ここ、そしてここ。三つの補給路が、王都を越えずに“途中で消えています”」


「普通じゃないな」


「普通である理由がありません。これは意図的に組まれた流れです」


 ゼノは腕を組み、地図を見つめた。


「王都内の特定施設……か?」


「可能性は高いです。ただ、まだ確証はありませんわ」


 一拍置いて、エレノアは静かに続けた。


「ですが、この流れの先に“氷狼実験”の術式資材があるとすれば……王都の目的は、治安ではなく支配です」


「つまり――準備段階か」


「ええ。辺境を好きな形に組み替えるための準備です」


 ゼノは低く息を吐いた。


「……軍師として最初の仕事、いきなり物騒だな」


「お覚悟くださいませ。これは、まだ序章です」


 その言葉に、冗談めいた色はなかった。



 夜。

 エレノアは補給帳簿を閉じ、ひとり窓辺に立った。


 王都の空を思う。

 かつて自分が仕えていた場所。


(誰にも気づかれずに、ここまで歪もうとしているのですね……)


 だが今、彼女はもう王都の令嬢ではない。


 グレンヴィルの軍師であり、守るべき責任を背負った者だ。


(この補給経路の先に、必ず“答え”があります)


 そしてその答えはきっと、王都の本心を暴く鍵になる。


 沈黙の令嬢の戦いは、剣ではなく数字と線によって静かに進んでいた。



 補給の違和感は、偶然ではない。

 それは意図された流れであり、仕組まれた導線だった。


 エレノアはその“見えない道”を、確実に追い始めていた。


【後書き】


 補給という一見地味な分野にこそ、権力の歪みは最も如実に表れます。

 あなたはこの「不可解な補給経路」を読んで、王都の狙いがどこにあると感じましたか?


 物資の行き先は軍事か、それとももっと別の目的か――

 次話「王都と繋がる黒い管」で、その輪郭がさらに浮かび上がっていきます。


 エレノアの軍師としての働き、ここからどう進むと思いますか?

 ぜひ、あなたの予想も教えてください。

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