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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第二章:王都の影

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第14話 偽りの忠誠

忠誠とは、誓うものではなく、試されるもの。

 だが、恐れに染まった忠誠は、容易く歪む。


 王都の影は、ついに辺境の内へと手を伸ばした。

 沈黙の令嬢は、その歪みを見逃さない。

王都から派遣された監査官一行は、グレンヴィル城に“拠点”を構えた。


 名目は共同調査。

 だが実態は、露骨な干渉だった。


 兵舎の配置、備蓄庫、訓練方針、警備の交代時間。

 あらゆる情報を「王命」の名で要求してくる。


「ここまで露骨だとはな」


 ゼノは執務室で、報告書を叩いた。


「軍事機密に近い内容まで“閲覧権”を主張してきます」


 ロイドの声も険しい。


「まるで、敵地の下見だな」


 エレノアは黙って、その書類に目を通していた。


(……やはり、動いているのは監査ではない)


 文面には規則や秩序を装った言葉が並ぶ。

 だが、その裏には一貫した意図が読み取れた。


 ――内部情報の洗い出し。


「ゼノ様」


 彼女は静かに顔を上げた。


「この監査団の動き、軍事ではありません」


「どういう意味だ?」


「彼らは“防衛力そのもの”よりも、

 “内部の協力者”を探しています」


「協力者……?」


「はい。

 この領内で、王都側に通じる者がいないかを」


 その空気が一瞬で張り詰めた。


「つまり……裏切り者の選別か」


 ゼノの声が冷える。


「ええ。そして恐らく――

 すでに存在しています」



 その夜。


 城の裏手小道を、ひとつの影が静かに歩いていた。


 兵士の一人――名はハロルド。

 生真面目で、口数の少ない男だ。


 彼は周囲を確かめたあと、薄暗い通路で立ち止まる。


「……来てください」


 しばらくして、黒い外套の人物が姿を現した。


 監査官の随行員だ。


「よく来たな。話は通っている」


「本当に……私は昇進できるのですか?」


「当然だ。

 王都への報告を続けていればな」


 ハロルドの目に迷いが浮かぶ。


「私はただ……生き残りたいだけです」


「忠誠とは、自らの未来を守るために誓うものだ」


 その言葉に、彼は小さく頷いた。


 それを、城の塔の影から――

 エレノアが静かに見つめていた。


(……やはり)


 悲しみでも怒りでもない。

 ただ、静かな確信。



 翌日。


「裏切り者がいます」


 エレノアは、はっきり告げた。


 ゼノとロイドが顔を上げる。


「確定か?」


「ええ。

 昨夜、監査団と接触している兵士を確認しました」


「誰だ」


「ハロルド。

 第三区警備隊所属」


 ゼノの眉がわずかに動く。


「……真面目な男だったはずだ」


「だからこそでしょう。

 『利用しやすい』」


 冷静すぎる分析だった。


「すぐに処分を?」


 ロイドの問いに、エレノアは首を振った。


「いいえ。

 泳がせます」


「……利用するつもりか」


「“偽りの忠誠”は、こちらの武器にもなるのです」


 ゼノは口元を歪めた。


「なるほど……罠にするか」


「はい。

 王都が何を欲しているのか、逆に探れますわ」


 それは危険な綱渡りだったが、

 エレノアの表情に迷いはなかった。



 数日後。


 監査官の態度はさらに高圧的になり、

 兵士の間では不信と緊張が広がっていた。


 だが、その裏で。


 ハロルドを通して渡された偽情報が、王都へと流されていく。


 配置変更、補給不足、虚偽の警戒体制――

 すべてはエレノアの設計通りだった。


(どうか、乗ってください)


 彼女の視線の先には、王都ではなく。


 “この地を狙う意志”そのものがあった。



 夕暮れ、城の外廊で。


「本当に、ここまで踏み込んで大丈夫なのか」


 ゼノがぽつりと漏らした。


「王都を敵に回すぞ」


「……敵に回したのは、あちらですわ」


 エレノアは静かに告げる。


「私たちは守るだけ。

 ただそれだけです」


 だがその背中には、

 守護だけではない――“戦う覚悟”が宿っていた。


偽りの忠誠は、王都へと情報を流す。

 だが、それすらも計算のうち。


 沈黙の令嬢は、

 欺かれる側ではなく、欺く側へと歩み始めていた。


 次に語られるのは、

 この裏切りを利用した“逆流する命令”である。


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