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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第二章:王都の影

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第13話 王命という名の介入

王命という言葉は、時に正義の仮面を被る。

 だが、その内側にあるのが支配であるならば、

 それはもはや命ではなく、侵略である。


 沈黙の令嬢は、

 静かにその矛盾を見抜きはじめていた。

グレンヴィル城に、王都の使者が到着したのは正午前だった。


 門前に立つその一団は、あまりにも“公式”の装いだった。

 王家の紋章を掲げた馬車、儀礼用の装束、そして傲慢さを隠しもしない視線。


「……始まりましたわね」


 窓辺に立つエレノアは、静かにその光景を見つめていた。


 城内ではすでに緊張が走っている。

 兵たちの動きも、どこか硬い。


 ほどなくして、使者は謁見の間へ通された。


 先頭に立つのは、王都貴族の一人――

 グラウス伯。


 王太子派に近い人物であり、かつてエレノアを「冷酷な女」と非難した男でもある。


「グレンヴィル辺境伯令息ゼノ殿、そして……元公爵令嬢エレノア殿」


 彼はわざとらしく頭を下げた。


「王都より正式な王命を携え、参上した」


 ゼノは玉座代わりの椅子に腰かけたまま、表情を変えない。


「聞こう」


「よろしい」


 グラウス伯は巻物を広げ、高らかに読み上げた。



〈王命

 昨今の辺境における魔物異常および魔術的干渉について、

 王都は調査および是正の権限を有する。


 よって、王都魔術師団を正式監査官として派遣し、

 グレンヴィル領はこれに全面協力せよ〉



 空気が静まり返る。


 誰もが、その文面の“異常さ”に気づいていた。


「監査官……?」


 ロイドの声が低くなる。


「つまり、軍事と内政への介入」


「その通りだ」


 グラウス伯は薄く笑った。


「これは国の安定のためであり、疑う余地はない」


 ゼノの視線が鋭くなる。


「王都はいつから、辺境の防衛体制にまで口を出すようになった?」


「それは……」


「通常、辺境伯家に一任されるはずの権限だ」


 ゼノの声には、王家への配慮すらなかった。


「それを越える理由を、説明してもらおう」


 グラウス伯は一瞬だけ、言葉に詰まった。


 だが、すぐに視線をエレノアへ向ける。


「……この地には、危険因子が存在する」


「危険因子?」


「過去に王命を誤用し、国家運営に混乱をもたらした者だ」


 皮肉を含んだ言葉。


 言うまでもなく、その指す先はひとつ。


 エレノアだった。


 だが彼女は、微塵も動じなかった。


「それは、どの記録に基づくご判断でしょうか?」


 静かで澄んだ声。


 感情ではなく、“問い”としての声。


「王太子殿下より正式な報告が――」


「王太子殿下は、私が処理した公文書に一度も目を通しておりませんが」


 その言葉が、謁見の間に落ちた。


 震えるほど冷静な事実だった。


「殿下は、私の起案した文書に署名なさるだけのお立場でした」


 ざわり、と空気が揺れる。


 グラウス伯の顔色が変わった。


「……それは言い過ぎだ」


「事実ですわ」


 エレノアは一歩、前に出た。


「もし異なる記録があるのなら、提示なさいませ。

 私は、王命の改竄など一度も行っておりません」


 その場にいる誰もが理解した。


 この令嬢は、逃げない。

 そして、嘘を吐いていない。


 ゼノが口を開いた。


「調査は拒否しない」


 その一言に、伯の表情が緩む。


 だが次の言葉で、その顔は凍った。


「だが、監査権は我が領地法の範囲内でのみ認める。

 軍備への介入、情報閲覧、兵の指揮系統への接触は不可だ」


「……それでは意味が――」


「意味はある」


 ゼノは断言する。


「王都が“協力”ではなく“支配”を目的としている場合、

 こちらも守るべき領民がいる」


 グラウス伯は口を噤んだ。


 代わりに、低く言う。


「……よろしい。ではその条件で調査を開始する」


 だがその視線は明らかに、敵意を宿していた。


 とくに、エレノアへと向けられていた。



 謁見が終わり、人々が退出した後。


 静寂の中で、ゼノがぽつりと呟く。


「来たな……“公式の圧”が」


「ええ」


 エレノアは淡く微笑んだ。


「ですが、想定内です」


「怖くはないのか?」


「怖さはありますわ」


 正直な言葉だった。


「けれどもう、王都の顔色をうかがう理由はありません」


 その視線は、まっすぐだった。


「ここは、私が守ると決めた場所ですから」


 ゼノは何も言わず、ただ深く頷いた。


 沈黙の令嬢は、

 ついに“王命”という名の首輪に抗い始めていた。


王都は、ついに公式の介入を開始した。

 だがそれは秩序ではなく、圧力であった。


 そしてエレノアは、

 自らの誇りをもって、その圧を受け止める。


 次に語られるのは、

 この監査の裏で動き出す“偽りの忠誠”である。


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