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『悪役令嬢に仕立てた結果、王都が滅んだ件』 ― 追放された令嬢は北方で花開く ―  作者: ゆう
第一章:沈黙の断罪

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【第10話 国境の闇――術師の気配を追う者たち】

 氷狼王の出現は、ただの災厄ではなかった。

 その背後にいる術師の影を追い、

 エレノアたちはついに国境の森へ足を踏み入れる。


 魔物の気配よりも冷たいもの――

 人の意志が生む“闇”。

 それは沈黙の令嬢に、さらなる試練を突きつける。


【第10話 国境の闇――術師の気配を追う者たち】


 翌朝。

 グレンヴィル城の作戦室には、いつになく緊張した空気が漂っていた。


 大きな地図が机に広げられ、

 兵士たちがその周囲に集まっている。


 ゼノが地図に指を落とすと、

 その一点に全員の視線が吸い寄せられた。


「……ここだ。

 氷狼王が現れた谷と、村人たちが避難した可能性が高い地点の中間」


 そこは、国境地帯の最も薄い防衛線――

 普段は監視兵がわずかに巡回するだけの“穴”だった。


「この場所に、術師が潜んでいる可能性がある」


 兵士たちに動揺が走る。


「国境に……? 本当に……?」

「隣国が絡んでるってことか……?」

「いや、まだ断定はできねぇだろ……」


「断定はしていない」


 ゼノが静かに言った。


「だが、氷結魔術の連続使用、魔物の誘導、

 そしてあの“黒い影”……」


 エレノアが口を開く。


「すべてを繋げると、

 “外部の術師”の存在が最も自然ですわ」


 その言葉に、作戦室は静まり返った。


 兵士たちは昨日の戦いを思い出し、

 無言で頷く者さえいる。


(この方たちは……

 わたくしの言葉を信じて動こうとしている……)


 王都では考えられなかった光景。

 エレノアは胸の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。



 その日のうちに、

 ゼノは国境偵察隊の編成を決定した。


「偵察隊は、俺を含めて五名。

 ……エレノア、お前も来るか?」


「はい」


 返答は即答だった。


 兵士たちが驚き、声を上げる。


「エレノア様!? 危険です!!」

「昨日の戦いの後ですし……」

「作戦室で指揮を――」


「……わたくし、机上だけで判断したくはありませんので」


 静かに放たれたその言葉は、

 戦場に立った者の覚悟だった。


 ゼノは満足げに頷く。


「よし。ならば――完全に“同行者”として扱う。

 危険な場面では俺の指示を最優先しろ」


「承知しました」


 兵士たちは、二人のやり取りに圧倒されていた。


(令嬢……のはずなのに……)

(ゼノ様と肩を並べてる……)

(あの方、昨日の戦いでも平然としてたし……)


 その評価はすでに、

 王都の“悪役令嬢”という誤解から遠く離れていた。



 数時間後。

 偵察隊は国境の森へ向かった。


 木々は高さを増し、

 風は鋭く、雪は音を吸い込むように降り積もる。


 エレノアはゼノの少し後方に位置し、

 周囲を一歩も見逃さない視線で観察し続けた。


「……気温がさらに下がってきましたわね」


「異常だ。普通、この時期にここまで下がらねぇ」


 兵士の一人が震えながら言ったとき――


 森の奥で、

 “青白い火”が揺れた。


「っ……!」


「止まれ」


 ゼノが手で制すると、全員が動きを止め、息を潜める。


 青白い火は、消えたり灯ったりを繰り返していた。

 明らかに自然の光ではない。


「魔術、でしょうか……?」


「可能性は高い」


 ゼノが剣に手を置く。


 だが、エレノアは森の奥へ歩みを進めようとして止まった。


(……音がしない)


 森は深く、雪が厚い。

 それでも、魔術の残滓が残っているなら、

 どこかに痕跡があるはず。


 しかし――

 この場には不自然な“静寂”があった。


「ゼノ様。

 あの光、わたくしには“囮”に見えます」


「囮……?」


「はい。この森の構造を考えると、

 あの光が見える位置は“誰かが見せたい場所”ですわ」


 兵士が汗をにじませた。


「ってことは……本命は別の場所……?」


「おそらく、右の斜面下。風の流れが違います」


 ゼノが目を細める。


「……確かに、違和感があるな」


 エレノアは雪をつまみ、指で擦った。


「こちら側の雪は、さっきより新しい。

 誰かが最近踏みしめた跡です」


 兵士たちが驚愕の声を潜める。


「……マジか……」

「全然気づかなかった……」

「令嬢っていうより……軍師じゃねぇか……」


 ゼノは短く言い切った。


「このまま光の方へ行けば、待ち伏せされる。

 本命は右だ」


 その時――


《チリン……》


 昨日と同じ、“鈴の音”。


 全員が構える。


 だが、今度は違った。


 その音は、エレノアたちの背後――

 帰り道へ向かって響いた。


「後ろだ!!」


 ゼノの叫びと同時に、

 黒い影が木々の間を走り抜ける。


「あれは……!」


 エレノアははっきりと見た。


 黒ローブの術師。

 そしてその袖口に光る、氷結の紋章。


(この紋章……見覚えがある……!?)


 その瞬間、影はふたたび森へ溶けた。


「追うぞ!!」


 兵士たちが一斉に走り出す。


 だが、エレノアの胸に別の衝撃が走っていた。


(あれは……

 王都の魔術師団の紋章……!)


 氷結の術師は、

 “隣国の者”ではなかった。


――では誰が。


(まさか……

 王都が、辺境を……?)


 エレノアの指先が冷たく震えた。


 新たな敵は、

 国境の外ではなく――“内側”から迫っていたのだ。


 森の奥で見つけた術師の影。

 その袖口に刻まれていたのは、

 隣国ではなく――「王都」の紋章だった。


 辺境を狙う脅威は、外ではなく内に潜む。

 沈黙の令嬢は、その真実に最初に気づいてしまった。


 次に語られるのは、

 王都との確執と、

 ゼノの領地を揺るがす“裏切りの始まり”。


第11話


「王都の影――沈黙の令嬢と裏切りの証」

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