第一話 売れないアイドル
第一話は少し現実味がある、苦しい話なので、苦手な方は注意してお読みください。
コンサートホールに響き渡る、無数の音。サイリウムを振る、観客たちの熱。そして、その思いに応えるかのようにマイクから共鳴する、アイドルの歌声。
私、水島海波は、初めてアイドルのライブに行ったその時から、アイドルに強い憧れをもっていた。
私もステージに立てば、あのアイドルたちのように輝けるかもしれない。観客たちに、笑顔を届けられるかもしれない。
そのような切実な希望をもって、私はアイドルを目指して日々努力した。そして、アイドル事務所のオーディションに受かり、私は念願のアイドルになった。
私は、名前の[海波]から[波]をとって[なみりん]と呼ばれた。ライブやシングルも出して、これで私はキラキラ輝くアイドルに...と思っていたけど、現実はそう甘くない。
私はグループで活動するのに向かないらしく、ソロアイドルをやっている。そのため、後輩たちのグループにどんどん置いていかれ、事務所では[売れないアイドル]とまで呼ばれるようになってしまった。
たしかに、ソロではグループと比べてできることは限られてくる。でも、ソロでしかできないことも、きっとあるはずだと、日々模索して努力を重ねた。
しかし、そんな日々にも、限界が近づいてきた。
先輩たちからは『早く売れろ。事務所に迷惑かけてるの、分からないの?』と言われ、後輩たちからも『先輩、自分たちより売り上げないってほんとですか?』と遠回しに罵られる。事務所も『水島さん、いつになったら私たちに利益をもたらしてくれるのですか?』と問い詰めてくる。
私、何のためにアイドル目指してたんだっけ?
こんな辛い思いがしたくて、アイドルになった訳じゃない。アイドルになって、ステージの上で輝き、みんなを笑顔にしたくて始めたのに、実際はこの様。その時私は、次のライブの売り上げが悪かったら、アイドル事務所を辞めようと決めていた。
そして運命のライブ当日、観客は500人ほどだった。後輩たちのライブでも観客は10000人はいるのに、私のファンはたったの500人。この数字は事務所のどのグループよりも低い。半年前の前回のライブが400人弱だったから、増えた方ではあるが、それでもまだ少ない。
私はその日のライブを、卒業ライブに変更し、アイドル事務所を辞めた。
『はぁー、やっぱり私じゃ無理なのかな?』
自分で立てた夢にも関わらず、自分から逃げ出すなんて、私はなんて卑怯なんだろう。自分の不甲斐なさに、今すぐに泣きそうになる。このまま苦しむくらいなら、いっそ...。
私は歩道橋の上にのぼり、下の道路を見下ろした。私がどうなろうと、普段と変わらず、忙しなく車は通り過ぎていく。私は車たちに思いを馳せ、歩道橋の手すりに立った。
『どうか来世では、もっと、人間らしい生活をさせてください。』
私は手すりから飛び降り、車にぶつかる感覚とともにこの世を去った。
第一話、読んでくださりありがとうございます。
第一話は少しむごい話ですが、これからハッピーな展開になると思われますのでよろしくお願いします。