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輪廻の風  作者: 夢氷 城
最終章
97/158

風炎と闇の渦

過酷な修行


魔族の襲撃から10日が経った。


王都バレラルクの復興は手つかずで、瓦礫と焼け跡が広がる。


民衆は地方へ集団避難し、騎士団や保安官を辞職する者も後を絶たない。


残った数少ない魔法戦士達は、次の襲撃に備え、血の滲む鍛錬を続ける。


雨は止み、冷たい風が吹く。


「1071…1072…1073…!」

ノヴァは山に篭り、片手腕立て伏せで汗を滴らせる。


全身がびしょ濡れで、地面に汗が染みを作る。


一方、エラルドとラベスタも山で鍛錬。

エラルドは全身を鋼鉄に硬化し、ラベスタの斬撃を前腕で受け止める。


ガキンガキンと金属音が森に響く。エラルドが蹴りを繰り出すと、ラベスタが紙一重で躱す。


「ラベスタ〜、やっぱお前強えなあ!流石、バスクに勝っただけのことはあるぜ!」


「お前こそね、エラルド。」


2年前は敵だった二人が、今は良き仲間だ。


エンディとカインは王都の端、人里離れた荒野で修行。


強すぎる力は周囲を死なせる危険があるためだ。


「うおおおっ!!」


「おいおい、そんなもんかよ!もっと全力でかかって来いよ!」


エンディの爆風とカインの爆炎がぶつかり、地面が抉れ、空気が震える。


万物を消滅させる炎と破壊する風の衝突は天変地異そのもの。


エンディが炎を掻き消しても、カインが絶え間なく放ち、エンディが風で打ち消す。互角の応酬が続く。


「はーい、そこまで!」


「2人とも、お疲れ様!」


ラーミアとアマレットが乱入。

あまりに唐突で、エンディとカインがあたふたする。


「おいおい、急に来んなよ!」


「そうだよ、危ねえだろ!?」


二人が叫ぶ。


「大丈夫だよ、アマレットがちゃんと防御の結界を張ってくれてるから!」ラーミアが言った。


「そうそう。2人とも、張り切るのはいいけど、少しは休憩しなさいよ?」と、アマレットがルミノアを抱っこしながら言った。


アマレットの結界は半径15メートル。


強固だが、エンディとカインの力なら容易く破れる。



それでも平然と現れる二人に、エンディとカインは「肝っ玉座ってるな」と呆れる。


ルミノアはそんな状況でもスヤスヤ眠る。



「まあ、休息も大事ってのは分かるけど…体動かしてないと落ち着かないんだよなあ。」エンディが言う。


「ほら、ご飯いっぱい作ってきたから、みんなで食べよ!」

ラーミアがニコリとボートバスケットを開ける。

大量のサンドイッチが並ぶ。


「悪いな2人とも。実はちょうど腹減ってたんだ。」カインの腹がグーと鳴り、照れる。


「ルミノアちゃん!可愛いなあ!」

エンディが大声で覗き込むと、ルミノアが目を覚まし、ワンワン泣く。


「おいエンディ!てめえ俺の娘を泣かせるたあ良い度胸してんじゃねえか!」カインが冗談めかす。


「お〜よしよし。」

「ルミノアちゃ〜ん、泣かないで〜!」

アマレットとラーミアがあやし、ルミノアがキャッキャ笑う。


エンディは懐かれず、しょんぼり。


5人で和気藹々と食べる。

サンドイッチを平らげ、エンディとカインがウトウト。

ルミノアを再び眠らせ、アマレットとラーミアが優しく見つめる。



「なんかさ…こんなこと言うの不謹慎かもしれないけど、穏やかだね。」ラーミアの言葉に皆が頷く。


10日前、王都が崩壊寸前だったとは思えない静けさだ。


「穏やかで平和…でもそれって錯覚だよな。現実には世界の安寧を脅かす恐怖が到来している…。今俺たちがこうして仲間や家族と楽しくメシ食ってる当たり前の様に思える日常って、実は奇跡なんだよな。俺たちの命なんて、本当は明日をも知れないんだ…。」

エンディが真剣に言う。


ラーミアとアマレットが曇った表情になる。



「今ある幸せを噛み締めて生きるのも大事だけどよ…一番大事なのは現状に甘んじず、今ある幸せを守り抜こうとする強い意志とブレない心だよな。」

カインが現実的に続ける。


ラーミアは考え込む。


次に魔族が来たら、自分が命を投げ出し封印すれば皆を守れる。


10日前、魔族が怯んだ隙に呪文を放たなかった自分を悔やむ。


自己犠牲の精神が強まる。


エンディはラーミアの塞ぎ込んだ表情を見て、思考を察する。



「ラーミア、余計な事を考えるなよ。」


「…えっ?」ラーミアがドキッとする。



「魔族どもは1人残らず、俺が全員ぶっ飛ばす。だからラーミアは、俺たちの傷を治すことだけを考えてくれ。安心しろよ…俺は何があっても、絶対にラーミアを護るから。約束する。」エンディが優しく笑う。


ラーミアは涙を堪え、「ありがとう…エンディ。」と震える声で返す。


暖かく穏やかな風が吹く。



だが、急に冷たく不気味な風に変わる。


ルミノアが目を覚まし、ギャンギャン泣く。怯えているようだ。


「なんだ…急に寒くなったぞ…?」

エンディが異変を察知。


「この感じ…まさか奴らが!?」

カインが魔族の再襲撃を確信し、取り乱す。


エンディが血相を変え、王宮へ走る。


王宮方向にただならぬ気配を感じた。


予感は的中。


王宮庭園の地面に真っ黒な渦が現れる。


直径10メートルから100メートル超に拡大。


光明のない、隔絶された空間が広がる。

8体の冥花軍と500体を超える魔族軍勢が潜む。


「余はナカタム王国が気に入った。よってこれより、この地を我らの世界の中心地へと定める。子供達よ…いざ行かん、濁世の血の海へ…!」


不気味な声が闇に響く。悍ましいシルエットが浮かび、闇の濃度が一際深い。


魔族、再び来襲!

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