炎の刻紋と冥花の血宴
大苦戦
ジェイドと交戦中のノヴァとエラルドは苦戦していた。
全身を鋼鉄に硬化したエラルドと黒豹化したノヴァが同時に攻めても、ジェイドはピンピンしている。
漆黒のローブに埃が付いた程度で傷一つない。
ラベスタは早々に地に伏し、ノヴァはチラチラと彼の安否を確認しながら戦う。息が荒く、焦りが滲む。
「アヒャヒャヒャヒャ!血祭りだぜワッショイ!話にならねえなあてめえら!!」
ジェイドが狂ったように笑う。花言葉の能力を使わず、純粋な戦闘力だけで3人を圧倒していた。動きは異様に速く、攻撃は容赦ない。
「ノヴァ!こうなったら仕方ねえ…"あれ"を使うぞ!」エラルドが叫ぶ。
鋼鉄の体に汗が滴る。
「何だよ、"あれ"って?」ノヴァが返す。
「決まってんだろ…隔世憑依だよ!てめえも会得済みなんだろ??2人で隔世憑依して、一気にこいつを叩くぞ!もうそれしかねぇ!!」エラルドが功を焦る。
「そうだな…分かった。一時的にお前と手を組んでやるよ。まあ、残りの魔族どもは全員俺が片付けるけどな?」ノヴァがニヤリと笑う。
余裕を見せるが、目には緊張が宿る。
ジェイドは「隔世憑依」という言葉にピクリと反応。
「隔世憑依…だとぉ?おいおいまじかよ!そんなデータは無かったぜ!?この2年の間に、てめぇらも会得しやがったのか!」驚きと興奮が入り混じる。
「おい…データってのは何だ?俺たちのことも色々知ってるみたいだしよ、いつの間に情報収集なんてしたんだ?」ノヴァが尋ねる。
「教えるわけねえだろ。んなもんてめぇらで勝手に想像しろや。それよりもよぉ…隔世憑依を匂わす発言なんかされちゃあ…俺もボチボチ本気出さなきゃいけねえなぁ!?遊びはここまでだ…一気に殺るぜ??」
ジェイドが殺意を剥き出しにする。天生士の隔世憑依を警戒しているようだ。
ジェイドの両眼がピカッと黒光りした。
ノヴァは生命の危険を察知し、ジェイドの視線から逃れる方向へ高速移動。英断だった。
視線が向けられた場所が黒い炎に包まれ、瞬時に焼け野原となる。
地面が溶け、焦げ臭さが漂う。ノヴァとエラルドはゾッとした。
「俺の司る花は"ジャーマンアイリス"!花言葉は"炎"だ!俺の視界に入った万物は、闇の力を配合した黒い炎で焼き尽くされる!!」ジェイドが得意げに叫ぶ。
ノヴァは気絶したラベスタの元へ急ぎ、片手で抱え、もう一方の手でエラルドを強引に掴む。
「ノヴァ!てめえなにしやがる!?」エラルドが困惑する。
「一旦退くぞ!」ノヴァが決断。ジェイドの能力が危険すぎると判断した。
2人を抱え、凄まじい速度で逃げる。
「おいおい逃げてんじゃねえよ!つうか逃げられねぇよ!?遠くへ逃げようとすればする程に…破壊領域は広くなるんだからよぉ!!俺の視界に入ってる時点で、てめぇらもう詰んでるんだよ!」
ジェイドが強大な黒炎を放つ。
王都に広大な焼け野原が広がる。ノヴァ達は灰になったのか、回避できたのか、ジェイドには確認できなかった。
一方、モスキーノとルキフェル閣下の戦いは決着がついていた。
ルキフェル閣下の圧勝だ。
モスキーノは全身血まみれで白目を剥き、地面に横たわる。
息は微かで、虫の息。
「先程…貴方を要警戒人物の1人に指定した私の判断は正しかったと言いましたが、撤回致します。どうやら私は、貴方を随分と買い被っていた様です。」
ルキフェル閣下が冷たく言うが、モスキーノの耳には届かない。
「ヴァンパイアの皆さん、仕上げの時間ですよ。」
ルキフェル閣下が唱えると、空から100体の黒褐色の集団がコウモリの羽をパタパタさせ、「キィーーッ!」と奇声を上げて王都に舞い降りる。
白い牙で魔法戦士や市民を噛み、血を啜る。
「うわあぁぁ!!何だこいつら!?」
「やめてくれーー!!」
「痛え!!痛えよぉぉぉ!!」
断末魔が響き渡る。ヴァンパイア達は血を美味しそうに味わう。
「まさか、こんなにもあっさりと制圧出来てしまうとは…。いつの時代も、人間とは本当に愚かで醜く、弱い生き物ですね。」ルキフェル閣下が悲しげに呟く。
すると、上空から爆音が轟いた。
戦闘機が低空飛行で猛スピードで着陸態勢に入る。
ルキフェル閣下の前方30メートル先に緊急着陸し、1人の男が飛び出し、瞬時に眼前へ立つ。
エンディだ。
「貴方は…エンディさんですね?」
ルキフェル閣下が不遜な笑みを浮かべる。エンディは怒りに満ちた表情でルキフェルを直視する。王都の焼け跡と血の臭いが二人を包む。
エンディはみんなを救えるか?




